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I.G.U.P 検討委員会レポートvol.12 若者たちの考える「スタジアムのある未来」

2024年1月20日、IGUPの第8回「分科会1」が開催されました。

じつは昨年12月に「第7回」が開かれていました。第7回では「IGUPとしてのビジョンの固め方」や「市民にどう報告するか」についてフリーディスカッションしたのですが、「IGUPとしてどこまでビジョンを示すべきか」に関して議論が紛糾し、あっという間にタイムオーバー。なんとも煮え切らないというか、まとめきれない回となりました。

意見が分かれたのは、IGUPの議論をどう市民に示すかという点です。「スタジアムのビジョンをIGUPとしてはっきりと示すべきだ」という意見と、「ここではっきりとしたビジョンを打ち出してしまえば、多くの人たちを置き去りにしてしまうことにならないか」という意見が両方あり、結論が出ませんでした。

これまで半年ほど、スタジアムに関して議論を重ねてきました。「こういうスタジアムを作るべきだという結論に達した」という「最終意見」を出さなければ、議論してきた時間が無駄になるという危惧も納得できます。詳細なものではなくとも、「スタジアムに求められる憲法」のようなものを、しっかりと打ち出していくべきだ、という意見もありました。

一方で、「こういうスタジアムを作るべき」と明確に打ち出してしまうと、それが既成事実化し、市民を巻き込んでいくことが難しくなるというのも理解できます。「ここにこういうスタジアムができるらしい」というものが一人歩きしてしまうと、それに賛成か反対か(あるいは無関心か)という構図ができてしまい、「自分たちのスタジアム」にはなりにくい…。

こういう時に立ち返りたい共通理解がIGUPにはあります。新スタジアムの主語を「サッカー」や「いわきFC」にしないこと。主語は「地域」や「住民」。単にサッカースタジアムを検討するのではなく、いわき市や双葉郡の成長や発展、課題解決に寄与する空間をさまざまな視点から議論していこうというのがIGUPの共通理解です。だからこそ簡単ではないわけですが。

また、第7回検討会では、会議の進め方について、「委員同士が意見をぶつけ合わせるような場、言語化していくプロセスがさらに必要だ」という意見も出てきました。このため、第7回分科会のあと、年末ギリギリまでオンラインで意見集約が進められ、今回の第8回に至っています。メンバーも多様で背景もさまざま。簡単には全員が納得できるものにはならないし、だからこそ「おもしろい」のだとも思います。

というわけで、前置きが長くなりましたが、ここからは、第8回分科会の模様をたっぷりと紹介していきます! 今回の報告の担当は、IGUPメンバーの小松理虔です。

ビジョンブックを使って発信すべし

第8回検討会は、2024年1月20日、いつもと同じ、ドームいわきベースのカフェテリアで開催されました。メンバー同士「今年もよろしくお願いします」といった雰囲気。新年1回目ということで、フレッシュな気持ちで議論に臨みます。

大倉代表から「ビジョンを市民に伝えたい」との言葉が

検討会の冒頭で、いわきFCの大倉智代表からあいさつがありました。大倉代表は「この検討会の内容はスポーツ庁に報告する義務があるが、誰よりも市民に伝えなければ意味がない」としたうえで、「Jリーグクラブが地域にあることで、どんな価値が生まれていくのかをもう一度語り直すようなビジョンを示したい」と語りました。

ビジョンブックの可能性について語る上林座長

大倉代表に続いてあいさつした上林座長は、横浜DeNAベイスターズがスタジアム建設の際に提唱した「BALLPARK」のコンセプトを紹介しながら、どんなスタジアムを検討しようとしているのか、IGUPがどんな理念を持って対話を重ねてきたのかを市民にわかりやすくビジュアルで紹介していく「ビジョンブック」が必要ではないか、と提案しました。

BALLPARKというコンセプトが前面に押し出されているベイスターズのビジョンブック

ビジョンブックは、スタジアムの目指すビジョン、こんな日常を作りたいというイメージを共有する写真集のようなものです。読んだ人が「新しいスタジアムができたらこんな風景が見られるのか」「スタジアムがあるって、こういう意味があるんだな」ということを感じてくれたら、たしかにスタジアムは少しずつ「私たちのもの」になるかもしれません。

IGUPのメンバーからは「ビジョンとは何を指すのか、「ビジョン」という言葉の意味を擦り合わせる必要があるのでは?」という意見も出ていましたが、そのうえでビジョンブックを時間をかけて作成し、IGUPの議論の模様や、スタジアムのビジョンを伝えていこう、という方向性に関しては皆さんが賛成。今後、情報発信などを生業とする広報チームを中心に、どのようにビジョンブックにまとめていくかを検討していくことになります。

ユースチームが考える新スタジアム

ビジョンブックについて意見交換した後は、IGUPのユースチームからの報告会が開催されました。

ユースチームのメンバーといっしょに

IGUPには、いつもの検討会に参加する成人メンバー以外にも、大学生、高校生、中学生、さらには小学生も加わった「ユースチーム」が組織されていて、対話イベント「ユースフォーラム」などを通じて、この地にふさわしいスタジアムのビジョンについて意見交換を進めてきました。

