20.「参政党の活動で農地の買収がストップできた」は本当か?
参政党の松田学代表は、E社による西条市の農地買収について、参政党愛媛県支部の地元住民への啓発活動によって、買収がストップできたと主張しています。
この発言内容は本当でしょうか。
地元関係者と思われる方のFacebookでの発言(リンク先で「うちの近所の出来事。…」とコメントをしているM氏)を読んだことがありますが、地元の方々に参政党の主義主張が汎く深く浸透しているとは思えません。
ネット上でも、リアルの周辺住民に聞いた感じも。
ちなみに、取得面積を「27ヘクタール」と言っていますが、愛媛県議会第381回(令和4年12月)定例会において参政党あさぬま和子元議員が「17.9ヘクタール」と言っているように、参政党として把握しているのは実際は約「17ヘクタール」で、「27ヘクタール」の根拠が見当たらず、単なる松田氏の言い間違いだと思います。
E社による農地取得の時系列
今年7月に農水省が、2022年の取得分のデータを公表したため、1.「150ヘクタール買収」は本当か?で既出の資料をアップデートしました。
上記資料を元に、E社の農地取得面積を年次別にグラフ化すると、次のようになります。
赤はその年に取得した面積、青は前年までの面積の積み上げです。
E社の農地取得は2019~2020年の期間に集中しており、現在の取得農地の9割はこのときにすでに取得を終えています。
その後2021年は1.9ヘクタールと一気に減り、2022年は0.1ヘクタールと、実質的に農地取得は停滞しています。
参政党がこの件に介入を始めたのは、19.「住民が心配」していること理由に、不安を煽る政党が社会問題化することを正当化している件でも述べている通り2022年8月頃からです。
本格的になったのは、愛媛県議会議員選挙を念頭に西条市選挙区で候補者が活動を始めた2023年1月頃ではないでしょうか。
参政党が介入するはるか以前の2021年から、もう農地取得のペースは大幅に下がっています。
これは、松田代表が主張する「地元住民が外資に売るのは嫌だと意識が変わった」という理由ではなく、単に長野農園における農地取得が2021年時点でほぼ完了しただけのように思えます。
農業用水道のため、農地の拡張には制限がある
長野農園の園地が現在の形で完成している、と考える別の理由があります。
長野農園は、丹原町長野の関屋川に架かる石経橋付近の旧松山街道を東南端として、北西方向へ伸びるように農地を取得してきました。そして、現在の農園の北西端は、実は道前平野土地改良区が地中に埋設している農業用水道(道前左岸幹線水路)に達しているのです。(上図の水色の線)
以前3.「西条のうちぬき水を盗んでいる」は本当か?で書いたように、当初の計画ではE社は道前平野土地改良区の水利を使用する予定でしたので、立地的にはこの場所は最適でした。
もし農園をこれ以上広げようとすると、この地下水道をキウイ畑が寸断することになります。土地改良区としてもそれは容認し難く、長野農園はこれ以上北西方向には広げることは非現実的です。このラインが農園拡張の終端となることは、当初から決まっていたのではと思います。
「計画を止めた」? 実は計画どおりなのでは…?
さて。
そもそも、松田代表並びに参政党愛媛県支部は「我々が農地取得をストップさせた」と言いますが、その根拠を示すためには
ということを客観的に証明しなければいけません。
参政党愛媛県支部は、E社の農地取得計画のタイムスケジュールの詳細を知っているんですかね?
単に「最近は農地を売った人がいない」という事実を、あたかも自分たちの手柄にしようと、ストーリーを作っているだけではないでしょうか。
「でも、E社は設立から5年以内に150ヘクタールを取得する計画だったのだから、20ヘクタールで完了とは言えないのでは?」という疑問もあるでしょう。
そもそも、「丹原の長野農園"だけ"で150ヘクタール」というのは、地元に住んでいる私の感覚から言えば、実現不可能です。
あまり150ヘクタールという数字にこだわって考えず、5年以内という期間にもとらわれず(コロナ禍もあったことですから)、柔軟に計画を練り直すのが現実に即したビジネスのやり方だと思います。
E社の先例でもある、宮崎県の株式会社マイキウイの場合、現在は合計25ヘクタールの農地を、県下4カ所に分散して開発しています。
そのマイキウイも、将来の計画では400ヘクタールとしていましたが、現実的には10ヘクタール以下の農園を分散しているのが現状です。
また宮崎県川南町の町議会の情報によると、マイキウイでは農家がキウイ栽培を受託する委託方式をとっている場合もあるとのことです。
ですので、私はE社は西条市内だけに視野に留めず、愛媛県下の他の地域にも目を向けて、適地があれば農地取得や委託栽培を進めるのだろうと考えています。
また、宮崎県日向市にマイキウイ社がパックハウス(選果場)を設立したという情報もあります。
E社は当初、 JA東予園芸に選果作業を委託する計画でしたが、海の向こうの九州とは言えグループ傘下のパックハウスがあればそちらで選果作業をするのではと考えます。
となると、宮崎県への輸送を考えれば、今後は九州航路への接続が容易な南予地方に、愛媛県内の農園面積の大半を求めるのが合理的なのでは、と個人的に思っています。