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電波戦隊スイハンジャー#200 断章、元老アメノコヤネの憂鬱

第10章 高天原、We are legal alien!

断章、元老アメノコヤネの憂鬱

素舞観覧の行幸からコロニータカマノハラに戻った女王、天照はドレスから儀式用の白い礼服に着替えてコロニー中心部にある

内宮ないぐう

と呼ばれる代々の高天原族王族しか入れない小部屋に入り、行幸前に抽出した自らの生殖細胞が冷凍保存された箱と正対した。

除き窓の拡大レンズで見た「我が子」はまだ分裂もしていない半透明な細胞のかたまり。

「ささ、その子に御名みなを」

と白い礼服姿の元老長アメノコヤネが頭を垂れて畏まる横で天照は箱を掲げ、

「立派に実った大きな稲穂、という意味のオシホミミと名付ける」

と宣言した。その途端に箱の蓋に

アメノオシホミミ

と高天原文字が刻まれ、それを見届けたコヤネが

「この名付けにて抽出の儀全てが終わりました」

と宣言すると女王から箱を受け取り、元の保管庫に戻された。

玉璽も兼ねる指輪で天照自身が保管庫を封印すると箱の外部に3重もの球体バリアーが張られる。こうして天照の抽出子アメノオシホミミは薄い青色の球体の中心の正立方体の箱に守られ天照自身が育って良いと許可するまで保管され続ける事となる。

ここでスクリーンが暗転、客席に明かりが戻り七人の戦隊の若者と戦いに巻き込まれた三人の子供たちの意識は2億光年前の銀河から2013年12月の現在へと戻された。


「今から20分のトイレ休憩でーし、年末の寒空の下で視聴なさってるお大尽の皆様に、差し入れでしー」

いつの間にかダウンジャケット羽織った双子天使サンダルフォンとメタトロンが座席の左右から現れ、駅のホームの弁当売りの如く
お茶orホットコーヒー、
クラムチャウダーorコーンスープ、
ホットドッグorおにぎり等のあったか間食を観客たちに配り回る。

「休憩後の場面転換の為にドクター野上、ステージ脇にスタンバって貰えませんでしか?」

降臨して間もない新参者の天使たちが聡介に敬意を払ってドクターと呼んでくれる新人感をいじらしく思った聡介は「オッケー」と気安く引き受けてステージ脇に上がった。

薄暗いステージ脇ではアメノコヤネがステージ衣装のままペットボトルの水で喉を潤し、
「人前で喋るのは3500年ぶりだから緊張してしまいますよ…」
とパイプ椅子に座り肩を丸めて脱力している姿。

まるで特撮ヒーローショーの「中の人」がマスクを脱いで煙草ふかしながら「あー、ガキの相手は疲れる」と愚痴っている子供の夢ぶっ壊しなおっさん感を見せつけられて聡介は…結構がっかりしたのである。

「元老長どのは普段大人しい癖に人前に出ると何故かスイッチが入って堂々と熱弁振るえるのよねー、くそ度胸?それとも根っからの政治家気質なのかしら?」

ステージ脇の機器を駆使して映像と音響を編集しているのは見覚えのある黒いつば広ハット。

「さては思惟さん?」

あったりー、と思惟しいこと自律型有機体端末機オモイカネはハットを取り、結った藍色の髪を腰まで垂らすと「人の脳記憶を映像化するって高技術、私しか出来ないじゃないですかー」とドヤ顔をし、温かみの残る差し入れを持った聡介をパイプ椅子に座らせるとやおらシリコン状のぷにぷにしたヘッドホンを付けさせる。

「次の次の場面の為に貴方の『中の人』の脳内記憶映像を取り出しますわよ、その間ゆっくり食べてらして下さい」

なんかもうテーマパークに招待されてからぶっ飛びすぎる展開に毒気を抜かれた聡介は言われるがままホットドッグをもしゃもしゃと食べ、次にクラムチャウダースープを一口含んでから「気合の入ったテーマパーク飯旨っ!」と唸った…

20分の休憩タイムが終わりブザーが鳴ると再びステージ上は暗転し、舞台でスポットライトを浴びたのは毛皮のコートで全身を覆った銀髪銀眼の美しい女性。

開いた襟元から覗く胸の谷間。そこには渦巻状の痣が銀河系のように広がっている。

「ようこそ、2億光年先の高天原銀河へ。ちなみに衣装はフェイクファー(ばったもん毛皮)やから安心せい」

とわざわざ説明するのは先程の映像に出ていた宮中女官長アメノウズメ。

豊かな銀髪を夜会巻きにした彼女はさすがは芸能の神。両手を腰に当ててわずかに半身をひねっただけで女神然とした雰囲気を撒き散らし観客達をこちら側の世界へ惹きつける。

「これからは元老長に代わりてわたくし天照さまの乳母であり護衛であり宮中女官長アメノウズメの脳内映像、我が主の憩いの時をご観覧下さいませ。

嗚呼女王陛下の私生活、私生活」

そう言ってウズメが大仰にお辞儀をするとスポットライトが消え、舞台のスクリーンにまるで平安貴族が履くような黒塗りの筥沓はこぐつの足裏。
画面は対象から遠ざかり中央に映るのは長い銀髪を垂らした白衣の後ろ姿。

