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小説「夜の火」

私は疲れていて死にたかった。

私は山道の、坂を登って下って谷を上がって、また越えて、何処だか解らないような場所に生れた。そんな辺鄙な場所でまともな出産が出来たなんて信じられない。だが、私は生まれてきた。辺鄙で、けったいな風習ばかりで。嫌になって飛び出した麓の街で、同じように、いやもっと堪えられない思いをして、で、死にたかった。

死にたかった。しかし、私が死んで体が山に引戻しになったら、やっぱり「おつかいさん」が私を連れに来るだろうか、と思うと、おぞけてしまって、なんとか今に踏みとどまろうとする。

「夜の火」。夜に、夜の深い濃い空気を火で燃やしたら、こんな色の焔が立つだろう。と言うことと、月や星や木の葉が照り返すのに当たって目立つようにで、おつかいさんの頭飾りに使われる石はそう呼ばれていた。夜の火。おつかいさんはあの世の使いで、もちろん本当に使いな訳じゃなく、そういう葬式をするんだ。そういう家があるんだ。夜の火を頭に飾って、暗い村の中を、音もなく過ぎていく一家。

私の体はおつかいさんに運ばれて、林の奥で燃やされて、そのまま野晒しにされる。お墓だけは、あとで作ってもらえる。

そういうのが嫌で嫌で。無目的に、習慣を繰り返すだけの人たちと線を引きたくて。私はここで踏ん張る。青い石を見ると、生きねば、と思う。

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