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【特別企画】プレイバック福島ダービー①2016~2017年/渡邉匠・平澤俊輔

5月4日のJ3第8節、そして8日の天皇杯福島県代表決定戦。いわきFCは同じ県のライバル・福島ユナイテッドFCとのダービーマッチ2連戦を戦います。

福島県ナンバーワンクラブの座を巡る熱き2連戦に際し、ダービーのこれまでの激闘を、コーチ・渡邉匠、フロントスタッフ・平澤俊輔、強化部スポーツディレクター・田村雄三の3人が振り返る特別企画。

第1回は、いわきFCが現体制で船出した2016年そして初勝利を挙げた2017年の戦いについて、渡邉匠、平澤俊輔の2人が語ります。

■2016年8月21日/いわきFC1-2福島ユナイテッドFC

第21回福島県サッカー選手権大会 兼 第96回天皇杯全日本サッカー選手権 福島県代表決定戦 決勝
                                                                                 

2016年8月21日 於:あいづ陸上競技場
いわきFC 1-2 福島ユナイテッドFC

【スターティングメンバー】

GK:大野将弥
DF:佐藤令治/高野次郎/古山瑛翔/新田己裕
MF:山崎大成/新井伶治/久永翼
FW:平岡将豪/菊池将太/片山紳

【SCORING】
16分 福島ユナイテッドFC
86分 高野
99分 福島ユナイテッドFC

2016年4月から福島県社会人2部リーグに参戦し、大勝を続けたいわきFC。7月にスタートした天皇杯福島県代表決定戦でも快進撃を見せ、2月の本格始動からわずか半年で、王者との真剣勝負のステージへと駆け上がった。

相手の福島ユナイテッドFCは2014年からJ3に在籍。県内唯一のJクラブとして当時、天皇杯福島県代表決定戦を8連覇していた。

特別シードで決勝から登場したJクラブに、誕生1年にも満たない新興クラブが挑む、という図式。両チームは2016年8月21日、あいづ陸上競技場で初めて激突した。

現在、いわきFCでコーチを務める渡邉匠は2016年から2017年、福島ユナイテッドFCの選手だった。この時は移籍1年目。ベンチ入りメンバーとして試合を迎えた。

渡邉「当時はいわきFCの情報がまだ少なかった。僕はいわき出身なので、本格的に上を目指すクラブが地元に生まれたことは知っていた。でも実際にどんなサッカーをするかはよくわからない。そんな状況でした。ただし『おそらく、今までのような簡単な試合にはならないだろう』という雰囲気はありましたね」

試合は序盤からいわきが積極的に攻めたが、福島がワンチャンスをモノにする展開となる。

前半16分、右クロスを福島FW金弘淵が頭で合わせて先制。いわきは攻撃的なスタイルで反撃に出るも、決められない。

渡邉「いわきの勢いはすごかった。試合が始まってすぐに『やはり簡単な試合にはならない』とわかりました。とはいえ、チームとしての成熟度や経験値を踏まえると、最初をしのいで落ち着くことができれば、徐々にこっちのゲームになるだろうとは思っていた。実際に前半に先手を取ることができたのはよかったですが『このまま行けるかな』という時に追いつかれてしまったのは誤算でした」

迎えた86分、いわきDF高野次郎が左足を振り抜きゴール。試合は延長戦へ突入する。

延長戦は目まぐるしく攻守が入れ替わる展開となったが、延長前半9分、途中出場の福島FW樋口寛規が決勝ゴール。福島県のサッカー史に残る激闘を制し、福島ユナイテッドFCが9年連続9度目の優勝を飾った。

渡邉「この試合でいわきFCの正体を知りましたね。『これは今後、相当力をつけてくるだろう』と実感しました。僕はこの試合には出ませんでしたが、いわきFCは当時から前へ向かう明確なスタイルを持っていて、J3の対戦相手とはまったく違うチームだとはっきりわかりました」

フィジカルを徹底的に高め「魂の息吹くフットボール」と称する激しいプレースタイルを見せる筋肉軍団。無風の福島県のサッカー界に突如現れた異色のクラブが県の絶対王者を苦しめたこの試合。数年前までJリーグクラブさえなかったこの土地に「ダービー」が誕生した瞬間だった。

そして、この試合を通じていわきFCが得たのは「ユナイテッド恐るるに足らず」という手ごたえ。チームは翌年、それを躍進へとつなげていく。

■2017年4月9日/いわきFC2-0福島ユナイテッドFC

第22回福島県サッカー選手権大会 兼 第97回天皇杯全日本サッカー選手権 福島県代表決定戦 決勝

2017年4月9日 於:とうほう・みんなのスタジアム
いわきFC 2-0 福島ユナイテッドFC

【スターティングメンバー】

GK:坂田大樹
DF:新田己裕/五十嵐陸/古山瑛翔
MF:金大生/久永翼/平澤俊輔/植田裕史
FW:吉田知樹/菊池将太/平岡将豪

【SCORING】
17分 吉田
63分 平岡

渡邉はこの年、福島ユナイテッドFCのキャプテンに就任。チームは田坂和昭新監督のもと、J3開幕4連勝。好調を維持していわきFCとの戦いに臨んだ。

前年と違い情報はあった。5月、6月にはトレーニングマッチも行い、どんなサッカーを展開してくるかも、すでにわかっていた。

いわきFCは当時、県リーグ1部に在籍。この試合には前年の戦いを経験した選手に加え、GK坂田大樹らルーキーを積極起用。現スタッフの平澤俊輔はそのうちの一人だ。JFAアカデミー福島から早稲田大を経てこの年いわきFCに入団。ボランチで頭角を表し、スターティングメンバーの座をつかんでいた。

