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推し活のための推しカツ丼 

ここ最近、私の中で「かつ丼」が強烈にアツイ。
ことあるごとにかつ丼が食べたくなって、外出先で食事どきになると、スマホのレストラン検索アプリで「現在地・かつ丼」と入力し、常にカツ丼屋を探して食べに行ってしまうのだ。

どうしてこんなことになったかというと、ことは今年7月に行った、フィジー留学に端を発する。

留学先の英語学校には、多種多様な年齢と身分の人たちがひしめいていた。中高校生も社会人も、定年退職後に勉強しに来た71歳の方もいらっしゃった。
みんな、それぞれに素敵で夢があってきらきらしていたので、学校に通う毎日は本当に楽しくあっという間だった。
さて、私の人的特性として、激しくオタク趣味というものがある。
小さい時からアニメ・漫画・ゲームが大好きで、普通はある程度成長すると、自然に卒業していく人が多い中、人生50年を過ぎても、どっぷりと足抜け出来ず、未だ嬉々として最新ゲームに心ときめかし、新刊漫画を嬉々としてダウンロードしているという有様。
そんなオタク人生をこれだけ長く続けているうちに、少ない同好のお仲間をあぶりだす話術を身に着けたのだ。どうするかというと、さりげなーく普段の会話に、アニメなどの話題をこそっと差し込み、反応をうかがうのである。フィジーでも、ついつい同じことをしていたら、Sさんという、世の中にこんな善性に溢れた人がいるのか!と思うくらい、性格の良いお嬢さんが私の撒き餌にぱくりと食いついてくれた。
そして、私が「ワンピース」と「シャングリラフロンティア」がめっちゃスキーなのーと語ると、彼女が好きな作品は週刊少年ジャンプ連載中の「僕のヒーローアカデミア」という作品だと教えてくれたのだった。とても有名な作品で過去にも勧めてくれる人が沢山いたのだが、残念なことに私はまだ未履修だった。こんなに人として素晴らしい人がすすめるなら(前に私に勧めてくれた人も、人間力がものすごく優れた人だった)きっと、さぞ面白かろうと、日本に帰国して、すぐさまコミックス36冊を一気買い一気読みし、アニメ一期(今は6期まで放映済み)を全話一気見して。
……見事に沼ったのだった……oh。
最近、これといったハマりものがなかったこともあり、怒涛の如くハマり、今はアニメを一日2話ずつ見ることにしている。(一気見をしたら、仕事と勉強に多大なる支障がでて、業務上の信頼を根こそぎなくす自信があるため、食いしばった唇から血を垂れ流しながら我慢している)

さて、長いインターバルでしたが、この「僕のヒーローアカデミア」の主人公、高校生の「デク」くん……私は彼が一番好きなのだが、彼の好物が「かつ丼」なのだ。彼はアニメでも学校の学食では必ずかつ丼を食べている。
そして、私の毎日のハッピールーチンたる、アニメ視聴時間の度に、推しが美味しそうに食べているそれをどうしても自分で食べたいという病が、むくむくと生じてしまったのだった。

家で作って簡単に済ませる手もあるが、気まぐれにネット検索したところ、いくつものサイトが「東京・人気カツどんランキング」「かつ丼うまい店10選」などと特集していて、それぞれがいろいろな感想をあげているのだ。かつ丼よ……なんと奥深いのだ!

 とりあえず食べてみないと始まらないので、まず、とある名店に行ってみた。カウンターだけのお店だったが、昼時を外したというのに行列ができている。かつ丼は基本、自分が以前勤務していた店が無敵とおもいつつ食べに行ったところ、まあ、そこそこだけど、うちの店には敵わないかなという感想をもったのだが、今は「推し活」というオプション付きで食べているので、萌え効果で「はあ、実際に食べると、かつ丼というのは、しみじみ美味しいものだなあ」と幸せな気持ちいっぱいで帰宅したのだった。

