周回遅れだけどギターソロ・スキップ問題
いつの話だよと突っ込まれそうですがnote書き始めたの最近なので今更ですけども言及しようかと思います。
「サブスクだから、スキップできるので飛ばす」→中高年「ひどーい!!」
果たしてそうでしょうか。音楽のトレンドはテクノロジーの進化と共に変化してきました。現在クラシック・ロックと呼ばれている70-80年代のポップ・ミュージックは基本形として
イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ→2ndバースのAメロ→Bメロ→サビ→ギターソロ→ブリッジ→サビ→アウトロ
こういう流れで大概作られています。ラジオでかけてもらうには3分くらいでまとめないといけないという前提があるから、3分の間にこれ全部入れてました。イントロ長すぎるとラジオで敬遠されるのでイントロは20秒以内にしましょうという制約もありました。
12インチ・シングルという魔物
アナログ・レコードの時代、アルバムは33回転のLP盤、シングルは45回転の7インチがデフォルトでした。33回転だと片面Max 23分程度です。7インチのシングルは45回転だと5分も入りません。その制約の中でみんな、楽曲を作っていました。しかし、80年代に12インチ・シングルのブームがやってきます。12インチ・シングルというのはLPレコードと同じ12インチサイズで、回転数はシングル盤と同様の45回転。片面15分程度まで入ります。そんなものが登場すると、猫も杓子も12インチ・シングルでのリリースをし始めました。現在はクラブ・シーンでしか見かけない12インチ・シングル、そうです、クラブ系には向いてるメディアなのは確かなのですが、お前らロックのくせになに12インチ・シングルとか抜かしてんのみたいなバンドが山ほど出てきました。
先人はいつも、炎を発見した原始人と同じムーブをする
片面15分で両面合計30分のシングル盤。それをどう使うのが適切なのか、わかってる人はいませんでした。それまでなかったものですから、それまでの概念で取り組めば失敗します。
だけどミュージシャンだってみんなが天才なわけじゃなく、大概はアイディアをたくさん持ってる凡人たちです。新たに発見されたものを与えればたちまちイノベーションが起こるかと言ったら、起こるわけがないのです。ほとんどのバンドが失敗を繰り返し、その失敗したレコードをリスナーたちは限られたお小遣いで購入し、サブスク時代と違って買ったものしか聴けない環境下で、お金を出して買ったからには好きになりたいと繰り返し聴き続け、その死屍累々を踏み越えた先に「やっぱクラブ系が使うのが正解だよね」という、現在の結論があるのです。
12インチ・シングルは大体、3曲-5曲入りが多かったのですが、初期の頃はそれこそ3曲入りの、アルバム収録曲をシングル・カットした(7インチでリリースされた)曲の12インチ・シングル・バージョンという、ただ冗長なだけの退屈な曲が1曲入った片面をじっと聴くしかありませんでした。その時期ですね、ギター・ソロがどんどん長くなっていったのは。
そのパート、本当に必要ですか?
