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2024年ここまでのチームビルディングと新スタジアム建設について(前編)【ROOM -いわきFC社長・大倉智の論説】

いわきFCを運営する株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役・大倉智のコラム。今回から2回に分け、2024年シーズンここまでの振り返り、そして新スタジアム建設について語っていきます。


■我慢強く選手を見続け、チャンスを与える

2024年シーズンも折り返し地点を過ぎ、2週間の中断期間に入った。まずはここまでを振り返りつつ、残りのシーズンへの展望を語っていきたい。

第24節終了時点での9勝7分け8敗・勝ち点34という数字は、おおむね目標通りだ。

もちろん「あの時これができていれば…」といったタラレバはたくさんある。だが、それも含めてスポーツ。今の状況が我々の現在地だ。

確かに昨年のチームから約半数の選手が入れ変わり、ここ数年の積み上げが崩れた面はある。でも、いわきFCには立ち返る場所がある。クラブとして崩してはいけないビジョン、そして選手が誰だろうと監督が誰であろうと揺るがないチームビルディングがある。それらをよく理解している田村監督がぶれずに選手をまとめ、上手くチーム作りをしてくれている。

今までJ2でほとんどプレーしたことがなかったり、プロでのフル出場経験がない選手も多い。時には同じミスを繰り返す選手もいる。それでも田村監督は彼らを見続け、我慢して、またチャンスを与える。一度使うことはそれほど難しくない。だが、ミスをしても使い続けるのは簡単ではない。田村監督の辛抱強いマネジメントあってのこと。いわきFCは確かに前線に外国人を並べられるようなチームではなく、J2上位クラブとは選手層の差がある。そんな中、選手達は本当によくやってくれていると思う。

ただ残りのシーズンは、ここまでのようにはいかないだろう。

シーズンが進むにつれ、負傷者が増えてベストメンバーで戦えなかったり、選手が思うようなパフォーマンスを発揮できなかったり、ということは当然ある。そして試合を重ねるたびに相手チームによる分析が進み、どこも対策を講じてくる。その中で自分達のよさを出せないことや、チームがノッキング起こすこともあるだろう。

もちろん、そんなことは百も承知。どんな事態も乗り越えていかねばならない。

■鍛え続けたフィジカルは、必ず最後の強みになる

そんな中でも、今季はしっかりとしたチームビルディングができている。

まず今季はJ1クラブからMF西川潤、MF大迫塁、FW棚田遼、DF大森理生という若手選手を期限付き移籍で迎え入れたが、みんな頑張っている。

J1クラブが獲得した選手だから、もともと能力が高いことはわかっていた。当然、ボールを止める、蹴る、運ぶことは上手い。だが、シーズンを通じた試合出場経験がない選手たちなので、試合に出ればさまざまな課題が出る。また、いわきFCでは強度の高いプレーが求められるから、フィジカルトレーニングを含めた戸惑いもあるだろう。

そんな中、みんながもがきながら必死で戦っており、チームに今までにない風を吹き込んでくれている。上のカテゴリーのチームから試合経験の少ない若手選手を預かり、鍛えていくチーム作りは、今後も継続していきたい。

そして今季、確実な成果を実感できるのがフィジカルトレーニングの見直しである。

実は今年、ストレングストレーニングのやり方を少し変えた。具体的に言えば、重さを挙げるだけことを目的にせず、瞬発力とスピードを高め、筋力をパワーに変換。サッカーの試合におけるパフォーマンスの向上をより意識するようになった。

それは昨年の反省からきたものだ。

実は昨年初めてJ2で戦い、ボールに対する反応で後れを取ることがたびたびあった。あれだけストレングストレーニングをやっているのに球際の勝負で競り負けたり、あっさりとボールを奪われることが気になった。一体なぜなのか。それを改善するために友岡和彦ストレングス&コンディショニングコーチや秋本真吾スプリントコーチと話し合いを重ね、トレーニング内容を見直していった。

本来パワーとは「挙上重量×スピード」だ。ウエイトトレーニングでつけた筋肉を速く動かすことで、最大限のパワーが発揮される。

では、そうやって身につけたパワーをサッカーにどう生かすのか。その考えから言うと、昨年までのフィジカルトレーニングはサッカーという競技との接続がまだ少し足りなかったかもしれない。

もちろん「日本のフィジカルスタンダードを変える」というスローガンにブレはない。ハイレベルなストレングストレーニングで強い身体を作る方針は変わらず、むしろ昨年と比べてトレーニング強度は上がっている。

例えばDay5が試合とすると、4日間のトレーニング期間の中でDay1とDay3にストレングストレーニングを行う。その中で例えばDay1に重さを挙げることにフォーカスしたら、Day3には鍛えた筋肉をより速く動かすメニューやスピードをつけるトレーニングを行う。そんなイメージで選手達はシーズン中もフィジカル向上に努め、それをサッカーに還元するアプローチを続けている。

そもそも試合2日前に負荷の高いストレングストレーニングを入れること自体、他のチームではあり得ないことだろう。それでも、パフォーマンスの向上を実感している選手は多い。例えば今年、FW谷村海那やMF山口大輝は試合でよく走れていることがデータ上ではっきりしているし、実際に活躍できている。本人達も身体のキレを実感している。

もちろん在籍の長い彼ら二人だけでなく、多くの選手の体組成が向上。最大筋力、スピードともに上がり続けている。今年入った中には、今までほとんどバーベルを持ったことのない選手もいた。そんな彼らも基本的なストレングストレーニングから始め、順調にフィジカルを向上させている。

今のトレーニングを続けることで、夏を越えた10月、11月のラストスパートでチームにパワーが生まれる。それは間違いない。鍛え続けたフィジカルが、最後必ずモノを言う。だからこそ、今をしっかり乗り切ってほしい。

■本当の戦いはここから

今季、プレーオフ圏内入りは一つの目標。だが、こればかりは相手のあること。決して簡単ではないのはわかっている。

今後は順位の上がり下がりに対していろいろと言う人も増える。そして順位を意識し、一つの結果に右往左往させられることが、無意識のうちに選手個人のパフォーマンスに影響を与えるだろう。その結果、守りに入ったプレーが増えてチーム全体の躍動感がなくなることが、今までに何度もあった。

だから選手達に言いたい。

大切なのは、今この瞬間だ。理屈はいらない。今、目の前にあることがすべてだ。

きっと今後しばらく、チームは今の順位近辺をうろうろするだろう。そんな状況でも勝ち負けではなく、目の前のパフォーマンスに集中できるか。カギを握るのはそこだ。結果はマネジメントできない。だから気持ちを切らさず、やるべきことを淡々と積み上げていくことが最終的に勝ち点につながる。そう信じ、継続していくしかない。

本当の戦いは、いよいよここからだ。

(後編に続く)

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