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4年間CTOとしてどんなことを考え/どんな意思決定をして組織をつくってきたか

Scoville CTOのいわーく(@iwark02)です。ちょうど4年前になる2016年12月にCTOとして入社して以来、0からエンジニアチームの構築をしてきて、2020年にはエンジニア/デザイナーだけで40名近い規模となりました。
この記事はCTOA Advent Calendar 2020 の8日目の記事になります。

理想的なエンジニア組織を作ろうとするとどうも考えることは似るようで、最近NETFLIXのカルチャーが記された『NO RULES』という本をチラ読みしたんですが、僕たちが志している姿とかなり近しいものでした。オススメです。

ただ、NETFLIXのように社員に25万ドルの給与を設定したり、優秀じゃない社員を即解雇するようなことは、なかなか難しいことです。特に日本に根っこを張ってる企業では法律的にも欧米での成功事例を全く同じように持ってくるのは難しいだろうと思います。

本記事ではこれまでの4年間、理想的なエンジニア組織を志して0から作るなか考えてきたことや意思決定を振り返っていきます。組織作りに携わられている方、これから作っていかれる方に何かしら参考になることが一つでもあれば幸いです。

※ CTOという大層な肩書きを持っている以上、発言に責任が伴うのは重々承知していますが、あくまで僕個人による記事なので何か気に触るような内容がございましたら@iwark02まで直接マサカリぶん投げていただけると幸いです。

毎日成長する人を採用する

まず最初に組織作りにおいて最も重要と言っても過言ではない採用についてです。ここで本当に重要なことが、(当たり前のようですが)優秀な人を採用し、逆に微妙な人を採用しないということです。

NETFLIX本でも組織の「能力密度」を上げることの重要性が非常に強調されています。可能な限り優秀な人だけを採用し、優秀でない人は採用しない、あるいは組織から出ていってもらう、というものです。

急成長ベンチャーがよく陥る罠として、資金調達等で急に大量採用を行うなかで微妙な人が入社してしまい、気づかぬうちに内側から腐っていくということがよくあるような気がしています。

エンジニアの視点でわかりやすい例を挙げるなら、プロダクトを作るときにコードレビューって必ずしますよね。このとき、優秀な人ほどコードのレビューをする時間は相対的に増えると思います。そして組織に微妙な人が入るとその人のコードをレビューをするより、レビュワーの優秀な人が自分でコードを書いた方が早いという状況が起きてしまったりします。ハッキリ言うと、いるだけ邪魔なんですね。その"微妙な人"がどんどん成長して、コード品質が高まり、レビュワーの使う時間が減っていけば全く問題ないんですが、問題なのはその微妙な人が成長もしない場合です。こうなるとレビューをする側の優秀な人がどんどん疲弊していき、優秀な人から順番にどんどん組織を抜けていくという事象が発生してしまいます。

このような状態を避けるためにもNETFLIXのように「業界最高水準の人だけを採用する」という戦略を採れれば一番良いんですが予算的な上限もあるので、僕らは毎日成長する人を採用することに重きを置いています。(『一日ひとつだけ、強くなる』という言葉は、僕が大好きなプロゲーマー梅原大吾氏の言葉であり、書籍にもなっています)

毎日成長する人というのは、知的好奇心が旺盛で、放っておいても勉強をする人です。僕らのチームは8割が海外出身のエンジニアなんですが、皆漢字の成り立ちとかが好きだったり、「大橋はおお"はし"なのに日本橋はにほん"ばし"だよね、どういうときに濁るの?」とか難しいことを聞いてきたりします。もちろん技術の専門領域の話になると、それこそ止まらず語り続けてくれます。

この原則は年齢や経歴によらず適用されます。たとえば弊社には40代の、イギリス出身でバリバリの経歴を持つベテランエンジニアがいるんですが、正直彼が一番成長速度早いんじゃないかというぐらい勉強量、成長速度がズバ抜けてる人がいます。何歳になっても頑張れるな、という自信がもらえる存在です。(ちなみについ最近、彼は経営陣の仲間入りをしました🎉)

採用担当を採用しない

「優秀な人だけを採用する」にせよ「毎日成長する人を採用する」にせよ、採用が組織の生命線になるのは間違いありません。従って、少なくとも組織のサイズが比較的小さいうちは採用は他者に委譲せず、可能な限り経営陣が自ら行うべきだと思っています。

僕も今でこそ最終面接だけに出ることが多くなりましたが、最初の3年間は一次面接から最終面接まで全て参加していました。

これは余談なんですが、僕は英語が得意ではなかったので、言葉に頼らない判断が必然的に多くなりました。一緒に面接に参加してもらっているメンバーとどのぐらい話が弾んでいるか、とか。ただ、会社のミッションや歴史、カルチャーに関する話は、なるべく自分の言葉で話し、質疑応答にもこたえました。ちなみにそのときは、求職者の方だけに話しかけるというよりも、他の面接官に対しても目線を揃える良い機会だと捉えていました。