12インチ・シングルに収録するのを意識して、イントロが7インチの2倍になっていたり、1stバースから2ndバースへの間奏が30秒くらいあったり、2ndバース明けからブリッジに行くまでの道のりが異常に長かったりと、12インチ・シングルの曲というのは本当に全てがびろーんと長く、聴いていて疲れるものが多かったです。そもそも、そのパート、本当に必要だと思って入れてる?ってパートだらけなのです。イントロってそんなに長くなくてもよくない?間奏ってなきゃいけないわけでもないよ?ギター・ソロっていつになったら終わるの?そんな楽曲だらけなのが12インチ・シングル全盛の時代にありました。ジジイの話が長いのと同様、バンドは歳をとりながらどんどん曲が長くなっていきました。
CDプレイヤーの台頭
CDプレイヤーが発売されてから、みんなのお家にやってくるまで、これは結構、幅があったので○○年頃と書くと「違う!」言い出す面倒くさい中高年が出現しそうなのでアレですが、我が家にCDプレーヤーがやってきたのは1986年頃だったと思います。でも、80年代にCDプレーヤーで音楽を聴いてると言うと面倒臭い中高年どころか若者でさえも、まるで悪魔に魂を売った者を見るような目で私を眺めてきましたし、CDで音楽を聴くような人間は音楽好きではないというレッテルを貼られることもしばしばでした(実話ですよ。盛ってませんよ)。ちなみに、日本のレコード会社でアナログの生産をやめてCDのみの生産にシフトした初の会社はSONYで、1989年のことでしたが、その当時消費者の反発は強く「CDプレーヤーなんて持ってねえよ💢」という人たちだらけの時代に随分大胆なことをやるな、と思いつつ、私はSONYのCDプレイヤーを使っていたので「これで聴きたいものがどんどんCD化される❤️」と小躍りしましたが、周囲で喜んでる人は私以外にいませんでした。
CDの普及と12インチ・シングルの消滅
まあ消滅はしてないんですけど、SONYがレコードを作るのやめたので、当然12インチ・シングルも作られないわけです。クラブDJたちはアナログ中心でかけますから、クラブ系のジャンルでだけは12インチのアナログ盤が引き続き残り、今に至っています。
シングル曲の適正化
12インチ・シングルという魔物が姿を消したことにより、謎の冗長な曲は姿を消すかに見えましたが、長いものを作る努力を何年も続けてきた人々は中々短くできないんですね、長いギター・ソロや長いブリッジみたいな曲構成は消滅しませんでした。というのも、アナログ・レコードがなくなってCDになった結果、全体収録時間が40分を超えて、それこそ70分くらいまで入るようになりました。アルバム制作時に「1曲3分前後でだいたい10曲くらい」で作っていたのに1枚で70分入ると知ると、30分の作品じゃもったいないという謎の思考回路が働いてしまう人間は少なくなく、1曲の長さは3分前後からどんどん伸びて4分以上が普通、になっていきます。その中には当然、やたらと長いギター・ソロも含まれます。いやいいんですよ、お好きな方はたくさんいるのも知ってるし。だけど、多くの人たちは忘れてたんです。「そのパート、本当に必要ですか?」と自問するのを。
90年代オルタナ・ブームの到来
90年代って今から30年前とかの話なので、その辺りも十分昔話だし、その辺もクラシック・ロックに入れていいんじゃね?と思う人もいるかもしれませんが、90年代の音楽をクラシック・ロックに含めると多分、クラシック・ロックが好きな中高年が怒り出します。なぜかと言うと、曲の構成が全く違うものになってくるからです。例えばウィーザーのメジャー・デビューは1994年。ウィーザーは当時、クラシック・ロック好きから最も「どこがいいのか全くわからないバンド」として扱われていました。余計なものを全て削ぎ落としたミニマルなサウンドは当時の若者(今はそっちも中高年)から絶大な支持をされましたが「ヤマなし(クライマックス)、オチなし」のような何の変哲もないメロディがいいだけの楽曲と捉えた人は少なくなかったです。イントロも短く、ギター・ソロはなく、下手したらブリッジも省略されている。要らないものはどんどん取っ払って自由に楽曲を作っていったその姿勢は革新的でさえあったはずなのですが、当時の「長年のロックファン」にとっては「いいとこ全部削ぎ落としたバンド」に見えたようです。
イントロ0秒、全体で2分半ちょっと、ギター・ソロなし、ほぼアウトロもなし。
イントロ10秒程度。全体で3分半というのはサブスク時代にも合っている。この曲が後のUSインディー・エモの原型と言える。
全体で2分ちょっと、イントロなし、クライマックスになるブリッジなし、アウトロもなし、ひたすらキャッチーなメロディとリフが続くだけの曲。
ウィーザー以降のギター・ソロの不在
ウィーザーが世界を変えたわけではないですが、彼らが人気を獲得した以降急激に、モダン・ロックからギター・ソロが消えていきます。曲はコンパクトにまとめるトレンドがやってきました。が、そこからまた30年かけて1曲が長くなっていきます。00年代に入ると「シングル曲は3分程度、イントロは20秒以内」というラジオ向けの制約は変わらないものの、シングル曲でも5分近い曲を作るバンドもちょこちょこ出てきて、その分Radio Editとという形でラジオ向けの編集をしたバージョンを作るようになります。
そのパート、本当に要らないの?
