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【Q3】硫黄島の地下壕の状況を教えて

【A】映画ランボーとは似て非なる地下壕でした

 土日は歴史関連を取材をする自称「旧聞記者」は、無類の映画好きです。取材がない週末は、映画を観て過ごすことも少なくありません。そんな中、先日鑑賞したのがスタローン主演のシリーズ最終作とされる「ランボー ラスト・ブラッド」(2019年公開)でした。

※以下、映画の一部ネタバレ含みます。
※冒頭の写真は、特集サイト「令和の硫黄島」に収載された日本戦没者遺骨収集推進協会の提供写真です。https://www.hokkaido-np.co.jp/ioutou

映画のコピーは「史上最強の頭脳戦」

 今作の公式サイトのキャッチコピーは「史上最強の頭脳戦が今、はじまる-」(以下写真ご参照 https://gaga.ne.jp/rambo/)。幾多の戦闘をくぐり抜けてきた主人公ランボーは今作でも「1人対大勢」の戦いに臨みますが、その「最強の頭脳戦」と表現された戦い方を観て、思いました。
「まるで硫黄島守備隊の戦術と同じじゃないか」。

映画公式ホームページより https://gaga.ne.jp/rambo/

壕の総延長「18キロ」 米側の死傷者、日本側を上回る

 硫黄島守備隊はどのような戦術だったのか。それを伝える在島通信隊発の電報が残っています。以下の内容です。
 「本戦闘の特色は、敵(米軍)は地上に在りて、友軍(日本側守備隊)は地下に在り」-。

 C・イーストウッド監督の映画「父親たちの星条旗」でも描かれた通り、地下壕を拠点に姿を見せることなく迎撃する日本側守備隊は、米軍上陸部隊を大いに苦しめました。硫黄島の日米戦は、先の大戦で米軍が攻勢に転じて以降、死傷者数が日本軍側を上回った希有な戦場となったとされています。

 米軍上陸前に守備隊が築いた地下壕の総延長距離は「18キロ」にも及んだと伝えられています。ただ、地下壕の出入り口の位置に関する記録は限定的です。米軍は戦後、硫黄島を基地化する一環で壕口を「しらみつぶしに
爆破するなどした」(旧厚生省の報告書)とされていますから、今後も全容が解明されることは恐らくないでしょう。実際、戦後70年以上たった今なお、地下壕の「新発見」が続いています。

硫黄島の地下壕はサウナ状態、暗闇、極度に窮屈

 冒頭、映画ランボーと硫黄島の共通点を指摘しましたが、映画と実際とでは壕の状況は大きく違います。私が2019年の遺骨収集団に参加した際に入った地下壕は、地上から深さ16メートル。火山活動による地熱によりサウナかそれ以上の熱気に満ちていました。壕内にいるのは10分が限界でした。

 また、生還者の証言によると、硫黄島の地下壕はごく一部の例外を除いて電灯はありませんでした。熱気に満ちた暗黒の地下壕を拠点に戦い続けた守備隊兵士の精神力は想像を絶します。壕内部の高さも腰をかがめなくてはならないほどの窮屈さでした。「閉所恐怖症」の気がある私は作業中、時折、ストレスで心臓がバクバクすることがありました。

硫黄島守備隊の玉砕を伝えた当時の新聞の記事の見出し

地下壕駆使で想定を超える持久戦に

 「硫黄島の組織的抵抗は2週間と判断す」-。
米軍上陸3日後の1945年2月22日の大本営の幹部会議では、そんな見通しが発言されたとの記録が残ります(軍事史学会編「機密戦争日誌 下」錦正社)。が、実際に玉砕した日とされるのは2週間を大きく超える3月26日。守備隊は組織的戦闘により36日間も島を守り続けました。地下壕を使った戦術が軍上層部の想定以上の持久戦に生きたと評価されています。

 映画で登場する地下壕は地熱も漆黒の闇もなく、内部の高さも十分で、硫黄島の壕の実相とは大きく異なりますが、果たしてランボーはどれだけの大打撃を敵に与えるのか。ご関心のある方は、ご鑑賞下さいませ。
(了)

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