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Spotify限定シングル(カバー)から聴き取る「やる気」

SpotifyではSpotify限定シングルをリリースするバンドがたくさんいるが、カバー曲が多い。Spotifyでしか配信できないとなると、販売用のストアを持ってるAppleMusicやAmazonMusicと違い、配信のみで回収しないといけない分、曲を書く労力を省略できるカバー、となりがちなのはわかる。モチベーション上がりにくい、のもわかる。制作費かなり安いのも、アートワークの手抜き具合を見れば、わかる。しかし「最小の労力で義理を果たす」みたいなスタンスがバレバレなカバー曲がプレイリストにズラっと並んでいると正直げんなりする。



本来、カバーこそが実力を問われるお題

カバー曲というのは実は、そのバンドのセンスや実力が如実に出る。オリジナル曲というのは他に比較対象がないし、楽曲の良さで評価される部分が大きくなるからバンドの本来持つセンスや技術力などの根本的な「実力」を見るならカバーがわかりやすい。ジャズの手法に喩えればわかるだろう、楽曲は素材であり、それをどう表現していくのか、ポップ・ミュージックのカバーとはそういうことなのだ。限られた制作費、制作期間であっても一定水準を超えたものであるのは当たり前という前提で考えるし、聴き手が感心するようなものをちゃんとリリースしてくれと、リスナーとしては思ってしまう。

とりあえずアコースティック化

オリジナルのリフをそのまんま使ってアコースティックギターやピアノを中心に持ってきてアコースティック化、または音数を減らしてアコースティック感を増量して「とりあえず違うことやってます」というタイプのカバー、これがSpotify限定シングルに多く見られる傾向。

ポスト・マローンのオリジナルとダッシュボード・コンフェッショナルのカバー




オアシスのオリジナルとポルトガル・ザ・マンのカバー




キュアーのオリジナルとフィービー・ブリジャーズのカバー




コールドプレイのオリジナルとKatie Helzigのカバー


選曲の意外性がないという時点でまず減点である。選曲に意外性があれば、その驚きで下駄を履かせて「オリジナルより良い」と思わせる勝機が出てくる。しかし意外性がなければ、完全に真正面からの比較となるわけだから、「オリジナルより良いカバー」にはほぼなりえない。上記のカバーした4組全部「君たちの実力はそんなもんじゃないだろう」というレベルの手抜きアレンジと楽曲クオリティになっている。Spotify限定シングルだと通常のクオリティから明らかに乖離している。新しいファンを増やす機会になっているかと言ったら全然なってないと言わざるを得ないし、これならオリジナルを聴いてた方がいいという感想にしかならない。

良いカバーとはなにか

それは先述の裏返しである。まず選曲の意外性。自分たちとなるべく離れたジャンルの楽曲を選んだ方が、オリジナルと比較しにくくて評価されやすいし「どんな風にアレンジするんだろう」という期待値が上がって興味を持たれやすい。

次にアレンジである。オリジナルのリフなどをどこまで残してどこをいじるのか、そこにセンスが投影される。オリジナルをそのままなぞってオリジナルを超えるなんて無理な話だし、それはコピーであってカバーではない。カバーというのはオリジナリティをどう表現するかが重要なのだ。

グロリア・ゲイナーのオリジナルとケイクのカバー


歌詞の世界観が完全にダメンズと元カノのストーリーなのに男性ボーカルで歌われていてもしっくりくる説得力、そしてオリジナルのホーンセクションの代わりにフィーチャーされるギター・サウンドが絶妙。


バングルスのオリジナルとレリアントKのカバー



20代キラキラOLの月曜日の朝っぽさを、歌詞だけじゃなくサウンド全体からビシビシ発してるオリジナルに対して、レリアントKのカバーは20代フリーター男子の月曜日の朝に、完全に置き換えることに成功している。


プリミティヴスのオリジナルとベルセバのカバー



オリジナルにジャズ・コードが使われているところに着目したアレンジが光る。


スレイドのオリジナルとオアシスのカバー



「ブリット・ホップとは」を説明する際にグラム・ロックをブリット・ホップに変換したこのカバーを聴き比べるのがいちばんわかりやすいかも。95年のセカンド・アルバム収録曲なのでオアシス初期に当たるが、既に確立された、揺るぎないブリット・ポップのアイデンティティを感じるアレンジ。

限定配信というビジネスモデルの今後の課題

Spotify限定シングルは、ジミ・ヘンドリックスで有名なNYCのエレクトリック・レディランド・スタジオやビートルズで有名なアビー・ロード・スタジオなど、有名なスタジオでレコーディングしましたという作品が多いが、せっかく著名なスタジオを使ってレコーディングをするなら制作費や締め切りもしっかり余裕のあるものにして、AIに描かせたようなアートワークはやめて、配信開始からしばらくしたら販売が出来るようにするなどの対応でもう少しバンドのモチベーションを上げて、クオリティの高いものを出してもらえるよう努力をしないと、やる気のなさ全開のオリジナル・シングルを乱発しても誰も幸せにならない。AppleMusicもiTunes Originalというシリーズを以前やっていたけれども、インタビューやバンド自らの解説を含めるなど充実度は高かったし、iTunes Store限定販売もしていた。AmazonMusicオリジナルも、AmazonMusicオリジナル配信と言いつつ、配信開始から半年くらい経つとしれっと、新曲シングルとしてリリースしているバンドが多い。もちん、配信限定で散々聴かれた後のリリースで、元はAmazonMusicオリジナルとして配信されていたものだと大々的にプロモーションが出来ないのでセールス的には微妙になるだろう。それでも、Spotify限定シングルよりクオリティは高いものが並んでいる。アーティスト、配信元、レコード会社、誰かが負担を強いられ誰かが損をする仕組みではなく、三者それなりにプラスになるビジネス・モデルを再考するべきだと思う。

今日の1曲


今日のパンが食べられます。