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相手守備をなぎ倒し、理不尽なゴールを奪う。FW近藤慶一【Voice】

名古屋学院大に在学中の2023年シーズンに特別指定選手としていわきFCに加わり、今季正式加入を果たした近藤慶一選手。今季リーグ戦22試合(第24節終了時点)に出場して3得点。チームになくてはならない存在に成長したストライカーに、昨季から今季にかけての成長や、今後の目標などについてうかがいました。


■苦しみ、もがいたプロデビューシーズン

「昨季は学生でもある中でのプロの舞台で、浮ついているというわけではなかったんですけど、観客のような感覚で(試合に)入ることもあり、自分のよさがなかなか発揮できませんでした」

J2に昇格したばかりだった昨季のいわきFC。記念すべきリーグ戦第1節の藤枝MYFC戦にいきなり途中出場の機会を得た近藤選手。その1カ月半後の第8節大分トリニータ戦では0-3と劣勢の中、後半途中出場すると後方からのパスに飛び出し、相手GKとDFの連携ミスを逃さず早くもJ初ゴールを記録。しかしその後はなかなかゴールを奪えず、もどかしいシーズンを送ることになりました。

「結局、その次に点を取れたのは最終節の藤枝MYFC戦。空中戦や対人の部分が強みだったのに、一歩引いてしまうところがあったんです。一生懸命ではあったんですが、がむしゃらにやりすぎて自分のよさが出なかった。足元の技術も他の選手とのコンビネーションも体力も、すべて足りていませんでした」

また、昨季はシーズン途中で監督交代を経験することに。プロの環境に自らを適応させようともがく中で戦術の変更も重なり、混乱の日々を送っていたと振り返ります。

「求められていることが変わったことを自分に落とし切れなかったんです。その中でゴールが取れなくて焦り、その焦りから空回りして何もできませんでした。身体も反応しなかったですね。正直なところ、試合の映像を見返してみても、何がよくて何が悪いのか、よくわかっていなくて……」

■「無理やり決めたゴール」に確かな成長を実感

昨季、名古屋学院大サッカー部に在籍していた近藤選手。シーズン中に一度大学に戻り、同校を指揮する澤入重雄監督とマンツーマンでじっくりと話す機会を持ちました。テーマは「FWには何が必要か」。Jリーグ草創期に名古屋グランパスでFWとして活躍した名将からのアドバイスは「一番はゴール」で、そのために「主戦場であるボックス内で頑張る」ということでした。

恩師からのシンプルなメッセージは、近藤選手の頭の中の絡み合った糸を少しずつ、そして着実に解きほぐしていきました。昨季最終戦の1点目はボックス内で待ち構え、右からのセンタリングを頭で合わせたもの。2点目も、味方が敵陣深い位置で奪ったボールをゴール前でフリーで受けて冷静に流し込んだもの。躍進のきっかけをつかんで2023年シーズンは幕を閉じたのでした。そして迎えた2024年シーズン。

「今年は何とかしないといけない。意識は昨年と違いました。この職業でお金を稼いでご飯を食べるために、もっと真剣に取り組まなくてはいけない。『自分がやるんだ』という強い思いでシーズンに入りました」

そして、結果も着実に残してきています。3月のルヴァン杯初戦・FC大阪戦では、途中出場で今季初得点。その4日後のJ2第4節・ロアッソ熊本戦に先発。右からのクロスを頭で叩きつけ、リーグ戦今季初ゴールを奪いました。

序盤から好調を維持する近藤選手が自画自賛する得点が生まれたのは、第5節のヴァンフォーレ甲府戦のことでした。谷村海那選手からの縦パスをペナルティエリアやや外側に位置した山下優人選手がワンタッチでラストパス。それを受けた近藤選手は相手ディフェンダーを背負いながら、振り向きざまに左脚でゴールに蹴り込んだのです。

「無理やりにでも前を向いて(シュートを)打ち、決めることができた。これは大きな自信になりました。周囲とのコンビネーションが課題だったのですが、山下選手とのコンビネーションもうまくいき、なおかつGKの位置もよく見えていて、一番上手くいったゴールだと思います」

第11節・大分トリニータ戦でも、フリーキックからのこぼれ球に素早く反応してゴール。今季得点数はすでに昨季に並ぶ「3」。前半戦を終え、この後のリーグ戦でも大きな期待がかかります。

■現在の基礎を築いた、DFとしての豊富な経験

緑豊かな岐阜県多治見市で生まれ育った近藤選手は、野球をやっていたお父さん、ソフトボールで国体出場経験のあるお母さんの影響で、小さいころから野球に親しんでいました。サッカーを始めたのは小学校1年生の秋。野球や空手も掛け持ちで、毎日のように身体を動かしていたそうです。

「スポーツもそうですけど、野山を駆け回るみたいなところもあって、足腰は小さいころから鍛えられていたと思います。やっていて一番楽しかったのがサッカーでした。ゴールを決めたやドリブルで相手をかわした時の気持ちよさ、ボールを奪ったときの快感は、他の競技にないものでした」

