根拠のある医学情報とは何か

私はこのほど、漢方薬加味帰脾湯(かみきひとう)が認知症高齢者の暴言、暴力、易怒、妄想、幻覚などの精神症状を緩和するとともに、挨拶する、喜ぶ、感謝するなどの望ましい感情表現を改善することを臨床研究で明らかにしました。この研究は本日(3/16)国際的な医学雑誌Psychogeriatricsに論文として受理されました。私がこの研究を臨床研究登録サイトUMINに登録したのは2021年10月21日です。それが今日やっと論文として受理されたのです。



きちんとした臨床研究は、まずこのUMIN(https://www.umin.ac.jp)などの国際的に認められた臨床研究登録サイトに登録しなければなりません。もちろん日本語だけではダメで、英語で登録しなければなりません。登録された臨床研究は登録サイトから追跡され、逐次研究がどう進展しているか、あるいは遅延しているのか、遅延しているならその理由は何故かなどを報告しなければなりません。



その上で幾多の困難を乗り越えて研究で結果が出れば、英論文投稿です。国際的な論文と認められるにはPubMed(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)に収録されているジャーナルであることが必要です。最初に投稿したジャーナルで掲載が認められることはまずありません。「価値がない」「当雑誌のレベルにふさわしくない」の一言で蹴られることもしばしばです。いくつかのジャーナルにトライしたあげく、ジャーナル編集部が「検討の価値がある」と認めた原稿は、複数のreviewer(査読者)に廻され、その分野の二名以上の専門家が原稿を読み、そのジャーナルにふさわしいか、医学的に発表する価値があるか、論文の内容に疑問点はないかなどを細かくチェックします。一発で通ることはまずありません。大抵は「ここはどうなっている、これはこう書き直せ」などの細かな指摘とともにrevise、つまり修正要求が付いて戻されます。その査読者のコメント一つ一つに丁寧に答え、査読者の要求に従って原稿を修正し、それが数回くり返された後、やっと論文として受理(accept)されるのです。



こうしたきちんとした手順を経たものだけが、医学的な根拠として世界的に認められるのです。もちろんジャーナルに公表されてからも専門家達から色々な疑問や指摘がなされることもありますが、PubMedで検索されないようなジャーナルに載せても、そもそも専門家からは相手にされません。


私がしばしばワクチンなど医学的な話題で「引用文献はPubMedで検索可能な英文原著論文に限る」というのはこう言うことです。YouTubeだTwitterだと本人が誰のチェックも受けずに勝手に載せられる情報は、根拠ある医学情報とは看做されないのです。

漢方や鍼灸ではよく「有名な」誰それがこう言っている、対談でこう言った、本にこう書いている、講演でこう話した等々がさも真実であるかのように広められ、ネットに乗って拡散されます。しかしそういう情報はどれも上に述べたような厳格な手順を踏んでいません。そういうのは医学的に根拠ある情報として受け取ってはならないのです。医学的にきちんと定められた手順を踏んで実施され、公開された研究結果だけが「医学的エビデンス」なのです。その他のものは全て「本人の勝手な主張、思い込み、言いっぱなしの無責任な言動」に過ぎません。そういうものをもとにして漢方であれ鍼灸であれ、医学を語ってはならないのです。

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