やがて白衣の人物は立ち止まってかがみ込むと煩わしそうに沓のかかとに指を差し入れ沓脱ぐとそれをぽーんとふかふかの絨毯の上に投げ捨てた。

ついでに足袋、白い薄衣を重ねて着た礼服も次々と脱ぎ捨て、最後には白い下帯を付けただけの少女の裸の後ろ姿。

「疲れた、風呂に入る」

振り返ってこちらを見た女王天照は首から吊り下げた白いY字型の布で両乳房を隠した下着姿。ウズメほど豊満ではないが適度な運動で程良く引き締まった体つき。

女王が脱ぎ捨てたものをいちいち拾い上げていたウズメが主の背中を追う。自動扉が開いた先には湯気の立つ石の大浴場。

天照は下着姿のままざんぶ!と浴槽にあごまで浸かると顔だけ湯面に出してふー…っと深いため息をつく。

数分そのままお湯に浮いて目を閉じていた天照がやがて立ち上がり浴槽のへりに腰掛けると十数人の美少女たちがわらわらと白い湯浴み着姿で女王陛下の周りに取り付いた。

「陛下、御髪おぐしを洗って差し上げますわね!」

「まずお体を洗って差し上げるのが先ですわよぉ」

「いーえ、まだまだ陛下のお体はほぐれておりません。一緒に温まりましょう!」

彼女たちは潤んだ目で主を見つめ、甘えるように声を掛けて一緒の浴槽に入る。

少女たちはどうやら女王の身の回りのお世話をする侍女のようだが、な、何か様子が…

「可愛いお前たち、まずは一緒に湯に浸かろう」

と女王陛下が美少女の内の一人のあごをくいっと持ち上げた時に観客の疑念は確信へと変わった。

「そうなのです。天照さまのご寵愛の対象は女性。映っているのは当時後宮に住まわせていらした恋人たちなのです」

独自の進化を遂げた高天原族は性行為無しで子を成す事が出来て、地球の人間が未だ悩まされている生殖の縛りが無かった。

だからその王が同性愛者で女王の後宮に美少女たちが恋人として仕えていても表の政治がちゃんと回っていればなんの問題も無い。

…筈だったが女王の私生活と王室の将来を憂えているものが一人だけいた。


全ては
先王イザナギ大王の后、イザナミ王妃がお産で身罷られた事から始まった。

8度目のご出産でお体に負担ががかっておられた王妃はご自分のお命の引き換えにカグヅチ王子をお産みまいらせた。

その時の大王の取り乱し方は凄まじく、王妃の亡骸に取り縋って大声で泣き叫び、その挙げ句
「お前のせいで我が妻が死んだのだっ!」
と生まれたばかりのカグヅチ王子の首に手に掛け殺害しようとしたのですぐさま力ずくで側近達に止められた。


元老たちは赤子を守るためカグヅチ様を王族から外し、辺境のコロニーに隠して養育した。

高天原族一の科学者である大王の常軌を逸した実験が始まったのはそれからだった。

先ずはイザナミが二度と死なないように、と王妃の細胞に不死細胞を組み込んだイザナミ王妃のクローン、ウズメを作成した。

大王はイザナミの代わりにウズメを作ったつもりだが、ウズメは作成者である大王を父として認識し、イザナミと呼ばれる事も大王の愛を受け入れる事も激しく拒否した。

遺伝子は同じでも中身は全く違う人間なのだ…

イザナギは激しく落胆し、ウズメの脳に次代の天原族の王族への母性をプログラミングし直し、ご自分の抽出細胞から生まれた三つ子、ヒルメ様(天照)、ユミヒコ様(ツクヨミ)、オトヒコ様(スサノオ)の乳母として扱う事にした。

愛した妻の代わりではなく子供たちの育ての親。

そう思う事でイザナギ大王もウズメもやっと精神の安定を保てるようになった。

イザナギ大王崩御後、長子継承の決まりに沿って天照様が即位なさった事もご結婚の意思がない女王が弟を後継に据えた事も何の問題も無い。

筈なのに…

「やあ元老長どの、最近痩せたみたいだかちと働き過ぎではないのかね?」

と非番の時にはいつも身分も立場も関係なく気さくに声を掛けてくる自分より少し年下の彼を見るにつけ思うのだ。

むしろ次代の王位後継者は胚の頃より肉体改造を施され抜きん出た怪力を得たが、情緒も力の制御も不安定なオトヒコ殿下よりも…

辺境のコロニーで生涯を平民として過ごされたカグヅチ様の実の息子であり、自分の出自も知らずに実力で宇宙軍司令長官にまで出世なさったイザナキ大王のご嫡孫、 

タケミカヅチ将軍こそ相応しいのではないか?

とアメノコヤネは思うようになり、それは身籠った妻のお腹が膨らむにつれ次第に強くなって来るのであった。

後記
イザナギとウズメの苦悶と葛藤の記憶。
元老長というのは「いらん事を考える人」のアイコンなのかもしれない。












































































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