もう一つ余談なんですが、ベテランの求職者の方たちに自分たちを大きく見せて「最高の会社だから来てください」と伝えるのは全く逆効果だと思っていて、会社で抱えてる課題とかを率直に伝えて「なんか若いCTOが頑張ってるじゃん、手助けしてやろうか」と思わせるぐらいの方が良いと思っています。実際そうですしね。最高の会社だから来て欲しいんじゃない、最高の会社にしたいから手を貸してほしいわけです。

日本人だけを採用しない

前述の通り、僕らの会社のメンバーはほとんどが海外出身のメンバーです。採用のターゲットを日本に絞らないことは単純に採用対象の母数を増やすということでもありますし、何より一番の違いは、組織に多様性をもたらすことにあります。日本人の中にも多様な人がいるのは間違いないですが、やはり日本人で固める組織と、様々な国の文化的背景のなか育ってきた海外出身のメンバーがいる組織では組織文化が大きく変わります。

短期で見ると、同質な文化を持つ人が集まっていると例えばそもそも意見が割れにくいですし、意思決定もスムーズで仕事がしやすいでしょう。ただ僕たちにはグローバルの市場に展開していきたいという野望がありますし、日本人の価値観に囚われないためにも組織に多様性が必須だと思っています。また、組織文化は特に最初が肝心だと思っているので「後から」は選択肢から外し、最初から日本人に限らず採用をすることにしました。短期で見るとどうしても投資が大きくなると思うんですが、長期では必ずリターンが大きくなると思います。

役割と責任を明確にする

日本人だけを採用しない、という意思決定を経て色々な国からエンジニアを採用しました。日本という国が素晴らしいと思っている海外の方は僕が思っていたよりも非常に多く、採用を始めた当初はもっと難航するだろうと覚悟していたんですが、日本で働きたいという海外の方に沢山会うことができ、徐々にメンバーの数も増えていきました。

人数が増えていき明確に出てきた課題の一つが情報を透明にすることの重要さです。メンバーの多様性が増えれば増えるほど、一つの概念に対する捉え方がそれぞれのメンバーによって変わってきます。特に日本人が「空気を読む」能力に秀でているのもあると思うんですが、これまで僕が属してきた日本人同士のコミュニティでは「曖昧な情報環境」でも何となく物事が進んでいましたが、多様なメンバーが集まった状態では、情報が曖昧の状況だと物事が進まないことに気がつきました。

その中でも特に、それぞれのメンバーが持っている役割(Roles)と責任(Responsibilities)は何か、どのような成果が期待されているのかをクリアにすることが重要で、メンバーごとのジョブディスクリプションをきちんと書き、更新していくことが必須となっていきました。よく「そんなに責任領域を明確にしたら、落ちたボールを誰も拾わなくならないか」と聞かれるのですが、この責任領域というのは随時更新していくものなので、新しいボールが拾われた瞬間にその人の責任領域にそのボールがきちんと追加されることになります。例えば2年目のデザイナーがTech Adminとしてビザ申請や海外送金などのボールを持ってくれていた時期も長くあったりしました。こうした、本来もっと得意とする専門家がいるが現状の組織には適任者が居ないという課題が浮き彫りになって表れるのも良いところですね。

ガチガチの給与制度は作らない

「役割と責任」から各人の期待値が明文化されていくと、その人の成果を評価しやすい状態になります。ここから1-1等を通じて次に期待するステージを伝え、そこへの到達をもって給与が更新されるというのが僕らのチームにおける給与更新の流れになります。まだ僕が一人で全員分の給与額の最終的な決定権を持っている状態ですが、部署ごとのメンバーの給与額は部署のリーダーに全て共有してあり、チーム内における給与額への感覚は共有しています。

全体的には市場価値と照らし合わせてバランスをとっていますが、大きく2つの理由によって給与制度はかなりファジーにしてあります。というか、ほとんど無いに等しいです。
1つ目に、給与はそもそも定量的には測定しづらいということ。極端な例かもしれませんが、例えばチームのムードメーカーみたいな、その人がいるだけで周りの人の生産性が上がるような人っていると思うんですが、その価値に定量的な指標をつけられますか?
もう1つは、各メンバーのライフステージだったり、プライベートの状況に応じて柔軟な給与設定ができる状態でありたいというものです。例えば新しい子供を授かったメンバーがお金に困っていたので昇給したことがあります。母国の家族に仕送りが必要だという理由で昇給のタイミングを早めたこともあります(彼はその後、僕の高い期待値をさらに超える活躍を見せてくれていますが)。さておき、チームのメンバーが金銭で解決できることで困っているときには、なるべく助けられる会社でありたいです。
ただ給与制度周りの話はまだ考えきれていない面も多く、半年後にはまた考え方が変わっているかもしれないです。