そしてこのたび、ユースチームの検討内容をまとめた報告書が完成。その内容をIGUPメンバー全員で共有するため、ユースチームから3名のメンバーが参加して報告会が、この日の検討会の中で開催されました。

\この報告書、内容が本当にすばらしいので、とにかくまずはご覧ください。本当にすばらしいです。下のリンクダウンロードできます。ぜひ皆さんもご覧ください/

報告書は、ビジョンから書き記されています。ユースチーム最年長の大学生、小野愛美さんが読み上げてくれました。それを聞いた大倉代表が満足げに涙ぐむという象徴的なシーンもありましたが、それくらいすばらしいビジョンだと思います。

IGUP委員の横山さん。若者との対話を長期間にわたりサポートしていただきました

さらに、ユースチームは、スタジアムに求められるものとして「7つの提言」をこの報告書の中でしています。これがすばらしい提言なので、ここで紹介していきます。

1、地域の資源を「借景」としてシェアすることで魅力がふくらむ新しいシンボル
2、いつでもだれでも楽しめる
3、だれにも我慢させない居心地が良い優しい空間
4、未来につながるおもてなし
5、近い距離
6、だれもが思い立ってすぐ行ける
7、子ども・若者も含めみんなで参画して創る未来

+1としてその他の提言も加えられています。

いかがでしょうか。文字だけですが妄想が広がりませんか? 7つの提言には、それぞれ文章が付け加えられていて、さらに詳しくその言葉の意味を捉えることができる報告書になっています。それらの言葉を、ユースのみんなが作ってくれていること、そしてその精度の高さに、改めて驚かされます。

ここにある文章を叩き台に、さらに具体的な機能や設備を考えることもできるし、スタジアムのふさわしい立地、意匠や設計などについてもアイディアを膨らませることもできそうです。しかも、それらの提言がすべて「こうあったらいいな」という願いによって書かれている。

私たちはなにかと「こうあるべき」とか「でなければならない」という語り口をしてしまいがちですが、ここに書かれていること、すべてが「こうありたいよね」「こんなことがしたい」という理想、夢なんです。だからこそ尊いし、大事にしなければならない、ということかなと感じました。

報告書の取りまとめに尽力したIGUPの南郷さん

IGUP委員からも、「これだけでも十分、スタジアムのビジョンとして成立している」、「ここまでハイレベルな議論になっているとは」という驚きの声が聞こえてきました。私も個人的に大変感動しました。このユースーチームの提言に加え、昨年、IGUPで議論した「防災」などの論点を加えれば、重要な論点はほぼ網羅されていると感じます。

スタジアムが完成する「前」に

そしてもう一つ、これは重要だなと感じたのは、ユースチームの高木翼くんが語った「最初は楽しそうだと思って参加したけど、どんな機能が必要か、いろいろなことを考えるようになった」ということでした。つまり、「スタジアムについて語り合うこと」が「まちを知ること」や「まちと関わること」になっているという点です。

いつの間にか地域のことを考えることにつながったという高木くん

スタジアムについて考える時間が、子どもたちの成長や夢を育み、地域との接点を作っているのだとすれば、「スタジアムについて考える時間」を、もっともっと拡大していいはずです。そのぶん「自分ごと」としてスタジアムを考えてくれる人が増えるかもしれないからです。

そうしてできたスタジアムは、完成する前から「私たちのスタジアム」になり始める。そう言えないでしょうか。スタジアムは巨大な予算をかけて建設されます。もちろん、できた「後」に、そのすばらしさを体験できるのは当然のことですが、できる「前」の、スタジアムについて議論した記憶、スタジアムのある未来を考えた人たちとのつながり、そこで得られた学び、そういうものが「レガシー」として残るはずだからです。

この建設「前」のレガシーは、スタジアムができた「後」にも引き継がれます。このスタジアムを使って何がしたい? もっと、この地域を豊かにするために、人が育っていくように、スタジアムで何ができそう? そんな質問が常に飛び交うようなスタジアムをイメージできます。それがすでに「始まっていた」という事実に気付かされ、改めて「すげえな」と思いました。

何より、人が育つ、人が成長する、その前向きな力がチームを勝利に導き、地域にも伝わっていくことで地域全体が豊かになっていくというのは、いわきFCの理念とも大きく重なり合うものですよね。ユースチームが体験したもの、過ごした時間こそが、スタジアムをつくることの意義、そのものなのかもしれません。

もちろん、この7つの提言が、そのままビジョンになるわけではありません。今後必要になってくるのは、ユースの意見を分析する視点です。なぜ、ユースメンバーはこのような声を出してきたのか、その背景に、いわきや双葉郡にどのような課題があるのか。それを解決・改善していくためにスタジアムにできるのことはいかなることなのか。ユースとはいわば「逆向き」に思考を重ねていく必要があります。

IGUPの活動も、年度末まで残り数回。ユースの意見を、薄めずに、むしろ純度を高めるように議論を進めていかねばなりませんし、その先に、魅力的なビジョンブックも生まれてくるはず。今回は、その手応えを感じられる分科会となりました。現場からのレポートは以上です!

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