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愛を追え 


先の見えない暗闇の中、懐かしい記憶が大袈裟に輝き出し、今を物足りなく感じさせ心を苦しめる。

 東京へきて9年弱、良い事より後悔の方が多かった。たくさんとは言えないが異性とも付き合い、散々笑って、それ以上に泣いた。

 今私は何度も胸を刺されている。暗くて何で刺されているかも分からない。鈍色か黒色か、いやもっとむさくるしい色なのかもしれない。とにかく汚系統で胸を刺された。ただただ痛い。せっかくの綺麗な赤も名前も分からない色になり溢れていく。刺されるだけでは終わらず、首を絞めらた。

私になんの恨みがあるのだろう。一体私が何をしたのだろう。もしかして、荻窪行きの中央線で席を譲らなかったせいなのか。いや学生時代、劇で主演を奪ってしまったせいか。いやいや、吸えないタバコを吸って煙をばら撒いたあの高円寺の夜、なわけないか。探したけど大きな原因は見つからない。
そうだ、私を殺そうとした人を見て拝んでやろうと思った。がしかし意識が遠のくと暗闇で見えない。

 深く考えると拝まれるのは私だと気付き恥ずかしくなり見るのを諦めた。きっと、むさくるしい人なのだろう。そうしとこう。もったいない最後の思想がこのままではいけない。走馬灯を見なきゃ。

 それにしても、初めてみた走馬灯に流れてくる思い出達は、場所は鮮明に見えるが、一緒にいた友人、一緒にいた異性の顔は不鮮明であった。なんとも勿体無い。死ぬ手前なのだからもっと鮮明にもっと豪華に着飾ってもいいのに。最後の愚痴は走馬灯に向けてだった。もう笑うことも泣くこともできない。石像のように重く羽毛のように軽い生命だった。

 今夜、夢のまた夢が溶け、私は何者かに殺された。


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