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【読書マップ】2022.03 現存在、生と死と働きかたをかんがえる

2022年3月の読書マップです。
2月の読書マップはこちらからどうぞ。

3月はちょっと体調が思わしくなかったり、仕事が立て込んでいたりで読書量は少なめ。けれどマップにしてみれば、そんな時だからこそ考えたい重要なテーマが浮かび上がってきました。

進化と絶滅

今回は〈世界から〇〇が消えたなら〉というテーマで紹介した2冊の本をスタートにしてみます。
一冊目はアラン・ワイズマン「人類が消えた世界」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)、もう一冊は筒井康隆「残像に口紅を」(中公文庫)

まずは「人類が消えた世界」でも触れられていた、人類を含む種の絶滅、その鍵を握るダーウィンの進化論について掘り下げた、吉川浩満「理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ」(ちくま文庫)
よくビジネスの世界では、企業や商品の成否を進化論にたとえて説明します。
生き残るには環境の変化に対応することが必要だと言ったり、逆に日本の特殊要因に特化しすぎてしまった携帯電話をガラパゴス諸島の生物にたとえて「ガラケー」と揶揄したり。
けれど、本当の学問上の進化論は、まったく違う考え方が適用されます。
環境に適応するかどうかより、運や偶然に左右される、いわば〈理不尽な進化〉がその本質なのだそう。
だとしたら、なぜ私たちは進化論を勘違いしてしまうのか。
スリリングな議論が展開されます。

環境の変化といえば、今後ますます進みそうなのが鉄道路線の廃線。
鉄道趣味のなかでもさらにマニアックなテーマが飛び出す旅鉄BOOKS、花田欣也「鉄道廃線トンネルの世界」(天夢人)では、実際に歩いて楽しめる全国各地の廃線トンネルが紹介されます。
鉄道路線としては残念ながらその役目を終えた後、地域住民に欠かせないインフラとなっていたり、観光資源になるなど、新たな歴史を刻むトンネルも数多くあります。
これを〈廃線トンネルの進化〉といってしまうと、また俗流進化論になってしまいますが。

現存在、死を考える

スタートに戻って、筒井康隆「誰にもわかるハイデガー」(河出文庫)へ。
「残像に口紅を」に加え、これも名作「文学部唯野教授」を執筆していた昭和末期、胃に穴が二つ空いて入院したという筒井さんがハイデガー「存在と時間」を読み、死について考えた講義がもとになっています。
単行本で既読でしたが、文庫では筒井さんのまえがきや、大澤真幸さんによる解説が40ページ以上も追加され、こちらも読み応え十分。
必ず死ぬ存在である普通の人間=〈現存在〉であるわたしたちが、死や不安というものにどう向き合っていけばいいのか。死ぬまで手元に置いておきたい本です。

大澤さんの解説では、キリスト教、新約聖書に描かれるイエスの受難が引用されています。
ここから若松英輔「日本人にとってキリスト教とは何か 遠藤周作『深い河』から考える」(NHK出版新書)につなげてみます。
キリスト教の基本的な知識に当たりたい場合、大澤さんと橋爪大三郎さんの「ふしぎなキリスト教」(講談社現代新書)や、以前に紹介した清涼院流水「どろどろの聖書」をまず読んだほうがいいかもしれません。
この本は、それよりも遠藤周作の著作を中心に据えて神や死という存在について考える、という側面が強いです。
それにしても、若松さんの文章は、ほんとうに心に響きます。ふつうの新書の文体とはあきらかに違う。
わたし自身は、信仰というものをもたず生きてきた人間なので、信仰が柱にある人の思考に、とても惹かれるところがあります。

西洋のキリスト教に対し、東洋で大きな影響力をもってきたのが仏教です。
細川貂々(監修・釈徹宗)「維摩さまに聞いてみた 生きづらい人のためのブッダのおしえ」は、仏教でも異色の経典とされる維摩経(ゆいまきょう)を漫画化したもの。
細川貂々さんのキャラクターは毎回かわいく、どこかネガティブでも憎めない。錚々たるブッダの弟子たちが維摩さまにやりこめられるところは、いままでの菩薩像のイメージが一変します。

予防医学と防災

聖書をモチーフにした人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」。そこに登場する国連直属の特務機関、NERV(ネルフ)を名乗る謎の防災Twitteアカウントやアプリをご存知でしょうか。
川口穣「防災アプリ 特務機関NERV: 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年」(平凡社)は、一人の若者の遊びから始まった活動が、東日本大地震を機に日本最速の災害情報インフラになる過程を追ったドキュメント。
エヴァファンとしては気になっていた素性を知れたとともに、その防災に賭ける熱量に圧倒されます。

災害だけでなく病気も予防できたら、それに越したことはありません。
森勇磨「40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」(ダイヤモンド社)は、エビデンスに基づいた医療を示しつつ、無理せず続けられる習慣へのヒントが満載です。
40歳を超えたので思わず買ってしまいました。毎年の健康診断結果を片手に数値の意味をチェックしつつ、来年度の健診オプションを見直してみたいと思います。

多様な働きかた

Twitterからはじまった特務機関NERVは、まさに〈インターネット的〉な企業の代表といえるでしょう。
糸井重里「ほぼ日刊イトイ新聞の本」(講談社文庫)は、「ほぼ日」こと、ほぼ日刊イトイ新聞の黎明期を本人自ら綴る貴重な記録。たまたま古本で手に入れましたが、入手困難かも知れません。PHP文庫で復刊された「インターネット的」のように、そのうち復刊されるでしょうか。
現在は株式会社化・上場も果たし、ほぼ日手帳をはじめとする通販や「ほぼ日の學校」などのサブスクリプション事業を展開していますが、まだどうやって利益を出すかもわからなかったころ。
ある意味自由で、型破りで、誰にも真似できない働きかたが詰まっています。

みつめる旅「どこでもオフィスの時代 人生の質が劇的に上がるワーケーション超入門」(日本経済新聞出版)は、昨今注目されるワーケーションという働きかたを、長崎県の五島列島で実践する一般社団法人体による本。
単なるリモートワークでも、休暇でもない。ワーケーショーンのよくある誤解も解きつつ、なぜ、その働きかたを選ぶのか? までを深く考察していきます。
ワーケーショーンするかどうかにかかわらず、世界遺産としてカトリック教会も多く残るという五島列島にはいつか行ってみたい。

最後は内澤旬子「世界屠畜紀行」(角川文庫)。家畜を食肉や皮革に加工する屠畜場を本人のイラストとともに紹介していきます。
日本や一部の国では、宗教的な影響もあって差別・忌避感情も残る職場ながら、そういった問題だけに終始せず、人々の暮らしに密接した屠畜現場への新鮮な驚き(「誰にもわかるハイデガー」で言えば、まさに驚愕?)が伝わってきます。

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