香りの記憶-シャボンの香りの男の子-
ふとした瞬間に包み込まれたこの匂い。
どこかで嗅いだことがあっただろうか。
香水や柔軟剤の匂いが好きと言うこともあるのか、そんなことを日常の中で幾度と感じることがある。香りの記憶。
1番古い記憶を今でも憶えている。あれは中学生の頃。付き合ったなんて言うには可愛すぎる、それでも当時の自分達は精一杯に恋愛をしていた。
そんな男の子の香り。
彼は上に兄弟がたくさんいる子で、中学生にしてはいろんな知識が豊富。所謂マセガキだったんだと思う。
まわりで女子をからかったり、廊下を走り回る男の子とは異なり、いつも少しだけ余裕を持っていた。
背の高い彼と、当時は背の高かった私。背の順でいつも近くにいた彼との距離が縮まるのに、時間はかからなかった。
上の兄弟からもらったのか、買ってもらったのか。彼はいつも同じ香水をつけていて、シャボンのようなフローラルのような柔らかい優しい匂いに包まれていた。
中学生の私はお世辞にも痩せているなんて言えないほど肉付きがよく、ふくよかな女の子。
発育がよかったこともあり、男子たちに体格についてヒソヒソ話をされるのが大嫌いだった。運動は大好きだったけれど、脚や腕の出る服を着なければならなかった体育の時間は憂鬱な気分で苛まれた。
けれど、香水の彼は男の子たちのそんな話には一切乗らず、一生懸命に体を動かしていた私に目配せをくれた。
学校の帰り道には家の方向は逆だったと思うけれど一緒に帰ってくれて、親が怒るくらい遅くまで公園で2人で話してから帰った。
その時期はほとんど毎日のようにおしゃべりしていたと思う。
私から発せられる言葉にうんうんと相槌を打つ彼がとても大人びて見えた。
・・・すごく大好きだった気がする。
当時どうやって別れたのかも。今彼が何してるのかもわからない。
そんなふわっとした男の子の記憶。
たまに街中で彼の香りがすると思い出す。
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