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3.「西条のうちぬき水を盗んでいる」は本当か?

結論から言うと
ニワカ知識で西条を語るな!丹原民はうちぬきとは無縁なんじゃ(涙)
ここでうちぬき水を盗ることは地理的に不可能です


ファクトチェック


Twitterの検索窓で「西条 水源地 中国」と検索していただくと、今回の件で「中国の土地買収はキウイではなく水源地確保のため」
「テントの中で深井戸を何箇所も掘っている」

といった情報が出てきます。
また、経済安全保障アナリスト 平井宏治氏は動画で次のように述べています。

7分50秒からのシーン

特番『参政党でも問題視!外国人による制限なしの土地取得に待ったをかけろ!ー愛媛県西条市の事例からー』ゲスト:経済安全保障アナリスト 平井 宏治氏
Youtube動画7分50秒のシーンよりテロップを引用

8分40秒「中国では水質汚染が深刻なので、おいしい水きれいな水が湧き出る場所を手に入れれば、もう自分の一族が飲み続けられる水を確保したということになる」

11分20秒からのシーン

特番『参政党でも問題視!外国人による制限なしの土地取得に待ったをかけろ!ー愛媛県西条市の事例からー』ゲスト:経済安全保障アナリスト 平井 宏治氏
Youtube動画11分20秒のシーンより動画よりテロップを引用

11分50秒「(西条市は)水の都と言われている場所でですね、あそこには『うちぬき』っていうですね、鉄のパイプを15~30mぐらい地中に打ち込むだけで、地下の水脈から良質な地下水がどんどん湧いてくるんです」

平井先生、西条市の「うちぬき」をアピールしてくださってありがとうございます。

こういった情報を、西条市外の住人が耳にすれば「中国人が西条市のうちぬきの水源地を独占するために農地を買収したんだな」というストーリーが脳内で組み上がると思います。

「西条市」の水すべてが名水ではない

ですが、丹原に住む私には、このストーリーに違和感を覚えるのです。
現在の西条市は、2004年に東部の旧西条市、西部の旧東予市・小松町・丹原町の2市2町が合併して誕生しました。そのうち、「西条のうちぬき」と呼ばれる地下水が湧き出るのは、旧西条市の、それも平野部の一部だけなのです。

西条市地下水保全管理計画(2017)からの引用に筆者が一部加工

そして、今回のE社が取得した農地のある場所は、市西部の丹原町の扇状地の上部です。
なぜ「うちぬき」が湧き出るエリアではなく、西の丹原町を選んだのでしょうか? もし中国人の飲水を確保するために西条市で土地を買収する目的なら、丹原ではなく旧西条なのでは?
答えは、そもそもこの丹原の扇状地は昔から果樹栽培が盛んで、ここ20年くらいはゼスプリキウイも生産していた縁があったからです。

そして、仮に「水源地を求めてきた中国人」さんがいたとして、その方にも地元農家にとっても問題なのが、地図の色が赤いエリアは地下水の硝酸態窒素濃度が高い傾向があるということです。
昔から果樹栽培が盛ん、ということは、長年農地にまかれ続けた肥料の成分が地中に染み込み、それが蓄積して地下水の硝酸態窒素濃度に影響を与えているということです。

地下水年報 (西条市 2021) より引用

E社の農園がある「長野地区」の一般家庭井戸水を水質検査した結果、「硝酸態窒素および亜硝酸態窒素」の濃度は「7.3mg/l」でした。これは検査対象の市内93地点のうち最も高い数値です(うちぬきエリアの井戸のほとんどは0.3~1mg/l台です)。
もちろん法定の水質基準が10mg/l以下なので、飲用水として決して問題ありませんし、農業用水としては十分です。
ただ、仮に「水源地を求めてきた中国人」さんがいたとして、日本の水の都といわれる場所に来てまで見つけた水源がこれでは、西条の美味しい「うちぬき水」を期待していた本国の一族から総スカンを喰らうでしょう。

ファクトチェックの結論ですが、「西条のうちぬき水を中国人が盗んでいる」というのは、丹原町の長野地区の土地に井戸を掘っても地理的に不可能ですので、この主張は誤りです。
水質的に平凡な地下水で良ければ、その主張はありかもしれませんけど。

ただし地元農家との水争いは残る

当然ですが、E社はここ長野地区に「キウイを作りに来た」わけなので、地下水が別にうちぬき水でなくても一向にかまわないのです。
ですが、大規模にキウイ栽培を行うと、それだけ大量の灌水が必要なわけですので、地下水の減少が地元農家・住民には大きな懸念です。
実は、E社は当初、キウイの灌水には地下水以外の水源を予定していたようです。そのことが、西条市農業委員会での議事録から読み取れました。

西条市農業委員会平成30年度第6回総会議事録 から引用

「道前の水利から畑灌を利用」というのは、この地域の道前土地改良区が管理する灌漑用水路のことで、高知県の仁淀川水系から愛媛県の面河ダムを経由し引っ張ってきた水路のこと。これを、地上数mの高さに立てたスプリンクラーから周囲に灌水するしくみです。

「水土の礎」より引用 https://suido-ishizue.jp/index.html

これをE社も利用させてもらう筈だったのですが、JAとの関係が悪化したというジャーナリスト山口亮子氏の記事を信用するならば、JA同様に農家が組織する土地改良区の施設である畑灌の利用について一部の農家から反対する声も上がるのは必至で、そのため利用が難しくなったのではないかと思います。
それ故、灌漑用水を工面するため井戸を掘るのですが、それをもって「中国人が地下水を盗んでいる」と揶揄されているのでしょう。
JAとの諍いは脇においといて、畑灌の利用を継続させてもらえていれば、少なくとも地下水の問題はこれほどひどくならなかったと思います。

3/17追記

いたずらに恐怖心を煽り、政治的に利用しようとする人たちがいるようです。 また、周桑平野の地下水が施肥によって汚染されているのがこの業者のせいであるかのような表現を使ったビラを配っている方もいます。 この硝酸態窒素汚染は全国の農業の盛んな地域が共通して抱えている問題で、この原因に外国は関係ありません。 それに農薬の使用については環境面についての対策が日本は

Posted by Akinori Takahashi on Thursday, February 16, 2023

このnoteでは「E社の農地は硝酸態窒素濃度が高いので、名水取得目的ではない」と述べました。
上記FB投稿のように、不適切なビラを配られているという情報を得たため、このnoteの内容を曲解して理解されている方が出てきてはいけないので、改めて説明します。
西条市の丹原地区の扇状地で硝酸態窒素濃度が高いというデータの初出は2016年7月11日の「水問題に関する協議会 第11回幹事会」ですが、このときにE社は設立すらしておらず、農地に施肥しようがありません(農水省により農地取得が判明したのは2018年以降)。
市議も述べているように、この硝酸態窒素問題は「そうとは知らず」長年肥料を施肥してきた地元農家が負うべき責任であり、私達農業者みんなが抱えるべき将来の課題です。
このようなビラを配布することはデマの拡散であり、特定の企業の営利活動を妨害する業務妨害にあたると思います。