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デザートの組み立て

※前回投稿したnoteのデザート、詳しく解説します。

このデザートはフランス菓子Gâteau opéra(ガトー・オペラ)にアレンジを加えカクテルグラスに盛り付けたデザートです。

Gâteau opéra(ガトー・オペラ)


コーヒー風味のシロ ップを染み込ませたジョコンド生地(ア ーモンド風味の生地)とコーヒー風味 のバタークリーム、ガナッシュなどを交 互に層状とし、上面にガナッシュを平ら に塗って金箔を飾ったもの。パリのオペ ラ座界隈の菓子店が作ったといわれてい る。一説によると、オペラは、1949年に ターベルダロワイヨ社を買い取ったシ リアックガヴィヨンが作ったとされ、オペラ 発売は1954年といわれる。名前は夫人のアンドレがつけたが、由来ははっきり しない。フォーブルサントノーレ通りにあるダロワイヨ本店の近くにオペラ 座があったことと、ケーキの上に載せた金箔が華やかなオペラ座と貴婦人たちを連想させることからつけられた名前だといわれている。また、クリシーとい う名店が1920年に作った 「クリシー」という菓子がオペラの原形だともいわれ ている。

みなさんはオペラを食べたことがりますか。食べた方はどのような印象を持ったでしょうか。私が初めてこれを口にしたのは専門学校での講習会でした。当時存在は知っていたものの、菓子の見た目からどっしりと重みのある味わいなんだと想像していました。しかしそれは違いました。とてもジューシーなのです。なぜジューシーなのか、それは生地の一層一層にたっぷりとシロップを打つからです。もうそれはたっぷりです。幅の広いハケを二本使ってビチャビチャになるまで打つ、とても豪快でした。たっぷりの水分が加わることでこの菓子はスルスルと食べ進めることができたのです。ショコラ、コーヒー、アーモンド、オペラ座のような黄金の組み合わせ、この菓子を食べやすくする工夫なのだと瞬時に理解しました。
学校を卒業し、社会に出てたくさんのオペラを食べましたがあの時ほど水分を感じるものはありませんでした。組み合わせは間違い無いのでどれも美味しい。でもたくさんは食べられない。”自分がオペラを作るならこうだ”このときすでに芽生えていました。

クラシック菓子オペラをデザートに

Coupe d'opéra, soufflé au chocolat, espresso, passion
オペラのクープ  スフレ・オ・ショコラ  エスプレッソ  パッション

オペラの必須要素はショコラ、コーヒー、アーモンド、仕上げは必ず金箔をあしらう。そして豊富な水分量です。このルールを守った上で自身の発想を盛り込んでいきます。各パーツに込めた意味、大まかな作り方を紹介します。

デセールの構成
パッションフルーツとオレンジのソース(Sauce aux passion et orange)
ブランマンジェのエスプーマ(Espuma blanc mange d'amandes)
チョコレートのスフレ(Soufflé au chocolat P125)
マスカルポーネのムース(Crème au mascarpone)
エスプレッソ のジュレ(Gelée de café)
オペラ風味のソルベ(Sorbet l'opera)
チョコレートのクランブル(Streusel au chocolat

パッションフルーツとオレンジのソース
(Sauce passion et orange)

このパーツは前回紹介したようにデザートのアクセントとなるパーツです。これ単体で食べても美味しくなく、他の要素と出会うことで本領を発揮します。
キャラメルを炊いてフレッシュのオレンジとその皮のすりおろし、オランジュ・アメール(苦オレンジ) 、パッションフルーツを加えてじっくりと煮込み濃縮していきます。出来上がったソースをよく冷やし、グラン・マルニエ(オレンジリキュール) を加えて仕上げます。
柑橘を扱う際のポイントとして皮を使いましょう。味と香りをグッと引き出してくれます。
少し余談ですが、オレンジ単体で食べる時も、実をきれいに処理し、少量皮をすりおろし、グラニュー糖をパラっと振りかけてマリネするだけで驚くほどおいしくなります。オレンジリキュールがあればなお良しです。

