ヨーロッパコマドリ

壁で何かが動いていた
体が半透明のクモだった
トイレットペーパーを被せ
その上から指で潰して
トイレの水に流した
産まれたばかりに見えたそのクモは
オレの命を何だと思っているんだと
抗議する間もなく
私の排泄物にまみれて
配管の中を流れていった

私は黒い海をまだ見たことがない
コウモリが翼を広げたようなその海は
翡翠のような緑色に見えるという
それはしかし
人間の目に見える色のことだ
ヨーロッパコマドリには
どのような色に見えるのだろう
黒い海の北に広がる大地で
権力の命令によって
人間が毎日殺し合いをさせられているのを
森の奥から見ている
ヨーロッパコマドリのその目には

私は
黒い海の水を舐めたこともない
森でヨーロッパコマドリが囀っているのを
聴いたこともない
産まれたばかりのクモを
摘まんで潰したその指で
箸を使ったり
黒板に方程式を書いたりしている
そんな人間だ
あんたは二重人格やと
死んだ母に夢のなかで言われた
そんな人間だ

しかし
だからといって
金を使い込んだ銀行員のように
机の前でかしこまって
反省ばかりしていなければならないという
理由にはならない
どうすれば
絵具で固まったような
政治家たちのさもしい妄想を
粉砕することができるのか
どうすれば
権力が要らない世界を
つくることができるのか
考えてはならないという
理由にはならない

（画像出典；『ウィキペディア』「ヨーロッパコマドリ」のページより）