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甘い静かな時間 20

あれからひと月が経ち、いよいよ彼の試験の合格発表の日がやってきた。

私は朝からソワソワしていた。
でもそんな気持ちを夫に悟られないように、出勤するまでは忘れようと自分に言い聞かせていた。

そして、夫が家を出た。
私は一気に力が抜けた。

なんか脱力感だわ
と思いながら時計を見た。

確かお昼ごろにわかるって言ってたよな
まだ4時間以上もある
と、ため息をついた。

忙しくしていればきっと時間なんてあっという間よね
と、動こうとした時携帯から着信音が聞こえてきた。

ドキッとしてみると
きらくんだ

「もしもし?」
「あやさん?おはよ」
きらくんの声、この一か月電話もやめていたから、すごく心に響いた。

心地いい
やっぱり彼の声は心地よくてドキドキする
やっぱり好きだ
と、かみしめていると

「あやさん?聞こえてる?」
と言われて、我に返った。
「ごめんなさい、おはよう」
「あやさん、どうかしたの?」
と言われて、
朝から声にドキドキしてかみしめてたなんて言えない

私は何事もなかったように
「何でもないわ、それよりきらくんこそ」
と言うと
「うん、何でもないんだけど今日だって思うと緊張してきて、あやさんの声が聞きたくなった」

どうしていつもこういうことを言うのか
心臓がもたない

「そうだったのね
私も朝からソワソワしていたわ」
「お昼ごろよね?」
「そう、合否の結果がメールでくるんだ」
「そっか、大丈夫!あんなにきらくん頑張ったんだから」
「あやさんならそう言いてくれると思って・・
だから電話したんだ」

なんて可愛いんだ
時々年下全開な部分をぶつけてくる

「あやさん、ありがとう、また合否が分かったら電話してもいい?」
「もちろんよ、待ってるわ」

そう言って、いったん電話を切った。

あんなに頑張ったんだから大丈夫だとは思うけど、それでも本人は不安よね
もしももしも、ダメだったら全力で受け止めてあげなきゃ
と、私は思った。

そして、正午が過ぎた。
まだ彼からは連絡がない
え?2時?
どうしたんだろう
ダメだったのかな、だから落ち込んでるのかな
私は、不安になってきた。
でも彼が連絡してくるって言ってたから待って居ようと、掛けたい気持ちを抑えて待っていた。

すると電話が鳴った。
彼からだ。

私は、すぐに電話を取った。
「もしもし、きらくん?」
「あやさん、遅くなってごめん、合格してたよ」
私はその言葉に一気に力が抜けてその場に座り込んだ。

そして、心配で胸が張り裂けそうになったのが解放されたのと、合格したんだという喜びが合わさって、彼に話しかける前に涙が止まらなくなった。

「あやさん?え?泣いてる?」
そういわれて、必死に自分を落ち着かせて、でも次から次からこみあげてくる感情が抑えきれなくて
「もう、心配したんだから、電話掛かってこなくて、心配したんだから・・・」
と、つい言ってしまった。

「ごめん、合格メール見て電話しようとしたら、としふみから掛かってきて、早く切りたいのにあいつ電話長くて」
なにその理由と思うと、おかしくなって私はつい笑ってしまった
そして私は小さく
「としふみさんのばか」
と、笑いながら言った。

それを聞いて彼は安心したのか
「あやさん、ごめんね、おれ、合格したよ」
その声は、とっても優しくて心地よくて、丁寧で
私はその声と彼の気持ちに、また涙が溢れてきた。

「うん、おめでとう」
というのが精一杯だった。
「あやさん、泣きすぎだよ、でも俺のために泣いてくれるとか、むっちゃ嬉しい」
と言われて、
「その声でそんなこと言われたら、どきどきするじゃない」
と言ってしまった。

言ってしまったというより、言いたかったのかもしれない
会えなかった時の気持ちが一気にあふれ出して爆発してしまったようだ。

「あやさん・・・」
と、戸惑う彼に
「あなたの声がほんとに好きで、初めて聞いた時からずっと好きだった
だからその声で言われると、胸が熱くなる」
私、何言ってんだ
もう、止められなくなってる

私の言葉を聞きながら彼は黙っていた。

その沈黙に我に返った私は
なんか気まずくなってる?
きらくん、引いたかな
とすごく不安になった

するとしばらくして
「ありがとう、あやさんがそんな感情的な言葉おれに言ったの初めてだね」
と言われて、戸惑った
「いや、あの、ごめんなさい、ちょっと落ち着くわね」
というと
「いいよ、そのままで、感情的なあやさん、もっと好きになった」
ほんとにストレートだ
彼には勝てないなっと思った。

返事を戸惑ってる私に
「あやさん、合格したから会いたい」
と言ってきた。
「うん、私もきらくんにすごく会いたい」
抑えきれない感情がこみ上げてくる。

「さっき、としふみと話してたって言ったでしょ
あいつの用事の話とは別に、ついでにお願いしてたんだ」
「え?なにを?」
「あやさんに相談してからと思ったけど、おれの合格祝いだし勝手に決めちゃった笑
レストラン予約したよ」
そういうことか
だから長かったんだ
と思いながら
「そうだったのね、ごめんね感情的になって、ありがとう」
というと、
「いいんだ、あやさんは本気で俺のこと心配してくれてるって分かったから、嬉しかった」

「それと」
と、彼は少し声が真剣になった。
「それと?」
「食事の予約だけど、正確にはレストランじゃないんだ」

え?どういうこと?よくわからない
と、私は思った。

「部屋にしてもらった、あいつのホテルのスイート」
そう聞いた時、一瞬返事が出来なかった。

to be continued・・・


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