見出し画像

働きながら博士号を取得しました: 前編

読了時間:5min, (有料記事 +5min)

はじめに

ご無沙汰しております。前回のポスト以降、全く社会人博士過程の記事を更新していなかったので、ほとんど人は把握されていないかと思いますが、無事に博士課程を修了判定と博士号(政策・メディア)の最終合否判定が認められ、卒業と学位取得が決まりました。

上のアイキャッチ画像の様に、家でも研究が進む様な環境を作ったり、時には子連れでラボに行ったりとプライベートと研究がほぼ一体化した様な時間を過ごしてきました。

この機会に自身の経験を振り返りながら残しておきたいと思います。少し長くなりそうなので前後編で分けたいと思います。

私の場合は自身の興味対象が向くままにキャリアを選択して今に至っています。同じ様な課題意識を有する方の参考に少しでもなれば幸いです。

あまり推敲せずに書くので読みづらい部分もあるかと思いますがご容赦ください。

卒業から留学まで

私は理系の学部と修士課程を物理学及応用物理学の専攻で卒業しました。卒修論では、物理刺激に応答して色や形(膨潤・収縮)が変化する高分子ゲル材料を合成し、その物性を調べるといったソフトマターに関するテーマを扱っていました。ユニークな物性を有する材料をその特性を活かして、新たなプロダクトを作りたいという思いから、CE製品を扱うメーカーに就職しました。

就職したメーカーではプロダクトよりではなく、セット商品に組み込まれる材料やデバイスの基礎研究を行う部署に配属されました。研究に打ち込む日々を過ごしていましたが、最初に取り組んでいたテーマは、足が長いテーマであったこともあり、当時の苦しい業績と相まって、研究所の再編と共に終了してしまいました。

そんな折に、入社3年目に社内の公募留学の募集があり、応募しました。この制度は自身が学びたい場所(大学と研究室)を調べ、キャリアプランと合わせて提案し、技術面談なども行い合格すると1年間海外のラボで研究できるという制度でした。私は当時、”既存のモノに対する置き換え”の難しさに様々なテーマが苦しんでいたこともあり、技術をどの様に活用するか、どういった価値を探求するかに焦点を当てた価値設計のプロセスやカルチャーを持ち込みたいと考え、当時技術系の社員としては珍しく海外のデザインスクールを留学先として希望しました。技術をどの様に活用するか、どういった価値を探求するかに焦点を当てた価値設計のプロセスやカルチャーを持ち込みたいと考え、当時技術系の社員としては珍しく海外のデザインスクールを留学先として希望しました。

デザインスクールへの留学

MIT Media LabやRCAをはじめとして様々な組織を調べましたが、その中でCIID(Copenhagen Institute of Interaction Design)というデンマークにあるデザインファームに興味を持ちました。ここは小さい規模ですが、きちんと体験させるためのWorking Prototypingを作っていたり、クライアントワークとしてToyotaやIntelといった名だたる企業の仕事を手がけていました。また毎年25名程度の学生を受け入れてInteraction Design Programという修士相当のカリキュラムを有していました。実際にビジネスにも活用されるデザインをやっているということもあり、このCIIDに興味を持ち、数少ない日本人の卒業生をなんとか捕まえたりして内情を調べながらここに留学することにしました。

この様な経緯もあって完全に理系のエンジニアリング(サイエンス)出身の自分が、1年間異国の地でPeople Centred Design を掲げる人たちと一緒に過ごすことになりました。(CIIDのVisiting Researcherとして結局Joinできることになったのですが、この辺りも受験というか一種の入社面接に色々なドラマがあったのですが今回は割愛します。)

CIIDではすでにキャリアを積んでいるCIIDの研究者と一緒に最初はRecordingのためのAssistantとして様々なDesign Researchに同行させてもらいました。最初は本当にインタビューを録画したり、ひたすらリサーチの結果のドキュメンテーションをまとめたり、Ideationのディスカッションにメンバーとして参加しながら、徐々にインタビュアーなども初めて行きました。また途中でプロトタイピングに必要な電子工作やプログラミング、Digital Fabricationの基礎スキルを身につけていきました。

後半は自分でプロジェクトを開始して、Design Research をしながら一つのプロジェクトを行い、これを国際会議に発表する様に論文にまとめました。

デザインスクールで一年学んだ後の問題意識

私はいわゆるDesign Researchを学問として学ぶ前にいきなりProject Based Learningの形で現場に放りこまれ1年間四苦八苦した結果、下の3つの項目が課題意識として残っていました。

1. 組織のミッションと能力との整合性

2. 時間軸の取り扱い

3.文化醸成

Design Researchを行い、対象のコンテクストに深く没入するとリアルな制約条件や困りごとが見えてきます。そこからいわゆるフレーミングなどを行うというプロセスに進んでくるのですが、その価値仮説を検証するためのテストや最終的なサービスの形態は、ある特定の技術に強く依存したものではなく、現在アクセスし得る複数の技術などを組みわせたソリューションになることが多いです。大企業のR&Dはいわゆるニーズがクリアで技術難易度が高い物を扱うケースが多く、特に開発のコストが大きくと時間軸が長い材料やあデバイスの開発においては上手く組織のCapabilityに接続するのが難しいという印象を受けました。これはDesign Researchによるアプローチを否定している訳ではなく、取り組むべき課題と組織のCapabilityを一致させるうには組織の形態を変えるか別のPeople Centredではないアプローチからの研究開発手法も組み入れる必要性を感じました。

そんな背景もあり、日本に帰ってからもこの様な不確実性を上手くマネージしながら研究を価値に接続していくための方法を別の型でも学びたいと思いました。

当時日本の様々な(通い得るという制約から主に東京近郊)を探していたところ、慶應義塾大学のXD(エクスデザイン)は先生方のユニークさと研究室のバラエティ、そして私のやりたいMaterial Experienceに関する研究を行おうとした研究室(当時はサバティカルでMITにいらっしゃいましたが私が戻るちょっと後に帰任予定)があったため、テレビ電話でお話をする機会をいただきました。

こうして半ば留学中の盛り上がった感情のまま研究室にコンタクトをとったところから色々と人生が変化していくことになりました。

(後編に続く)

おまけコーナー

ここでは下のトピックについて持論を記載します。ノートのシステムにも興味があるのでここだけ申し訳ありませんが有料(100円)にします。もし売れたら3Dプリンタのフィラメント代などになり、最後は子供の玩具になる予定です。

・組織構成についての考察

上でも述べた様にデザインプロセスと組織のミッションや能力が合致しないと導入が難しくなります。どの様な組織にプロセスが適合すると現在考えているかについて意見を述べています。実はCIIDが短期間の様々なプロジェクトで短期間で成果を出せる理由はこの組織デザインとミッションの設定による部分が大きいと私は分析しています。

・デザインスクールというキャリア選択について

一流の研究室やMBAなど多くの選択肢がある中でデザインスクールへの留学はキャリアにどの様な影響を与えるかについて紹介します。ここでしか学べないこと、帰国後どの様な引き合いがあるかなどについて経験を紹介します。

約3400字

ここから先は

3,584字

¥ 100

アイディアの具現化やプロトタイプを応援してくださる方はサポートいただけると助かります。個人プロジェクトで得た知見やツールの情報はnoteにて発信していく予定です。