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サイレン

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サイレン 4 「青い世界の人」

サイレン 4 「青い世界の人」

「これは、抽象画でいいのかな。」
 私が言うと、サイレンはちょっとムッとした顔をした。
「俺はドローイングが苦手なんだ。ペインティングしか出来ないんだ。」「どう違うんだっけ?」
「形を作るのと色を塗るのの違いだ。俺は形は上手く捕らえられないんだ。ちゃんと絵の勉強したわけじゃないからな。独学なんだ。だから、俺が描くとたいてい抽象画っぽく見えるんだよ。」
 下手だから。とサイレンは言った。
 そんなこ

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サイレン 3 『青い世界の人』

サイレン 3 『青い世界の人』

地球と同じ大きさの紙に、サイレンが絵を描いている。青い絵の具で。青い絵筆を走らせている。さらさらと、軽快に。世界が青く塗り直されていく。
それにしても深い青だ。真夜中みたいに冷徹で、人間そのものの重さと同じくらい永い青だ。世の中に起こりうるすべての瑣末なことを、一瞬で蹴散らしてしまうほどの、文句の言えない青なのだ。
 サイレンは、私が見ているのに気付かないくらい一心不乱に筆を走らせている。かなり必

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サイレン 2 『サイレン』

サイレン 2 『サイレン』

「長いメールだね。」
 とサイレンが言った。
「メールじゃないよ。ライティング。」
「ライティング?て何?」
「書いてるの。」
「何を?」
 と言われると困る。私は日常的に書いている。思いついたことを思ったその時に書けるように、いつも携帯メールを使って書いていて、溜まったらPCアドレスにメールして保存している。だからといって、そんなに意味のあることを書いているわけではない。どちらかといえば意味のな

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サイレン 1 『サイレン』

サイレン 1 『サイレン』

 私は苛苛していた。何も今に限ったことじゃない、最近はわりといつも苛苛している。何か上手くいかないことがあるわけじゃない。だけど、何か面白くなかった。いつだって。この感じは大学に入ってからずっと続いている。なんだろう。年齢的に苛苛する時期だって先生は言う。言われたらそんな気もする。要するに私は最近「年齢的に」苛苛していた、多分深い意味は無い。
 その時私は携帯の画面に集中していた。講義はすべて終わ

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