ここから、私のかつ丼食べ歩きの日々がはじまってしまったのだ。

何件も食べ歩き、もしかしなくても、自分の元勤務先のレシピをもって自炊したほうが美味しいものが食べれるのではないかしらと思い始めた矢先に、昨日、とんでもなく美味しいかつ丼に行き当たっちゃったのだ。

場所は日本橋。外出して食事時になると、息をするように食べログで「かつ丼」検索をかけるのが習慣になっていたので(……病気……)、無意識に検索をかけると「日本橋とんかつ」のかつ丼のレビューが4.6になっているではありませんか、なんだこれ、なんだこれ、行かねば!
もともと、日本橋に来た目的は、仲間との飲み会。しかし待ち合わせにはまだ40分余裕がある。私はまっしぐらに店を目指した。そろそろ閉店間際の店の前には、観光客とおぼしき外人と仕事帰りのサラリーマンが10人ほど列をなしていた。
そして、並んでいるうちにメニューをもった店員さんが、「厳選銘柄豚 宮崎県産あじ豚」と「特上厚切りリブロースかつ」「特選ひれシャトーブリアンかつ」は売り切れちゃったんですよーと申し分けなさそうに回ってきた。
もう、名前からなんか「凄い感」が漂っているので、あったら絶対に注文してたなと思いつつ、しかして今、注文できるのは「熟成四元豚 上焼きかつ丼」のみということで、それでも十分に美味しそうだったので、お願いしますと注文して並ぶこと40分。まんまと飲み会開始時刻になってしまいましたが、ここまできて、このかつ丼を逃す手はない。

友達らには遅れる旨をメールし、やっと店内に案内された。
先注文なので、さほど待たずにカツはやってきた。
ここのかつ丼は、最近のかつ丼界のニューウェーブと呼ばれている「とじないかつ丼」だった。
かつ丼の残念なところは、卵でとじてしまうが故、せっかくのカツのサクサク感が失われてしっとりとしてしまうことにありました。「じゃあ、とじなければいいじゃん」という発想から生まれたのが、このとじないかつ丼なのだ。2022年から話題になってきたこの形態のかつ丼は、渋谷の「瑞兆」と門前仲町の「丸七」が発祥で、ブームに火をつけたのが、人形町「#カツ丼は人を幸せにする」(店名です)と言われている。


「熟成四元豚 上焼きかつ丼」

さて、実食である。
私はこの「とじないかつ丼」をたべるのは生まれて初めて。見た目はとにかくカツが分厚い。これで220gさらに厚い「厚切り」もあったのだが、350gで食べきれる気がしなかったのでこちらを注文した次第。(隣の席の綺麗なお姉さんは食べきれず残して、持ち帰りたいんですと言っていたが、お持ち帰りはできないんですよーといわれて、しょんぼりしておりました)
一口かじると、豚肉の旨味が口いっぱいに広がった。「やばい……旨い」美味しさで脳髄がやられるっっっ。そんな旨味が口内を直撃する。そしてもちろん、とじていないので衣はサクサク。じゅわっサクっの連続攻撃である。さらに下に絨毯のように敷き詰められているふわふわの卵。ご飯と共に口に運ぶと、甘辛いタレと相まって、こちらも食べたことのない種類のうまさ。この旨味が断絶するまえに、次の一口を口内に運ぶという繰り返しで、ポテンシャルはいっぱいいっぱい。完全に他の諸要素はすべてなく「いまここ」だけに私はある。かつ丼と私だけの瞑想解脱の世界。
 終盤でおなかがいっぱいになってきたとき、昼ごはんにクライアントさんがおごってくれるからと、カレー大盛あいがけを頼んだ自分を、これほど呪ったことはなかった。
まあ、米粒一つ残さず完食したのだが。
兎に角、衝撃の美味しさ体験だった。
推し活からはじまって、迷い込んだ「カツ丼道」ですが、ここまで奥深く幸せなものとは思わなかったなあ。
ありがとう「僕のヒーローアカデミア」ありがとう「かつ丼」
これからも「推しかつ丼」を求めて、日本を徘徊していこうと固く決意をして、明日は別の店の訪問計画を立てている。

……太りませんように。

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