ブランマンジェのエスプーマ
(Espuma blanc mange d'amandes)

これはアーモンド要素の軽いムースです。牛乳とアーモンドスライスを火にかけて牛乳の量が半分になるまでじっくりと濃縮します。鍋底が焦げ付きやすいので絶えず混ぜる必要があります。これをレ・ダマンド(lait d'amandes)と言います。アーモンドミルクです。このアーモンドミルクに甘みをつけて生クリームを加えコクを出します。
アーモンドはチョコレートやコーヒーに比べ少々味が弱いため香りを補います。アマレットという杏仁香のリキュールを加えます。アマレットはナッツ系の菓子と相性がよく素材の香りを最大まで引き上げてくれます。特にピスタチオ を使った菓子には必ず加えています。
このパーツは液状です。ここでエスプーマという器具を使用します。亜酸化窒素を使い、あらゆる食材を瞬時にムース状にする器具、それがエスプーマです。"espuma"とはスペイン語で「泡」を意味します。スタバでフラペチーノに生クリームを絞っているあの器具です。これを使用しフワフワのアーモンドムースを作ります。アーモンドの主張を前面に押し出します。

チョコレートのスフレ
(Soufflé au chocolat P125)

このデセールの柱となるパーツです。
チョコレートは長年愛用してるヴァローナのP125というチョコレートです。
チョコレートをすっきり食べる技法としてスフレを採用しました。メレンゲにたっぷりと空気を含ませチョコレートと合わせることで口当たりが軽くなり、カカオの香りがより感じられるようになります。さらにブランデーをしっかりと効かせます。これはアクセント要素です。単調なチョコレートの味わいにキレを与えてくれます。
出来上がった生地は型に流し冷凍します。芯までしっかりと凍った生地を200°のオーブンで3分焼きます。この高温短時間がポイントです。それは生地の中心をミキュイ(半生)に上げたいからです。冷凍するのも過剰に火が入るのを防ぐ工夫です。芯までしっかりと焼ききったものよりもよりカカオを感じられるようになります。小麦粉が入りますが予め牛乳と一緒に炊いているのでミキュイに焼いても衛生面は問題ございません。ただ焼いたその日に使い切ります。これを冷蔵庫でよく冷やし使用します。

マスカルポーネのムース
(Crème au mascarpone)

マスカルポーネチーズとコーヒーと言えば何でしょう。そう、ティラミスです。これはコーヒーとの相性を狙い採用したパーツです。卵白に高温のシロップを加えて泡立てるイタリアンメレンゲと、卵黄に同じく高温のシロップを加えて泡立てるパータ・ボンブを加えたマスカルポーネのムースです。マスカルポーネチーズは深いコクがありバターとほぼ同等の乳脂肪分のため、たっぷりと空気を含ませ軽くする必要があります。さらにここでもアマレットで香り付けして全体のバランスを取ります。そして原形のオペラの仕上がりをイメージしチョコレートのグラサージュで表面を艶やかに仕上げます。

エスプレッソ のジュレ
(Gelée de café)

当然これはコーヒーの要素、そして苦味のアクセントです。もう一つ、水分です。ここで登場しました。このジュレがデセールに潤いを与える唯一のパーツです。グラスに盛り付ける前提なので凝固剤も極力抑えて柔らかいジュレにしています。さらにこのジュレはスプーンでよく混ぜてクラッシュして使用します。クラッシュすることで口に入れたときの分散が早いのです。香りを一気に広げられる工夫です。

オペラ風味のソルベ
(Sorbet l'opéra)

