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短編小説「僕の町」

そこに有ったものが無くなっていた。
だからといって無から有がすぐ生まれるわけではない。

変な名前の空港に僕は久しぶりに降り立った。
東京じゃ飲みの席でこの空港の名前を当てるクイズなんてして盛り上がったし救われた。その時はありがとう。

小さな町の無人駅に着いた。車掌がいないんだからずっと働き方改革を地方からしている。
歩いて家路へ向かうとなんだか懐かしい道に和む。ただこの懐かしさは内に秘め、酔いしれ噛み締めた。しかし懐かしいだけでは行かないのがこの町だ。
なんとなく知ってはいたけど、緑のテニスコートの前にある、育った保育園は形もなくなっていった。思い入れがあるわけではないがそれでもなぜか悲しい。昔から悲しい気持ちの方が僕は表に出る。

ばあちゃん家も無くなっていた。それを先に知ったのは地元の友人であった。

久しぶりに友人で集まった飲み会。今日も飲めないお酒を少し飲んで気持ちを自分を大きくする。毎回あいつの話は面白い。毎回あいつは店員に態度がでかい会うたび、きっと大きくなってる。毎回あいつはイケメンでいいお父さんになってる。毎回あいつはギャンブルの話。毎回あいつのボソッという一言が飲み会を加速させる。
本当、今日は酔っ払った。
飲めないビールもそろそろいけるだろなんて思ったがやっぱり苦くて僕には甘い飲み物が似合ってる。

実家に帰る度に親の老いに悲しくなる、今まで何もしてない事への劣等感なのか。単純な老いへの寂しさなのか。僕は分からない、分からないけど心が痛い、自分が好きなものはずっと有ってずっと居てほしい。人も物も気持ちもずっとずっと。

そういえば少し気持ちを楽に持てる方法を身に付けた。親の老いを老いではなく成長に変換して考えるようにした。忘れっぽい事も同じ事を言うことも少し怒りっぽい事も成長。少し楽になった。

また変な名前の空港に来た。
この前、訪れた時とは少し違う気がした。そんな身も蓋も無い事を考えてる僕は足をつまずいた。下を見たが何かにつまずいた訳でもない。
ふと気付いた。無くなったものたちに僕は背中を押されたんだ、そう、そんな気がした。
いつだって決意は揺らぐ、だからこそ大事な原点はしっかり忘れないでいよう。


そこに有ったものが無くなっていた。無から有がすぐ生まれるわけではない。
だからこそ無から生まれたもの、今有るものを僕は大切にしていくよ。

ありがとう。



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