見出し画像

第39回「地方在住者にとって、オンラインはとても大きな武器になるかも…」

 先週は、オンライン打ち合わせが2件あり、オンラインイベントや、オンラインセミナーへの参加申込みを行った。

 ここに来て、伊豆半島の先っぽに暮らす僕でも、にわかにオンラインづいている。いや、そもそも、オンラインに距離はない。人と人との距離感を縮めているのがオンラインだ。

 本の打ち合わせでは、20年来の付き合いがある編集者と初めてオンラインで話した。相手の顔が見えるので、呼吸の具合がわかる。もとより長年の付き合いなので、間はとりやすい。

 すると課題が明瞭になったばかりか、電話では決して展開できないようなところまで話が広がり、多岐にわたって、複合的な解決策を見出すまでに至った。

 電話だと、どうしても話が一本調子になりがちで、行って来いの回答は得られるが、難問の解決策を話し合う場合など、どうにも立ち行かないのだ。

 それがオンラインだと、通信上の微妙なタイムラグが、かえっていい間を生んでくれ、双方の考えがつながり、紡ぎながら、新たな世界が見いだせるような展開になっていったのである。

「これからもオンラインでいきましょう!」

 僕は編集者と互いに満足しつつ、そう言ってミーティングを終えた。

 オンラインは、とくに地方に住むものに取って、移動の不自由から開放される。たまには仕事相手と飯でも食べながら歓談したいが、仕事をやり取りするなら、オンラインで十分だ。移動時間の節約にもなる。

 その翌々日は、大手プロモーション会社の人と話した。どこをどう探して、僕のところまで至ったのか、不明だが、彼女ともまた、いい意見交換ができ、すると、NPOの新たな事業展開が頭に湧いてきた。一方、彼女にも、クライアントになりそうな、意欲的な人を紹介でき、充実感に満たされた。

 なんかオンラインって、アイデアも生んでくれるようである。

 すると今度は、「オンラインが全然わからん、テレワークで本当に仕事ができるのか?」そう言ってはばからない、新聞記者のAさんが、実際のテレワーク現場を取材したいと僕に訴えてきた。

 しょうがないので、半年前から空き家バンクで下田に移住し、テレワークをしているM山さんのおたくにお邪魔することにした。

 M山さんは、築70年の大きな日本家屋を借りて住んでいる。まもなく奥様が合流するが、これまではコロナもあって、一人暮らしを余儀なくされていた。在宅のテレワークなので、通勤時間はゼロである。おかげでDIYにすっかりはまって、家のあちこちを自分で直した。

 M山さんは、開けっ放しの広間に座って、あたりを見回しながら清々とした調子で言った。

「こっちに来て、大正解ですよ。人生を豊かに暮らせる!」

「でも、本当にそうですか? テレワークで仕事のすべてができるなんて、僕には信じられませんね」

 新聞記者のAさんは、まったくテレワークがわからないらしかった。

「たしかに製造業とか、飲食店とか、大なり小なり人が集まって、具体的にブツを作る仕事は無理かもしれませんが、そうじゃない仕事だってあるでしょう。僕なんて、下田に越してきた17年前からテレワークですよ」

 僕はそう説明した。

「たしかに作家はそうかもしれないが、M山さんは、どんな仕事をされているのですか」

「WEBプロデューサーです。WEBページを作りたいクライアントに、要望をお聞きし、それを技術者であるシステムエンジニアにつないでいくんです」

 Aさんは、新聞記者のくせに、パソコンも扱ったことがない。だからまったくイメージが沸かないらしく、M山さんは、書斎に僕たちを案内してくれた。

 デスクにはモニターが2台あった。

「こっちがオンライン画面で、ビデオ通話をするでしょ。オンライン打ち合わせの時は、話をしながら、もう一つの画面をクリックするだけで、先方と書類を共有できるし、訂正もその場で入れられるんですよ。紙だと、ぐちゃぐちゃになるから、こっちのほうが扱いやすいかも」

 M山さんはモニター画面を見ながら言った。

「ウインドウズ95が出てから25年、いつの間にか、時代が変わっていたんだなあ。はじめてテレワークがわかったよ……」

 Aさんは、現役の新聞記者のくせに、浦島太郎のようなことを言った。

「オンラインも最初は慣れませんでしたが、今やこっちのほうがいいですよ。そりゃもちろんたまには、顔を合わせることも重要ですし、楽しいですし。人数の多い会議などは、対面がいいでしょうけどね」

 M山さんが下田でテレワークを初めて、まもなく1年になる。

 オンラインが定着すれば、M山さんのように、都会と地方を結ぶだけでなく、都会を経由しなくても、地方と地方を結ぶこともできそうだ。

 そうなれば、この下田から、空き家バンクを日本の津々浦々に広げられるかもしれない。これがNPOの新たな事業展開である。

 今日、旧知の出版社社長のKさんとオンライン打ち合わせして、先日来、ぼんやりと浮かんでいたこのアイデアに、確信を持った。

 なんかオンラインってすごい、というか、人は、人との刺激が必要だということかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?