現在はいわきFCの2トップの一角を占めることの多い近藤選手ですが、「昔はDFをやることの方が多かったんです」と振り返ります。

「小学校の時もそうですし、中学時代も1、2年生の時はSBとCB。3年生の時にFWをやったんですけど、高校の1、2年生の時にまたCB。高校3年生に上がる前にFWになってからは、ずっと前線でやっています」

そして、そのDFとしてのスキルや経験は最前線で身体を張るFWとして、現在大いに役立っているそうです。

「DFはディフェンスラインを見て、相手を見て、そしてロングボールの対応もしなくてはいけないのですごく大変でしたが、だからこそDFの気持ちがよく分かるんです。例えば、どういった位置に立たれると嫌なのか、とか。FWの自分がボールを保持する相手にプレッシャーをかけに行くときも、DFをやっていた時の経験が役に立っています。もちろん、ボールを奪う力は、DFをやっているときに身に付けました」

そんな近藤選手がプロを意識したのは、大学2年生の時のこと。2022年3月に開催された第36回デンソーカップチャレンジサッカーに東海選抜チームの一員として出場すると、グループリーグ3戦で2得点。関東選抜Aとの3位決定戦でも決勝点を挙げる大活躍をし、一躍脚光を浴びることになります。

「それまでは『プロになれたらいいな』くらいの思いだったのですが、全国の舞台で結果を一つ残せたことで、プロになりたいという気持ちが大きくなりました。しっかり取り組めば、必ずプロになれるという確信に変わったんです」

それからはサッカーへの向き合い方も変わり、走り方一つにしても、大学の陸上部の監督を訪ね、直接フォームの指導を受けるなど必死に取り組んだそうです。サッカー部の澤入監督にも「何をしたらプロになれるのか」を聞きに行くようになり、日々の練習後のマンツーマンでの指導では、ゴール前での様々なシチュエーションを想定して時には1時間半ほどかけてみっちり鍛えられ、現在の礎を築いたのです。

■ディフェンダーをなぎ倒し、理不尽なシュートを叩き込む

今季のいわきFCは第21節を終え、J1昇格プレーオフ出場圏内を見すえる8位というなかなかの好位置につけています。

近藤選手の口からも「J1昇格に向けてプレーオフ圏内の6位以内。そしてリーグ戦で10得点以上」という力強い言葉がありました。そして、「どんなボールでもきっちり収めて味方につなげられるようなプレーがしたいです。また、技術の面では、ボールを止める、蹴るというところの精度を強化していければと思います」と抱負を語ってくれました。そしてその先に、さらなるステップアップ先として海外も視野に入れています。

「いわきFCできっちりと土台をつくることがJ1につながると思いますし、その先にもつながるはず。入団してから筋肉量は確実に増えていますし、もっとパワーをつけたいです。田村監督からは運動量や切り替えの速さ、ゴール前での迫力を求められているので、期待に応えたいです。強引にでも前を向いて打つ力強さを身に付けられれば。そして空中戦、デュエルの力を伸ばしていきたいと思います」

そんな近藤選手が「理想とする選手」として名前を挙げるたが、元コートジボワール代表で、プレミアリーグのチェルシーなどで大活躍したディディエ・ドログバでした。

「強引に自分1人でもディフェンダーを2、3人なぎ倒したり、ボールを奪ったり。そして理不尽なシュートを叩き込んじゃう。すごく魅力を感じた選手ですし、憧れがあります。自分もそういう選手になりたいです」

▽近藤慶一選手をもっとよく知る4つのQ&A
Q1:2トップのコンビネーションについて教えてください。
A1:自分は空中戦であったり、ボールを収めたりするところが特徴なので、そこは2トップを組む有馬選手らに伝えています。自分がボールを収める時、それを受けられる位置にいてもらえるようにコミュニケーションを取っています。2トップでボールを収めて、そこを起点に攻撃につなげられるようにしたいですね。

Q2:初めてのオフシーズンはどのように過ごしましたか?
A2:ご飯の量に対して運動量が足りず、体重が増えてしまい大倉社長や田村監督からお叱りを受けてしまいました…。脂質は控えていたんですが、炭水化物を取りすぎてしまって。シーズンイン当初は身体が重くて動けず、何もできませんでした。今はベスト体重を維持できていますし、コンディションもいいです。

Q3:いわきFC、またいわきの街の印象について教えてください。
A3:他チームから練習参加のお誘いはいろいろあったんですけど、最初にオファーをくれたのがいわきFCでした。ピッチ内外の環境がよく、トレーニングルームもしっかりしていて一番成長できると感じました。また、選手とスタッフの関係性がよて、何でも言い合える雰囲気がすごく好印象でした。いわきの人はすごく温かいです。コンビニなどで「応援しています」と声をかけてくれる人が多くいらっしゃって「この人達のために頑張りたい」と思います。あと、海鮮がすごくおいしいです。

Q4:休みの日にはどんなことをしていますか?
A4:寝ていることが多いですが、ドライブが好きです。茨城の方まで車を走らせることもありますね。いわき・ら・ら・ミュウも好きで、獲れたてのイカを焼いてもらって食べたりしています。

次回は右サイドを駆けるスピードスター・MF加瀬直輝選手の登場です。お楽しみに!

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