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EP014. 何事にも一生懸命よね、すごい

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「今日は電動ろくろを使っていきましょう!」

先生の指導が始まった。

「覚えてますかー?ポイントは土。しっかり土練りをしておきましょうねー。」

「ふむふむ、土練りが大切。忘れがちだからもう一度ノートに書いておこう。」

私が陶芸教室に通い初めてから3ヶ月ほど。
モヤモヤして何か心につかえた感じを解消したくて、無心になれると評判だったこの教室を選んだ。

今までは手びねりで作ることが多かったけど、前回から電動ろくろを使うようになった。まだ作品を完成させられてはない。でも、電動ろくろを使っていると、なんだか陶芸が上手くなった気になるから不思議だ。

「いいですかー、遠心力を外側の手で受けて、力を上に流してやるんですよー。」

「ふむふむ、”遠心力を上に流す”ね。」

「回転速度を上げると力も増します。速度で力を加減をしましょう!歪みを恐れずにねー。」

「速度に比例して力が増すのね。ふむふむ。」

私はとにかくノートを取らなくては気が済まない。
聞いたことは絶対に忘れたくないから。

そのためにノートは絶対欠かせない。でも作陶中のノート取りは大変。当たり前だけど、ペンは土まみれ。ノートはなんとかギリギリ「汚れている」程度で済んでいる。早くノートを取らなくてもよいようになりたい。

「あぁ…。」

土が崩れた。

電動ろくろは力加減が難しい。回転速度を少し変えるだけで力が大きく変化するので、気を抜くとすぐに「べろーん」と歪んで崩れてしまう。

「もう一度、最初からだ…。」

土を練り直してろくろに乗せる。
ノートを読み返し、形を作っていく。
土の塊が目の前で形を変えていく様は素晴らしい。

掌と指との間で、滑らかな曲線を描きながら、土が上へと伸びていく。
慣れないなりに、なんとかイメージした形に近付けた。

「電動ろくろ100時間」なんて言われる通りに難しい。思い通りに形作れるようになるにはまだしばらくかかりそう。

底切りをして乾燥させる。
続きはまた次回だ。

先生に作品を見てもらい指導を受ける。
ノートを取ることばかりで大変。それでもしっかり漏らさずに記録する。

「そんなにしっかりノートを取れるなんて、本当にすごいわね。」

友だちが声をかけてきた。
同時期に教室へ通い始めた年上の女性。

「あなたは何事にも一生懸命よね、すごい。」

そんなことを言われたのは初めてだった。

「そんなことないですよ。誰にでもできることだし、私はすごいことなんて何もできませんし。」

「何言ってるの。あなたはすごいの。最初は一生懸命になれるかも知れないけど、続けてると慣れてくるって言うか、熱が冷めてくるって言うか、一生懸命さって薄れてくるものよ。あなたにはそれがない。ずっと一生懸命でいられるの。とっても素敵よ。本当に自慢できることなんだから。すごい所って自分では気付かないものよ。」

今までの人生で一度もないくらい優しい言葉。グッと私の心に染み込んできた。

「嬉しい!そんなに風に言ってくれて本当にありがとう。」

「お礼を言って貰うほどのことじゃないわよ。」

そうだったんだ。
彼女は私のすごい所に気付かせてくれた。
当たり前だと思っていた「一生懸命に打ち込む」ことは、私のすごい所だったんだ。

何かとってもいい気分になっていた。
いつの間にか心のつかえはどこかに消えていた。

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