バイデン新政権始動! 強硬な対中国政策と「同盟再強化」は東アジアでの戦争発火へつながるのか?〜岩上安身によるインタビュー 第1032回 ゲスト 元外務省情報局長 孫崎享氏 連続インタビュー第3回 2021.3.8
(IWJ編集部)
2021年3月8日、「岩上安身による元外務省情報局長・孫崎享氏の連続インタビュー」の第3回を収録した。
冒頭、前回の振り返りも兼ねて、「東アジア・台湾沖における米中ウォーゲームでは、米軍の18戦18敗、米軍はもはや中国軍に勝てない!」と明らかにしたグレアム・アリソンの論文を再確認。
しかし孫崎氏によると、アリソンが引用したニコラス・クリストフの論文には続きがあるという。クリストフは、ウォーゲームで18敗といっても実際は違うとし、「米国は湾岸から中国への石油供給を妨害することもできる」と、石油を止めれば米国は中国に全敗の状態から脱することもできると書いている。
インタビューはこの読み解きから始まった。
クリフトフが言う「石油供給を妨害する」とは、インド太平洋石油シーレーンのチョークポイントであるマラッカ海峡を封鎖することを意味する。
孫崎氏は、マラッカ海峡こそ日米豪印の「クアッド(QUAD)」の重要な狙いであると指摘する。そして孫崎氏が入手した独自情報によれると「海上自衛隊の元幹部は、軍事的意味合いも認識してクアッドに入ることにしている」という。
一方、中国は、前回のインタビューで明らかになったように、すでに「マラッカ海峡」というチョークポイントを乗り越える手を打っている。そのひとつが、ミャンマーのチャオピュー港から中国・昆明への石油・ガスパイプラインだ。
チャオピュー港はマラッカ海峡の東に位置しており、ここから陸路で中国国内に石油を送れば、もはやマラッカ海峡を通る必要がない。
さらに、中国が一帯一路で建設を目指すパキスタンの経済回廊と、イラン国内のパイプラインと港湾にも注目する。
中国は新疆ウイグル自治区の首都カシュガルとパキスタンのグワーダル港を結ぶ経済回廊を建設中で、このパイプラインと高速鉄道・高速道路が完成すれば、第2のマラッカ海峡チョークポイント回避のルートができる。
加えて、中国が一帯一路で重要なパートナーとしているイランでは、ペルシャ湾の奥に位置するグーレフ油田と、ペルシャ湾出口のある、ジャースク港を結ぶパイプラインを建設している。
ジャースク港はホルムズ海峡を出たところにあり、インド太平洋石油シーレーンのもうひとつのチョークポイントであるホルムズ海峡有事の際にもイランは石油を輸出できることになる。
中国は、入念にチョークポイント外しを進めている。ホルムズ海峡とマラッカ海峡という、石油を運ぶシーレーンの2ヶ所の重要なチョークポイントのどちらも見事に外している。
岩上は「パイプラインは相当長い計画でやってきた。一帯一路ではアフリカにも及ぶ。ジブチからディレダワにも投資してる。チョークポイントを絞めても中国は石油が手に入るが、日本と韓国はバンザイですよね。クアッドから離脱せざるを得ないじゃないですか」と指摘。
孫崎氏は「現実問題としてこういうもの(チョークポイント外しの迂回回路)ができている。それに中国は石油依存度を相当下げている。本当に賢明ですよね。自然エネルギーずっとやっていますから。かつてのマラッカ海峡の危機はないと思います」と答えた。
岩上はさらに、「実は、東アジア諸国で中東に一番依存してるのは日本でした」と指摘。
実はマラッカ海峡が封鎖されて一番困るのは日本だ。中国のように陸路パイプラインによってチョークポイント外しができないうえ、国内に豊富にある自然エネルギーをあまり活用せず、石油依存を改めていない。
ここで、岩上は「第3次世界大戦」の可能性について問題提起した。
「今の状況は、第1次大戦のときと酷似するのではないかと。日本ではほとんど言われませんが、欧米ではすごく議論されてますよね。覇権交代の状況がよく似ています。
第1次大戦時、覇権国は海路『3C』(カイロ、ケープタウン、カルカッタ)を握る英国、対する新興国ドイツは陸路『3B』(ベルリン、バグダッド、ビザンティウム(イスタンブール))。現在は、覇権国米国がシーレーン、新興国中国が一帯一路でユーラシア大陸を結ぶ。
それに、第1次大戦時はスペイン風邪、今はコロナでパンデミック。
英国とドイツの覇権争いから第1次世界大戦になっていったように、米中覇権争いから第3次世界大戦になるってことはありませんか?」
これに対し、孫崎氏は第3次世界大戦にはならないと明言する。
孫崎氏「重要なのは、第一次大戦のときはアウトサイダーのアメリカがいた。アメリカがどっちにつくかによってパワーバランスが変わってくる。今回はそれがないからもろに今回は米中の力関係になってくる。(中略)
私は第3次世界大戦はないと言った。第1次世界大戦は、力のある同士が実際に戦った。米中は核兵器があるから、核で戦う選択肢はどちらにもない。自分たちの国の運命を左右する戦争はできない。これは第1次、第2次とは違う」
ただし、と、孫崎氏は保留する。
孫崎氏「冷戦のときもこんにちも、核の戦争ができないことは米中ロも知っている。冷戦中キッシンジャーなどが考えてたのは、お互いに核の危険があるから小さな戦争もやめようと。
今のアメリカは核戦争はできないから、その下の戦争でいじめようと」
米中が真っ向からぶつかり合うことはないものの、その周辺でさまざまな衝突が起こってくると言う。
そのひとつの事例として、2月15日、22日と、イラクにある米軍基地がロケット弾攻撃を受けた報復に、米軍が25日にシリアを空爆した「小さな戦争」があった。これはバイデン政権になって初めての軍事行動だ。米国防総省は「親イラン」の勢力を攻撃したと説明している。
対中国まで見すえた「小さな戦争」が、こうして極東から中東にかけて今後も延々と続いでいくと思われる。そしてそれは「持久戦」となる。そして「持久戦」となればなるほど、中国は有利になると見られている。
孫崎氏は、この出来事には、金融資本と軍産複合体に支配されているバイデン政権の正体が垣間見えるという。孫崎氏は、米国の中東政策は、「イスラエルの安全」と「軍需産業の利益」のふたつで決まってくると指摘する。
インタビューはさらに続き、孫崎氏による米軍シリア攻撃の背景の解説、米中対立の焦点となる台湾、台湾有事の際の日本はどうなるのか、行きすぎた自由主義に導かれた米国社会の傷み、民主主義の危機などについて、孫崎氏ならではの鋭い視点での議論が提供される。
■ハイライト(全編動画 1時間50分ほどは有料となります)
日時 2021年3月8日(月)18:30~
場所 IWJ事務所(東京都港区)
※この記事はIWJウェブサイトにも掲載(https://iwj.co.jp/wj/open/archives/489590)しています。
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