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【読書マップ】ヒトと動物、世界のミカタ

2021年10月の読書マップです。
ひとつ前の読書マップは以下の記事をどうぞ。

コトバ、そして芸術のミカタ

スタートは川添愛さんの「言語学バーリ・トゥード: Round 1 AIは『絶対に押すなよ』を理解できるか」。

言葉をテーマにした本から、「言葉は京でつづられた。」(京都モザイク 7)を選びます。
「檸檬」の梶井基次郎、哲学者の西田幾多郎など、京都にゆかりのある作家・学者だけでなく、中原中也や夏目漱石など京都を訪れた人の残した言葉までを、幻想的な装丁で一冊に。
わたしも学生時代に京都に住んでいたことがあり、その後もなにかにつけ思索にふける旅にはうってつけの土地と思います。そうやって、文学や詩歌を生み出す、ふしぎな磁場があるのかも。

京都つながりで次の一冊は、2019年に京都国際マンガミュージアムで開催された「ギガタウンinテラタウン」の対談をもとに作られた「マンガノミカタ:創作者と研究者による新たなアプローチ」。
こうの史代さんと竹宮惠子さん、実作のかたわら大学でのマンガ学を教えるお二人に吉村和真さんを交えて、「マンガ」の読み方をあらためて考える画期的なムック。吉村さんによる「夕凪の街」全ページ解説も読みごたえがあります。

芸術の新しい見方を知る本としては中野京子『大人のための「怖いクラシック」 オペラ篇 』(角川文庫)。いま気づきましたが、著者のお名前にも「京」がありますね。
名画を歴史的背景をもとに深掘りする「怖い絵」シリーズに寄せたタイトルなので「怖い」は本質ではないようで。オペラというものを一度も観たことがなくても、ちょっと興味が出てきます。

SFとミステリー

次は山田正紀・恩田陸「SF読書会」(徳間文庫)。
SF・ファンタジー作家のお二人が、古今東西の著名SFを読み、語り合う読書会スタイルの対談。
竹宮惠子さんなど、いわゆる「55年組」の少女漫画はSF・ミステリー小説とも親和性が良く、萩尾望都さんの「バルバラ異界」も課題図書に選ばれています。

ミステリー作家、浅暮三文さんの「七転びなのに八起きできるわけ」(柏書房)は、ことわざの本当の意味をミステリー作家的に(?)深掘りする独特なエッセイ。ジャイアントコーンやチータラなど酒のつまみを深掘りする「おつまミステリー」という既刊もあります。

なんだかこういうノリは関西の有名番組「探偵!ナイトスクープ」を思い出すなあ、ということで、こういうのがお好きな方は「さよたんていの おなやみ相談室」(ぴあ)をどうぞ。
小学生の女の子が探偵となり、さまざまな悩みを一刀両断。ゆるい手描きイラストに鋭い一文がたまりません。こちらも関西の書店で原画展が行われていました。
「さよたんていを松本探偵局に入れてください」という依頼を誰かしてください。

ミュージアム、そしてヒトと動物

関西だけでなく、全国のミュージアムをまわりたくなるのが大澤夏美「ミュージアムグッズのチカラ」(国書刊行会)。
各地の個性的なミュージアムショップで販売されているオリジナルグッズを紹介します。
とくに福岡市美術館の「福かぶり猫」が気になります。博多人形をモチーフに、仙崖義梵の虎やレオナールフジタの猫が美術館の紙袋をかぶる逸品で、来年の寅年にはぜひ買いに行きたい。
本にはミュージアムごとにオンラインショップの有無も記載されているのが嬉しいです。

まってて、まってて! フランソワ・ポンポンの彫刻たち」(小学館)は名古屋市美術館で開催されていた「フランソワ・ポンポン展」の動物彫刻を、谷川俊太郎さんの詩と合わせて楽しむ絵本。彫刻展のグッズとして一風変わった趣向が楽しい。

フランソワ・ポンポンは晩年まで動物園に通い、動物の特徴を正確につかもうとしていたそう。動物行動学者の日高敏隆「ネコはどうしてわがままか」 (新潮文庫)につながる観察眼を感じます。

ウエルカム・コレクション「うつくしい博物画の記録」(グラフィック社)は英国の博物館による、18-19世紀のヨーロッパの標本、植物画などを集めた一冊。博物学が学問として確立するまでの軌跡もたどれます。

サイモン・シン、エツァート・エルンスト「代替医療大全」(新潮文庫)は、やはり現代医学が確立するまでの医療の歴史をたどりつつ、ハーブ、鍼灸といった、いわゆる代替医療が本当に効くのかを検証していきます。
サイモン・シンには「フェルマーの最終定理」「暗号解読」などポピュラーサイエンスの名著が多く、いわゆる疑似科学の批判本というよりも、物語的に楽しく読めます。
よく聞くようになった「エビデンスベース」の現代医療とは、瀉血のような効果の無い危険な医療が続けられてきた反省を活かす人々の叡智であると感じます。

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