EP010. 私の娘もあなたのように育って欲しいわ
「少し落ち着いた色合いでシックにデザインしてくださるかしら。母の好みなの。」
今回のお客様はとても上品な奥様。素敵なお家に住まれている。
歳の頃は40代前半といったところだろうか。
私はフリーのフローリスト。
お客様のご依頼を受けて、ブーケや生け花はもちろん、装花やお庭のデザインまで幅広く提案している。おかげさまで、なかなかプライベートの時間が持てないほど忙しくさせていただいている。
今日はお客様のご自宅にお伺いしている。お母様の退院祝いパーティーで使うテーブル装花の打合せ。
お話を伺っているとパーティーがお好きらしい。初めてのお客様なので、是非とも次に繋げたい。必然的に力が入る。
お母様がとても自然を愛されている方だと伺っていたので、季節の花だけでなく、花に合わせられる野草や木などのネイチャー感が強いものと、それに合わせる装飾品など、一通りをご案内しながらデザインの骨組みを提案していく。そしてお客様の反応を盛り込んだデザインラフをその場で描きながら、お客様にイメージを確認していただく。インタビューしながら要望をスケッチする感じ。これが私のスタイル。分かり易いと評判。
打合せもひと段落したのでそろそろ失礼しようと思っていたところ、「ご一緒にいかが?」とアフタヌーンティーをご馳走していただいた。
すると、目の前に現れたのは三段のケーキスタンド!
自宅でこんなものが出てくるなんて信じられない。素敵過ぎる。
色々とお話を伺っていると、お客様にはまだ幼いお嬢様がおられることが分かった。
お嬢様はインターナショナルスクールに通っていて、幼いながらもお客様より英語が上手に話せるようになったらしく、からかってくるところが小憎らしい、けど、そこがまた可愛い、と言う。
もし私にも娘が出来たらそんな経験をしてみたい。
そんな他愛のない話をしている時に、ふとお客様がこんなことを仰られた。
「ご両親はきっとあなたを大切に育てられたんでしょうね。あなたとお話しているとよく分かるわ。」
大切に育ててくれた…
その通りだった。私は両親の愛に包まれて育った。
両親は私がしたいことは何でもさせてくれた。お金持ちではなかったので、もちろんお金の制限はあった。でも、何を咎めることなく、できることなら何でもさせてくれた。
甘やかされたわけじゃない。
両親は子供の意欲を削がないように、もっともっと自由に創造性を伸ばせるようにと、なんでもチャレンジさせてくれたのだ。
そんな両親の計らいがあったからこそ、今の私は創造性の高さが問われる仕事に就くことができた。
「私の娘もあなたのように育って欲しいわ。」
窓から見えるお庭を眺めるお客様の口からこぼれた言葉。
胸の奥が熱くなってジワジワが広がる。
なんて嬉しい言葉なんだろう。
私はもちろん、私を育ててくれた両親まで褒められているようで、今すぐにでも両親に聞かせてあげたくなった。
フローリストの仕事は大好き。
でも時々、このまま続けていても良いのか迷うことがある。
結婚したいし子供も持ちたい。もちろんフローリストは続けたい。
色んな事を考えると、仕事との両立ができるのか、そうすることが正しいのか、今の生き方で正しいのか、何が正解なのかが分からなくなる。
でも、この言葉で気付くことができた。
「きっと間違っていない。きっと私の生き方はこれで良いんだ。」
お客様にとっては何気ない言葉だったかも知れない。
その何気ない言葉は、私を迷いの淵から救ってくれた。
「もうブレない。私の道で生きていく。」
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