MVPやボーナスといった制度は作らない

給与に関連してお金について考えていることで言うと、成果に対してきちんと報酬が払われるのは大事ですが、僕らは決してお金のために働くわけではありません。Scoville(チーム)の掲げるミッションに向かって働いています。言い換えるとお金は仕事に対する報酬の一つでしかなく、目的ではないはずです。
MVPやボーナスといった制度でお金を渡すのは、まるでお金をもらえることこそが目的、のように僕らの価値観を誤認させる恐れがあるなと思い、極力設けないようにしています。導入文で紹介したNETFLIXの本では、これを「札束をぶら下げない」と表現していました。

ところで、金銭的な報酬を伴わない形でMVPのような表彰をする会社もあると思います。実は僕らも以前、社内の行動指針に対する浸透度および実践度を上げるために「毎月行動指針に沿った行動をしていた人をMVPとして取り上げよう」と考えたことがありました。
そのときはヨーロッパ出身のメンバーを中心に様々な反対意見が集まりました。この一件を通じて、特定の人物を目立たせるような施策を安易に行うのは、僕らのように多様なバックグラウンドを持つ人間が集まる組織では危険なんだと学びました。これはとても印象に残った一件でした。

好きに働き、好きに休む

「お金は仕事に対する報酬の一つだ」と書きましたが、仕事における報酬で大きなものが仕事そのものだと思っています。これは詳しく書こうとすると長くなってしまうので割愛しますが、人間の創造性を発揮して働くというのは本来非常に楽しいことです。
ただ、どんなに楽しくてもやり過ぎは毒です。これは個人的な主観ではあるんですが人間は大体、働き過ぎです。

なので「働きたいときに働けて、休みたいときに休める」のが良いと思っていて、会社でも休暇に制限は特に設けていません。プロダクトのリリース前は避けるとか、チームになるべく迷惑をかけないことが休暇をとるときの唯一のルールです。言うまでもなく全員が承知していますが。
前述の通り、採用段階で放っておいても勝手に勉強するような人を採用しているので普段休む人は多くありませんが、その代わりクリスマス休暇を長く取って家族と過ごしたり、「仕事に熱中しすぎたから1週間クールダウンする」といった休み方がされたりしています。

個人的にも休む時はまとめて(最低でも1週間ぐらい)は休んだ方が良いと思っていて、こういう事例が増えてるのは良いことだなと思っています。無限に休暇をとるような、システムを悪用する人が出たら全力で排除しに行きたいと思っていますが、今のところは出ていません。

余談ながら、こういう性善説チックなシステムを運用してると僕よりメンバーの方が「大丈夫?(悪用されない?)」って心配してくれるの、とても愛情を感じます。そういうメンバーが集まっているからこそ性善説な運用ができますね。

フルリモートは原則NG

休暇に限らず、働き方はなるべく個人の生産性が最大化される形で自由に選択してもらっています。Covid-19以前から、週に1、2回はリモートで働くメンバーも多くいました。
今ではCovid-19によってフルリモートのメンバーも多いですが、もともとはフルリモートは原則NGにしていました。これは、直接会って場を共有することで生まれるコラボレーションというのが少なからずあるからです。

例えば、こんな風景がありました。とあるデザイナーが、ユーザーに表示するポップアップのデザインに悩んでいたときのことです。ラジオボタンを使ってユーザーに選択を促すUIだったのですが、文言修正によってラベルが長くなったことで、見た目が崩れてしまうと悩んでいました。
そのことを僕と話していたら周りに他のデザイナーが「なになにどうしたの」とゾロゾロと集まってきて、その場でブレストが自然と起こり、結局ラジオボタンからドロップダウンのUIへと変更されることで問題が解決しました。たった5分程度のブレストでしたが、近くに人がいることの価値を強く感じた一件でした。リモートでは、特にデザインに関してなどは画面共有が必要になったり、リアルでフラッと近くに行って画面を覗き見るよりも(特に心理的な)工数が大きくなってしまいます。

一方で、こうしたコラボレーションを抜いて個人の生産性で見るとフルリモートの方が生産性が向上する人も多いということも学びました。今のところフルリモート前提の組織にしようとは考えていないんですが、拠点も東京だけでなく京都オフィスが増え、海外から働いているメンバーも増えてきたので、フルリモートの人がいる前提の会社にはなってきました。

とにかく柔軟に意思決定をする

本当はもっと色々、失敗談とかもあるんですが長くなってきたのでそろそろ締めようと思います。最後になりますが、僕たちは「向かいたい先」があって組織で仕事をしています。自分たち(特に僕自分)がまだまだ未熟であることも重々承知しているので「それは考えてなかったな」とか「やっぱり間違ってたな」と思ったら、学びを糧にすぐHOWは変えるようにしています。なのでこの記事に書いたようなことも半年後には変わっているところもあるかもしれません。なるべく柔軟でありたいと思っています。

この記事を読んで面白そうな会社だな、とか、どこを目指している会社なんだろう、とか、もし気になってくださった方がいれば是非 @iwark02 までご連絡ください。
あと、CTOA Advent Calendar 2020 は素敵な記事が沢山ありますし明日からも面白い記事が沢山でると思いますので是非凝視していきましょう!
(最後に宣伝をして去る)


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