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コーヒーザウルス

「苦いのやなんだよなあ。
ステゴサウルスの背ビレは苦い。

おなかとせなかが ひっつくくらい
おなか空かせて 歩いていたら
せっかく獲物を見つけたのに
ステゴサウルスじゃテンション下がる。

これ、マジでティラノサウルスあるある。」

ぶつぶつ呟きながら、歩いてる。ティラノサウルスのポニーは、田舎暮らし。
街に行ったことがなかった。

ある日、お母ちゃんが地響き起こしながら猛ダッシュで帰ってきた。
あーあ。地割れ起きてんじゃん。

「ポニー!お隣のマンモスのおっちゃんが、あんたにって!」

街に行ける汽車のチケットだ。

「ほんと?嬉しい!一回行ってみたかったんだよ!」

ポニーは大急ぎで準備した。
街へ行けるってなら、とびきりオシャレしてかなきゃ。
シダの葉のピアス。ラプトルの背骨のネックレス。
ポニーが意気揚々と準備してるもんだから、本人には内緒なんだけど、こんなセンスのかけらもないファッション、もう誰もしてないんだよね。

まあポニーがいいなら、そっとしとこう。

「行ってきまーす!!」
「気をつけて!お土産買ってきてね!」
母さんが軽く手を振る。周りの大木が吹っ飛ぶ。

汽車の中は、なかなかにカオスだった。
連休だからだろう。


汽車の隣に座ったコイツ。やけに臭えな。
全身真っ黒、サングラス。黒のニット帽被った、毛むくじゃらなスカンクだ。
スカンクにサングラスのイメージねえけどな。
こいつ、「モグラ先生のおしゃれグラサン特集」読んでやがる。

そんな、いろんな臭さに耐えながら街に着いた。
そこはポニーにとって、驚きの連続。

「なんじゃこりゃ!何サウルス!?」
車だ。
「えー!昼なのにホタルがいっぱい!」
信号機だ。

なんだこれ?C A F E?なんかオシャレだから入ってみよう!
周りのお客にシダのピアスを笑われながら、お店に入ろうとしたその時

「あいつを捕まえて!!」
さっきのスカンクが全速力でこちらに向かってくる。
手には、どうやらアイツのものではないオシャレなカバン。

スカンクはポニーの股下をくぐり抜け、
店を出て逃げていく。

「待てー!!」
カバンの持ち主のカタツムリ夫人が、全速力で腕を振って追いかけてるが、店の外にさえ出られてない。
日が暮れようとも追いつく気がしない。

ポニーはスカンクを追いかけた。
追いかけっこならお手のもの。ウサギのパトカー追い抜いて
ボッタボッタと信号壊して 街灯踏みつけひとっ飛び。
真っ黒スカンク追い込んで、行き止まりにまで追いやった。

「そのカバンあんたのじゃねえな!なにか臭うと思ったぜ」
そう言ってカバンを奪い返すと、また大急ぎでカフェに戻った。
彼がカフェに着く頃、街の街灯も信号機も、一本たりとも残ってなかった。

母譲りの地割れで、水道管が破裂。
至る所から水が沸いてる。

「すげー!!オアシスじゃん!」

お前のせいだよ。


カフェに着くと、まだ全速力で追いかけてるカタツムリ夫人が
やっとカフェを出たところだった。

「カバン、取り返してきましたよ」

「まあ!嬉しいわ!本当にありがとう!お礼に、これをあげるわ」

ポニーは、一杯のコーヒーをもらった。

「いいんですか!ありがとうございます!

ぬあああ苦っ!

もらったコーヒーを、思いっきりカタツムリ夫人の顔に吹きかけてしまった。

苦いけど、美味しいですねこれ。あ、すいません。」

「私は、塩以外なら平気よ。カタツムリでよかったわね。
 よかったらご家族にも買って行っておあげなさい。」

そう言って、夫人は、コーヒーチケットをポニーに渡した。


ポニーは家に帰るなり、母さんと机を囲んで一緒にコーヒーを飲んだ。
「これ、苦いんだけど美味しいよね。」

二人は、互いに顔をコーヒーでビシャビシャにしながら、笑っていた。


____おしまい

かい(改@3分で読める物語)








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