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電波戦隊スイハンジャー#216 終着

第10章 高天原、We are legal alien!

終着

「わが娘、智持着陸。高天原族全員無事地球降下を終えました…

って智持どうしたのそのお腹!?王子と結婚しただなんて一言も」

「御久しゅうございます、お父様」

再会を果たした娘の屈託ない笑顔に相好を崩す一方で思惟は、

娘の妊娠をいきなり知らされた父親のほとんどはそうしたいだろう相手の男を二、三発ぶん殴りたい目で婿のオシホミミを睨みつけるも、

「内輪揉めは大事を全て済ませてからにしてくれないか?」
と天照に止められた。

女王の一言でいつもの冷静沈着さを取り戻した思惟はそうだったそうだった。

と地球移住のための最後の条項を果たすために国中の各地の鳥居に止まった船を遠隔操作で稲佐の浜の上空に浮遊させ、

旗艦天鳥船を中央に渦巻き状に旋回させた。

「これより豊葦原族の皆さまは高台に退避して下さいませ。隊列、防!」

とタケミカヅチ将軍が厳かに告げると成人した高天原族2263人が老若男女問わず横一列に手を組み合い、

さらにその肩に一列また一列と飛び乗った横の列400人が上下五段に海に向けて人間の壁を作った。

そして豊葦原族全員を高台に避難させ、

人間の壁の上端にはタケミカヅチとタヂカラオの両騎将軍が登って自分たちをここまで運んできた鳥たちが描く渦巻き、

それは高天原族に生まれつき付いている痣であり解体前のコロニータカマノハラの形であった文様を最後に名残惜しそうに眺めた。

「整いました」

と息子夫婦、元老長、ツクヨミ王女を連れて崖の上に待機する女王に両将軍が頷いて見せるのを目視で確認した天照は、

懐から両手のひらにすぽりと入る程の大きさの凸レンズの形をした高天原王家の至宝である八咫鏡を取り出し、

それを渦巻状の船団に向かって掲げて見せた。

そして高天原族の文明自己消却の呪文、

かい

をこの星に降りて最初に放つ言霊として唱えた。

天鳥船をはじめとする全ての船が一瞬にして珪化し、細かく亀裂が入る。

と全船みるみる小さな瓦礫となって全て海中に没し、巨大な水飛沫を上げた。崖の上からその様子を見ていた人々うちの一人は、

まるで巨大な剣が海中に突き刺さるようだった。

とどこかの古代の文献に証言を遺す。

だが、最後まで移住先の人々を守り、責務を果たさねばならぬ高天原族に感傷に浸っている暇はない。

大量の質量の瓦礫を海中に投じたせいで海面が膨張し、それは津波となって一気に稲佐の浜に押し寄せる。

瞬時にしてありとあらゆる衝撃から身を守る羽衣を両袖に垂らした高天原族防壁の一団は我が身にたたきつける津波に耐えた。

…が、しかし予想以上の高波が「壊」呪文と共に戦闘服も素粒子単位で崩壊させてしまった高天原族の人間の防波堤を越え、里を飲み込もうとする!

こうなりゃもう、「あれ」しかない!

右騎将軍タヂカラオが胸紐からむしり取った首の飾りに息を吹きかけ、
自分の背丈ほどの大剣に変化させた。

大剣を波に向けて飛び上がったその刹那、自分の体が白い草むらの生えた地面に着地したかと思うとそれは体長百六十尺(約50メートル以上)の白い龍の頭部だった。

(私は第二王子コトシロ。一族を救うためはせ参じました!)

先程調印の場から逃げ出した気弱な青年がこの龍に?と、とにかく考えるのは後!

防波堤を超えるほどの津波に対処する方法は故郷スサ星で「あの方」とさんざん一緒に行ってきたではないか。

(どうぞ足場を気になさらずに剣をお振るい下さいっ)

コトシロの頭部から遠慮なく飛び上がったタヂカラオは空中で体を弓なりにし、両手で握った大剣に渾身の力を込め、

「喰らえ!海割り横なで斬りぃっ!!!」

と掛け声を上げながら横一文字に波を薙ぎ払う。

衝撃波を食らった波がどぷん、と海に向けて引いていく。

が、まだ力が足りない!

