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パンチライン百科事典 p.13 -Live at the Barbeque-

 ヒップホップの歴史における最高のリリシストの1人、Nas。彼の名前はデビューから20年弱経った今でも多くの人が知っていると思います。しかし、Nasが初めて公式にラップを披露したのは、彼のファーストアルバム、『Illmatic』ではないということを知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。彼の初のラッパーとしての露出は1991年にリリースされた、Main Sourceというヒップホップグループのアルバムの中の1曲だと言われています。今回はその曲からのパンチラインを紹介したいと思います。

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Main Source - Live at the Barbeque (feat. Nas) 0:36〜 

When I was 12, I went to hell for snuffin' Jesus
12歳の時、ジーザス(神)を殴って地獄行き

0:36〜

 『Live at the barbeque』Nasのバースの中には多くのパンチラインがあるわけですが、その中でもこのラインが特にインパクトが強かったと言われています。なぜなら、このラインの意味が読んで字の如く「ジーザス(神)殴って地獄行き」だからです。どんな悪ガキであろうと、どんなギャングであろうと神を冒涜するような発言は基本的にはしません。しかし、このレコードに針を落とすと30秒ちょっとでどこの誰かもわからない17歳の耳を疑うような暴言が聞こえてくるのです。しかも殴ったのが12歳の時となれば、よほど極悪な血を受けて生まれてきた子供なのだろうと想像させられます。「有り得ない」、当時みんなこのように思ったのではないでしょうか。とはいえ、Nasはただ神を冒涜したかったのかと言われると実はそうではなく、ここにはもう1つの意味が隠されています。
 まず、前提知識として、”Jesus”(ジーザス)「白人警察官」の例えとして用いられています。白人警察官と一般的なイメージとしてのジーザスは、白人という点で共通点があり、且つ、Nasが彼らから受けていた黒人差別的な不当な扱いを考えると、「まるで彼らが神のように全てをコントロールしていた」という意味合いも含めてこの表現には納得がいきます。これを踏まえると、ここでの”snuffin' Jesus”とは「白人警察官を殴った」という意味だと考えられます。では、”I went to hell”(地獄行き)とはどういうことなのでしょうか。警官を殴った結果、行き着く先は何箇所か検討は付きますが、Nasは当時17歳ですので恐らく留置所か、社会更正施設などのことでしょう。そこでの拘束された時間は彼にとって辛く、正に"hell"(地獄)のような環境であったと言っているのだと思います。
 このラインにおけるNasの凄いところは、あくまで自分のリアルな実体験を、最も注目を集められる形で発信しているという部分だと思います。神への冒涜という限りなく炎上商法に近い武勇伝としてパッケージングし、彼の存在を広く認知させることによってその奥にある彼なりのメッセージを伝えようとする、かなり賢い戦略だと思います。まだデビューもしていない少年が書いた詩だとは到底信じられません。


P.S. 「DJ Premierも度肝を抜かれた」や、「Columbia Recordsはこのラインを聞いて契約を決めた」など、このパンチラインに関する色々な噂があります。実際にファーストデビューの布石となるインパクトを持っていたことは間違い無いのではないでしょうか。

written by じょん

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