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次の部屋 Ⅲ

   次の部屋 Ⅲ

 予期していたかのように、僕はポケットから銅のドアノブを出して、ドアーに挿し込み右に回した。そしてドアノブを又ポケットに戻した・・・何故だろう? ドアノブは違和感なく僕にフィットしている。
扉を開くと元の?彼女の部屋に戻っていた。

 ターコイズブルーのジーンズにサーモンピンクのシャツに着替えた彼女がいた。
「何処に行っていたの?」
「いや、キッチンのドアを開けると・・・」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。ちょっと間違っただけ」
「変な人!」
「で、キッチンはこちらのドアーを開ければいいのかな?」
「そうよ、コーヒーの豆を挽いてね。キリマンジャロをお願い」
少し、躊躇いながら反対側のドアのノブを回した。
そこは紛れもなくキッチンだった。光が溢れんばかりに部屋を満たしていた。すべて白で統一されたシックで清潔感溢れるキッチンだった。
「君は、料理研究家なの?」
キリマンジャロの豆を探しながら彼女に言った。
「まあ、遠からず、近からずです。」 と微笑みながら、オニオンとトマトのサラダ、そしてほうれん草とベーコン入りのオムレツを手際よく作り出していた。
「すごい、早い、そしてきっと美味い!」
「なに、ぶつぶつ言ってるの?コーヒーは?」
「はい、はい、今コーヒーミルに豆を入れた処です。」
 豆をゆっくりと挽くとコーヒーの香りがキッチンに溢れでた。
 彼女は、ミキサーに野菜を何種類か入れて豆乳を足して攪拌した。
 テーブルには、サラダ・レタスを曳いてオムレツとミニトマトに赤・黄・緑の三色のパプリカ・ミックス野菜ジュースに竹籠にバケットが綺麗に置かれていた。
「はい、お待ちどおさま・・・バゲットは少し焼いた方がいいかしら?」
「いや、サラダと一緒に食べるから、そのままで大丈夫です」
「そう、じゃぁ、頂きましょう・・・」二人は丁寧に合掌して
「頂きます」と声を合わせて朝食を食べ始めた。
 料理をゆっくり味わいながら、時折、視線を交わしては微笑み
 ・・・・・・
「毎日、こんな感じですか?」
「まあ、色々ね・・・例えば前日の夕飯の残りのおかずをおにぎりに詰
 め込んで、具沢 山の味噌汁と食べるとか」
「なるほど、それも美味しいそうだ・・・もし又会えたらそれを是非是
 非お願いします」
「いいけど・・・・・・会えるの?」
「はい、努力します・・・いや必ず会えます」
彼女は思いきり笑った。その笑い声が漫画の吹き出しのように、キッチンの空間に浮かんだ。
何となく、衝動に駆られて、その吹き出しの言葉を僕は右手で掴もうとした。だが、それはヌメリのある物質みたいで素手では掴むことが出来なかった。
笑いの吹き出しは少しずつ大きくなり部屋を占拠しだした。
無意識に僕は立ち上がり、草原があるはずのドアを目指して歩き、ポケットから再び銅のドアノブを取り出して差し込み右に回した。
次の部屋が現れた。  Ⅳに続く

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