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今週読んだ本の話 ③

 先日、『虚無への供物』を読了した。上巻下巻にわたるボリュームのある本を読んだのは、久しぶりかもしれない。

 『虚無への供物』は三大奇書に数えられ、アンチ・ミステリーの傑作と評価されている作品である。内容も荒唐無稽で、殺人事件の真相を素人探偵が集まって既存の他作品を引用した推理で解決しようとしたり、殺人事件を発生前に解決しようとしたり、まあとにかくエキセントリックな展開の連続である。

 肝心の推理の方も風変わりで、引用されている専門知識がとにかく多い。仏教、植物学、遺伝学、色彩学、SM、シャンソン、果ては他の推理小説から引用して推理しているのだ。犯行を五色不動になぞらえたり、死んだはずの人物が実は生きていて……等々。そしてこれらの推理を、登場人物達が隙あらば自分語りの勢いで披露しているのである。

 こうした推理が続くものだから、読んでいるとまるで迷宮に迷い込んだ気分になる。ある事件の推理が別の事件で推理でひっくり返され、示される事件の真相も二転三転し……という展開が続き、徐々に現実と幻想の境目が揺らいでいき、終いには事件の真相などというものは無く、偶然の重なりが事件らしく見えていたのではないかと思うようになっていく。クライマックスには真打ちの素人探偵によって真犯人と真相が示されるが、そこにたどり着くまでは、あちこちに寄り道をすることになる。

 そして、最後に明かされる真相は真犯人の自白という形で明かされるのだが、それはよく読み込んで考察していれば気がつけるものではあるのだ。そういう意味では『虚無への供物』は推理小説の範疇なのだといえる。とはいうものの、江戸川乱歩によって「冗談小説」と評された本作は、やはり純粋な推理小説とは言いがたいのではないか。個人的には幻想小説や怪奇小説の趣も含まれているように思う。

 推理小説でありながら、そうであることを拒否する小説、『虚無への供物』。上巻の序盤で殺人事件が発生するのだが、それを出汁にして素人探偵達が集まって推理ゲームをやろうというシーンがある。正直、推理ゲームをやってる場合かとは思った。皆自説に自信があるのは良いのだが、「殺人事件」が発生したのに何をやっているのかと。ただ、クライマックスの真犯人の自白は、これを刺しに来ていたように思う。私はこの本に読まれていたのだろう。

※イラストはPixAIで生成したものを使用しています。

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