Radio Editの是非については多少の議論がありました。「削っていいものなら最初から入れなければいいのに」という話です。Radio Editを頑なに作らない、でもシングル曲を4分半以上で作っちゃうバンドも中にはいた記憶があります。
要るものだけで作ればいいんだよ
ラジオ向けのマーケティングもサブスク向けのマーケティングも、売るためには必要ですからある程度の制約がある、お題を出された中で作るのがプロですから、制約はあっていいと思うんですけど、それがどんなものであっても、曲を書く時に、空間を埋めるためだけにくっつけられたような要らないパートは入れるな、とは思うんですよね。聴いてる側を退屈させるのはもってのほかだし、ロックは足し算の音楽ではなく、引き算で考えていかないといい曲は作れない。何を足すかで悩むくらいなら足さなくていい。何を残すかで悩むべき、それがロックの曲作りだと思います。
ほらね、長いと飽きるでしょう?
導入部だけで2000字超えてくると読んでる方も飽きますよね。本文はここからです。
ニュー・オーダーの曲の中でもThe Perfect Kissは好きなんですが、これは1985年のアルバムLow-Lifeに収録されています。下はシングル・コンピレーションの7インチ・バージョン。つまりシングル用のエディットです。
全体の長さは4分25秒ですが、2分24秒頃から後ろ全部アウトロなんですけど、こんなに長いアウトロ要らなくない?ってなるんですよ。
12インチ・シングル全盛期の負の遺産はスキップされる
このサブスタンス・エディットなんかは全体で8分超え、イントロだけで1分半あります。サブスク時代の30秒待てない若者だったら歌入まで辿り着けないまま次の曲に行きそう。12インチ・シングル全盛時代の楽曲の多くはその負の遺産を抱えていると思う。ただ、このバージョンは、7インチ・エディットでは削られてた歌詞もフルで出てくるし、イントロのアレンジは決して冗長なだけじゃないんですよね。
でも、4分12秒辺りから後ろがまた、全部アウトロなんですけど、アウトロで3分は、私は要らないので飽きる前に次の曲にスキップします。このアルバム「Substance」がリリースされたのは1987年。まだレコードで買う人が中心だった時代ですが、私がこのアルバムを購入したのは90年代に入ってからで、CDでの購入でした。CDになってから飛ばしたいところはどんどん飛ばせるようになって快適になったなあとテクノロジーの進化を喜んだものです。
使える機能を使うのが文明人
ギター・ソロ・スキップ問題、長いギター・ソロを入れるバンドが悪いのか、スキップするリスナーが悪いのか、スキップできる機能をつけた配信元が悪いのかと問われたら圧倒的に、「スキップできる機能をつけたストリーミング配信元が悪い」と私は思います。使える機能があれば使う、それでこそ文明人であり、使える機能を使わずに退屈を噛み殺すなんて原始人のようなムーブはする必要ないでしょう。そしてCD時代から、リモコン片手に聴いてればスキップしたいところはスキップ出来ていましたし、してる人は普通にいたのを忘れて「サブスクになってギター・ソロをスキップするなんて罰当たりな若者が」みたいな話に変換されるのはナンセンスです。CD時代の昔の若者だってスキップしてましたから、ギター・ソロ。私ですけど。
今日の1曲
フレンテ!がカバーしたニュー・オーダーのBizarre Love Triangleは1992年のリリース。90年代のバンドらしく、ニュー・オーダーの曲が2分未満に収まってます。