”オペラのアイスがあったら面白い”こんな発想から生まれたソルベです。
チョコレート、コーヒー、アーモンドこの3つの食材をどんなバランスで合わせるか、かなり試行錯誤した思い出があります。
チョコレートとコーヒーは主張が強い、どうしてもアーモンドを感じられず、悩んでいたとき閃いたのが大好きなアマレットとアーモンドエッセンスです。アマレットについては先ほど説明しましたが、アーモンドエッセンスがとても優秀です。アーモンドクリームなどに入れても力を発揮します。これで3味一体となったオペラのソルベが出来上がります。アーモンドの主張でお悩みの方は是非お使いください。
アイスクリームやソルベを作る際の考え方ですが、たっぷりの空気を含み、氷点下の冷たさがあることを考慮に入れなくてはなりません。つまり味がぼやけるということです。ですからアイスクリームマシンにかける前の段階で甘みも苦味も強くしておく必要があります。
アイスクリームマシンは冷却しながら攪拌して空気を含ませる構造です。

チョコレートのクランブル
(Streusel au chocolat)

クランブルとはソボロ状のクッキーです。このデザートでは食感の要素です。チョコレート風味にし、カソナードと呼ばれる精製度の低いミネラルたっぷりの砂糖を使用します。粒子も荒いのでサクサクとザクザクの両方を兼ね備えたクランブルになります。クレーム・ブリュレ に使われる砂糖です。
発酵バターを使用することでさらに香りを高めています。自宅でクッキー焼いたことがある方いらっしゃいますか。騙されたと思って一度発酵バターを購入してクッキーを焼いてみて下さい。驚くほどおいしくなります。

ドレッサージュ 
(dressage)

器選びについて。このデザートにカクテルグラスを選んだ理由。それはデザートに涼を与えるためです。例えばこのデザートに流行の和皿に盛り付けたらどうなるでしょうか。ただでさえチョコレートがメインのデセールなのに何だかとても野暮ったくならないでしょうか。季節も考慮します。徐々に湿度も上がってきて蒸し暑くなってきました。ガラスの器に盛りつけることでとても涼しげです。見た目の印象に大きく影響しますのでお皿や器のチョイスは慎重に。

⑴カクテルグラスにパッションフルーツとオレンジのソースをごく
少量(3g)注ぐ。ここで量を誤るとバランスが大きく崩れるので注意が必要。
⑵ソースを覆うようによくシェイクしたエスプーマ(5g)を絞る。
⑶チョコレートのスフレ(20g)を⑵にのせる。非常に柔らかいスフレ。形が崩れないよう細心の注意を払う。
⑷ここで薄い円形のチョコレートの板をかます。デザートの画像で空洞が確認できる。それはこのチョコレートの板があるから。
⑸マスカルポーネのムース(15g)を中央に置きその周りを囲むようにエスプレッソ のジュレを流す。
⑹オペラ風味のソルベ(15g)をクネル型(ラグビーボール状)にとり逆サイドにクランブル(5g)を振りかける。
⑺仕上げに1㎝角にカットしたチョコレートの板を金色に装飾し、3枚あしらう。ポイントとなる装飾は奇数枚のせるとバランスが良い。

各パーツにgを表記しました。少なそうと感じましたか。前回の記事でもお伝えしたようにこれぐらい少なくしてちょうど良いのです。もう終わった、もう少し食べたいかも、ぐらいが。

レシピ

実際に現場で使用しているものです。グレーの部分は食材コストが入力してあるため伏せてあります。同業者の方はこれを参考に各パーツを作ってみても良いです、そうでない方もこのレシピ(ルセット)から現場の雰囲気を感じていただきたいと思います。私がここまで紹介してきた考えがあり、これだけ食材と向き合い、ゲストの目線に立ち、料理とのバランスをとっています。

伝統への敬意

クラシック菓子をベースにデセールを考えるときに少し悩みます、フランス菓子として軸はぶれていないかと。パッションフルーツを使ってオペラと名乗っていいいのかと。でも本質を外さずに許容の範囲内で自分の個性を出したい。このデセールの表現はその手段。アップデートは必要です。このデセールに光を当ててくださるゲストの力も不可欠です。先人たちが築き上げたこの大好きなオペラ、総力を持って後世に繋げたい。
そんなことをいつも思うのでした。

ありがとうございました。


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