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希望の正体は。


プラスチックのように軽い日常が今日も終わる。
退屈に殺された春。

「外に出なよ」
2回目の大学受験を失敗し、春に取り乱して髪の毛が伸びに伸びた僕に、君は吐き捨てるには遠く、かといって抱きしめる程ではないニュアンスで話しかけてきた。

僕は桜が嫌いだ。人の出会いと別れの季節にだけ咲いて散ってる、ただそれぽっちで持て囃されているだけなんだから。
そんな花に何を期待している。それを見て酒飲んでそんなに楽しいかい、そこのサラリーマンよ、そこのインスタに載せることしか考えてない女性よ。綺麗だと思っているかい、楽しいかい。
僕はつまらないとしか思わない。

えー結局突き詰めれば人が動くのは金か愛なんですよ、だから花になんて一切突き動かされない。
だからこんな春真っ只中に出たくなんてない。
大学すらも受からない僕が出るわけには行かないのだ。分かったか。

そんな僕の愚痴をハイハイと受け流し彼女は部屋を片付ける。
彼女と言っても付き合ってる訳ではなく、接吻とか先っちょとか肉体関係もある訳ではない。でも、僕は童貞ではない。彼女とはないだけである。
同じ大学に行くはずだった同級生だった、そう2年前は、今は先輩だ、いや先輩なんて呼ぶには、合格が足りない。

かといって勉強する訳ではない僕を見ては彼女は呆れている。冷たい目をしている。

「プロ野球チップスあるじゃん」
あー内海とラロッカが当たった。
「へー野球興味ないけど、あたしこのポテチ美味しくてよく買ってた」
え、プロ野球チップスを味で買ってんの?嘘でしょ。本当に?
うん。
彼女の目は素直で透き通っていて吸い込まれてしまいそうだった。
いや待て、
「プロ野球チップスを美味しいといいうのは本当に素直なのか、馬鹿舌なのか。」
だまれ。

そんな他愛もない会話をしながら、会話に勢いというか調子乗ってしまったまま、


「もうどうせ受からないからやる気がない!ちょっとタバコ買ってきて」
僕のいい加減で筋の通らない言葉に彼女は切れました。
てめえが買ってこいと言われまして、何故かそれに苛立ちを募らせてしまいまして、自分で買ってくると啖呵を切ってドアを大きな音を立てて閉めて僕は外に出てしまいました。

外は雨です。傘も取らずに勢いで出てしまった。財布は無く、ポケットにギリギリ帰れるであろうお金が入っていたので、そのまま2階を階段でおり、最寄りのコンビニへと向かいました。

外は雨です。僕は必要以上に濡れることが嫌いです。傘を取りに帰ろうと僕は振り返った瞬間、仮面ライダーのキックのような光景が視界に入った。その矢先に胸に物理的大きなダメージを喰らった。それも全体ではなく、1点集中だった。まるで足で蹴られたような。まるで足で蹴られたような?そのまま倒れてしまった。
顔を上げると彼女が仁王立ち。

さっき一瞬視界に入った、仮面ライダーは彼女だったのである。鈍色の銃弾のような物理的な痛みがまだ残ってる。


「インスタのプロフィール書く欄に、日付と絵文字だけで人生を語ってる人。あれとお前は一緒。明らかに薄っぺらいのよ」

彼女の言葉には色があった。目を引くビビットな赤。その色と言葉に僕は彼女にビビッと刺さってしまった。

「いい加減ちゃんとしなさいよ、いつまでいじけてんのよ、ださ
いじけてるのをあからさまに表情に出すなんてダサい!お前なんてインスタにsinceまるまるとか書いてるやつ並にダサい、あとタトゥー入れてるのを見せつけてるやつほどにダサい!人に見せつけるものではなく、自分の中で刻んでおくものだと思う。お前と一緒だけどあまりにも恥ずかしい事に自分が気付けていないのが可哀想1番可哀想だ!哀れだ!」
グダらない日々に気持ちがせめぎ合い、何を言われても納得する事が無かった僕は今、鈍色の銃弾のような物理的な痛みと、機関銃から放たられた言葉の銃弾に心理的に喰らった。
雨の中、君のくれる言葉には不思議な力があると思うんだ

誰でもじゃないけど、誰かが僕の為本気になってくれてた
でもその誰かがいなくなったら僕は、僕は、不安でしょうがないんだと気付けた。
救われた。助けてくれたのは幼き頃見てたテレビの中の仮面ライダーでも、学生のころの先生でもなかった。今、目の前に彼女だった。彼女のキックであり、言葉であった。

死ぬほど土下座をし、雨の中2人で横殴りの水分にやられた。



それから、夏熱風が吹き、秋風が金木犀と過ぎ、凍えるような吹雪を乗り越え、またあの退屈な春が来た。

今僕は、彼女の後輩となり、恋人となった。






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