あと一振りする前に波が戻ってしまう!と慌ててタヂカラオが刀を振り上げようとした時─

崖の頂上にある鳥居の結界から強い光が放たれ、コトシロより一回り大きな緑色の龍の頭部に乗った男が白銀の髪を振り乱し、

頭部に着いた右足だけを軸に両手に持った大剣を波のうねりに向かって
「ずぅおりやああああっ!」

と振り下ろすと波のかたまりがぱあん!と四散し、たちどころに津波は凪いで日の光を受けた稲佐の浜に虹が掛かった。

「右騎将軍よ、正解だ!我との海割りをよくぞ覚えていてくれたな…」

と輝く水滴を浴びながらタヂカラオに笑いかけた初老の男は彼の予想より多少老け込まれておいでだが…

間違いなく少年の頃から警護し、故郷スサ星で一緒に海割りに興じた第二王子、オトヒコその人だった。

「オトヒコ王子」 
と言ったきりタヂカラオは口を覆って泣き、スサノオがかつての臣下で唯一無二の友の肩を抱き寄せる。

大陸から来た老神龍ラオシェンロンとその孫の大白龍コトシロ。二体の龍の頭上で二人の再会は果たされた。

人垣を組む高天原族らはその光景に目を潤ませながらも津波を食い止め続けた疲労でお、終わった?…終わった?と囁き合う。

「皆の者、もう波はやって来ぬから陣を解いて良い」

とようやくタケミカヅチ将軍の指示のもと彼らは脱力してぼろ、ぼろ、と守りの陣を解き、思い思いの体勢で砂浜に倒れ込んだ。

「自分たちを守ってくれた高天原族に水と食べ物を振舞うよう」

先王オオクニヌシの命のもと稲佐の浜から山間のいくつかの里に迎え入れられた高天原族は海水に濡れた体を洗って着替え、星空の元焚火を囲みながらスサノオとその子孫たちの歓待を受けた。

出雲国王宮内殿の宴の場で天照、月読、素戔嗚すさのおの三姉弟は実に2000年ぶりの再会を果たした。

最初は言葉が見つからずお互い黙り込んでいた三人の内、天照がこの星での生物周期に従って肉体年齢70才に達した弟に

「我があの時お前を追放しなければこのような事には…」

と謝罪しようとしたがスサノオはその言葉を遮り、

「過ちを犯した我を姉上が旅立たせて下さったお陰でこの星に楽土を見つけ、

通常の高天原族の何倍も濃い人生を送ることが出来ました。

こうして一族を迎え入れ、姉上に再会できた今、何も思い残すことはございません」

と深く皺を刻んだ顔でほほ笑むと天照はそうか…そうか、とうなずいて地上降下してやっと出された食事を口にし、

「うん、このササゲノモチ(高天原語では貴人に捧げる飯)は旨いな」

と朴葉で包んで焼いた鳥肉に舌鼓を打った。

長きにわたって一族を導いてきた女王の威厳という甲冑から解放された天照は生まれて初めて一人の人間として気楽に食事を楽しんだ。

その横の宴席ではツクヨミの助手の思惟が新婚の娘夫婦の前で御馳走を楽しんでいるもののその目は笑ってなく、婿のオシホミミ王子に話しかける時も詰問口調である。

「で、娘と知り合ったのは何年前でどのようなきっかけで?結婚に至るいきさつは?」

「あれは100年前の旗艦天鳥船の船内食堂で、私が食事をしていた時です。
先に食事を終えた智持が鶏肉が入ったササゲノモチを手渡してくれたのがきっかけで」

「私ども父娘には初めから『恋愛をする』という概念がプログラムされていなかったので実に興味深い。

差しさわりの無い範囲で結婚に至る過程をお聞かせ願いますか?」

「船内は母上はじめ半分が冷凍冬眠状態で同年代の学友も冬眠していたから自然と智持と会う回数が増えて…」

「ほうほう」

「出会って21日目の夏に庭の果樹園に成っているモモの実を智持と分け合って食べたら…そのう、智持を求める気持ちが急激に強くなってしまって」

「モモの実を食べた!?あ、ああ、それなら仕方ありませんわね…」

恋愛というものは、

生殖をしたいときや寂しい時に脳内麻薬によって踊らされヒトとヒトがくっつく現象。

だと思っていたが、まさか我が娘と王子が結ばれるきっかけが、モモを食べてうっかりくっついてしまっただなんて!

んもう、モモの実の話まで聞かれるのは恥ずかしいわ!

とその横で父と夫の会話を聞いていた智持は顔を赤くしてうつむいていたが急に腹部に鈍い痛みが走り、

「…はじまりそうです」と強く夫の手を引いた。

「始まるって何が?」

と目をぱちぱちさせるオシホミミに向かって

「馬鹿者ー、お産だー!!」

と奥の間から宴席の智持を取り巻くように四寸ほどの小人たちがわらわらと12,3体出てきて長のハガクレが3本角の頭に鉢巻をしてお産の準備を始める。

「そこの新入りの姉ちゃん、まずは清潔な布を集めろ」「は、はい!」

地球降下と退位を果たした天照は小さき人に顎で使われる、というこの地での最初の洗礼を食らった。


後記
天照も新入りの姉ちゃん。























































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