平澤「この試合にかける思いは相当なものでした。県リーグ1部で勝てることはわかっていたので、何がなんでも天皇杯で自分達の力を示そう、という空気がありましたね。個人的にも自分のプレーに自信を持っていたし、前年に負けているJ3のクラブを相手に『やってやるぞ』という気持ちでした。

でも試合が始まると『何としても勝ちたい』という思いが強すぎたせいか、みんなガチガチになって一気に押し込まれてしまった。ユナイテッドの闘志もすごくて、(渡邉)匠さんがMF金大生と激しくやり合っているのを見て『これがダービーなんだ』と思い知りました。

当時、ユナイテッドにニウドというブラジル人MFがいて、前を向かせないよう激しく行ったことを覚えています。外国人選手と本格的にマッチアップしたのは初めてでしたが、自分なりのいいプレーができ、自信をつけた試合でした」

いわきは開始早々の福島ユナイテッドFCの猛攻を耐えると、17分にカウンターからFW吉田知樹が抜け出してゴール。そこから試合はいわきへと一気に傾いていく。

いわきは若さで後半を圧倒。63分には平岡将豪のゴールで突き放し、2対0でダービー初勝利を挙げた。

渡邉「完敗でした。いわきFCは球際が激しく、ボールを奪って前に出てくる迫力がすごかった。

球際で絶対に負けてはいけないことは、当然こっちも試合前から意識していました。ストレングスに力を入れていることも知っていましたから、いわきの若さと勢いを受けるとやられてしまう。だから前半から激しく行こうと話してゲームに入りましたが、パワーは想定以上でしたね。

チームの状態は決して悪くなかった。J3で4連勝していた勢いを持って入り、実際、前半にチャンスをいくつも作れた。でもそこで決めきれずに流れを持っていかれ、(吉田)知樹に決められてからはどうにもならなかった。ショックはデカかったですよ。がっぷり四つで行って負けたわけですから」

福島ユナイテッドFCの10連覇を阻止したいわきFCは、天皇杯本戦でも旋風を巻き起こした。2回戦で延長の末、北海道コンサドーレ札幌を撃破。3回戦では清水エスパルスに善戦し、チームの名を全国へ轟かせていく。

平澤「ユナイテッドに勝った後は、みんな楽しそうにやっていました、コンサドーレとできる。エスパルスと日本平でできる。それは当時の僕らのカテゴリーからすると想像のつかない世界。あの時は選手全員『上に行ってやる』という野心にあふれていましたね」

そして渡邉は、現役最後の年となった2017年を振り返り「今だから言えるけれど、いわきFCとの試合が一番面白かった」と語る。

渡邉「いわきFCと試合をすると、めちゃくちゃ疲れるし身体中が痛くなる。本当にキツイんですが、試合が終わるといつも充実感がありました。

いわきFCのサッカーが、相手の闘争本能を引き出すのだと思います。パワー、スピード、身体のぶつけ合いなどで、相手選手のアスリートとしての本能をかき立てるから、常にゲームが激しくなる。

今のJ3の戦いでも同じ。対戦相手の選手が必ず『球際で負けるな!』と大きな声を出しています。いわきFCを相手にすると、どのチームも人が変わったように激しくやってくる。先日対戦したFC今治さんもヴァンラーレ八戸さんもそうでした。いわきFCという存在が、いい意味でゲームを面白くするんです。

今思い返すと、いわきと戦った後、とにかくサッカーが好きでバチバチにやり合っていた若いころの感覚を思い出していました。現役最後のラスト2年で福島に帰り、地元に新しくできたクラブを相手にそれを感じることができたのは、とても幸せなことでした」

渡邉は「魂の息吹くフットボール」というコンセプトを身をもって知る存在として、2018年にいわきFCのコーチに就任。昨年はトップチームを指導し、JFL優勝とJ3昇格を支えた。コーチ5年目。J3で肩を並べた古巣とのダービー2連戦について、あらためてこう語る。

渡邉「自分は福島県で生まれ育ち、福島のサッカーをどうにか盛り上げたいという思いを持つ一人。だからユナイテッドといわき。それぞれが福島のサッカーを盛り上げる存在であってほしい。

選手を引退する時にも言ったのですが、僕の究極の夢はJ 1での福島ダービーです。両チームで切磋琢磨して、舞台をJ 2、J 1と上げていってほしい。ユナイテッドがいてくれるから、いわきも負けられない。ダービーは地域活性化という意味でも、非常に重要なものになると思います。

今年はその第一歩。両チームがJ3という同じカテゴリーで上位で肩を並べて迎える今年のダービー2連戦は、歴史的な戦いになるでしょう。県内すべての地域の方々にご注目いただきたいですし、2戦ともたくさんの方々が来て下さることを期待しています」

第2回は2018年そして2019年のダービーについて、引き続き平澤俊輔が振り返ります。

(②に続く)


■HIGHLIGHTS: 2022.5.4 福島ユナイテッドFC vs いわきFC | 2022 明治安田生命J3リーグ 第8節


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