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みんなの思いに、ゴールで応える。FW吉澤柊【Voice】

強靭な身体で攻撃の起点になり、ボックス内で随一のパワーを発揮する野性味あふれるストライカー。試合後半にピッチをかき回し、幾度となく決定的な仕事をしてきた吉澤柊選手に、お話をうかがいます。

▼プロフィール
よしざわ・しゅう
1998年生まれ。武南高→作新学院大
2021年いわきFC入団

■スタメンが相手を疲れさせてくれるから、自分が点を取れる。

2021年11月3日のJFL第29節・東京武蔵野ユナイテッドFC戦。いわきFCがJ3昇格を決定づける瞬間をひと目見ようと、スタジアムには今季最高となる2014名の観客が駆けつけていました。

赤く染まったJヴィレッジスタジアム。プレッシャーのかかるこの大一番で。いわきFCは前半、FW鈴木翔大選手と古川大悟選手のゴールで2点をリード。しかし後半に入り1点を返され、2対1に。ここで田村雄三監督が動きます。

69分、谷村海那選手とともに投入されたのがFW吉澤柊選手。吉澤選手はさっそく期待に応え、交代から9分後の78分、3点目となるゴールを決めました。

「スローインからつながったボールを海那君がヘディングで落とし、自分は裏に抜け出して受け、GKとの1対1を決めることができました。こういう読みと動き出しには自信があります。

今年のFWはみんな違うタイプ。その違いがチームの強みになっています。自分はその中で、裏への動き出しと駆け引き、そしてクロスへの入り方が武器だと思っています」

攻撃陣に多様な人材がそろえる今年のいわきFCは、交代枠を使い、後半から持ち前の走力で相手を突き放しにかかります。その戦い方は、点を取る嗅覚に優れ、ボックス内で抜群のパワーを発揮する吉澤選手がいるからこそ。相手チームからすれば、走力の高いアタッカー陣に振り回された挙句、後半からさらにパワフルな吉澤選手に暴れられたら、もうお手上げです。

吉澤選手のゴールによって、いわきFCは東京武蔵野ユナイテッドFCを突き放し、3対1で勝利。J3昇格圏の4位以内を確定させました。

今シーズンを通じてゴールを挙げ続けてきた吉澤選手。これまでの得点は、すべて後半からの途中出場で挙げたもの。出場時間が決して長くない中での8ゴールは、彼の突出した勝負強さを物語っています。

「交代出場で意識しているのは、相手に特徴をつかまれないうちに点を取ってしまうこと。だから、入った直後は特に狙っています。でも、ここまでの得点には満足していません。決めるべきところを決めていれば、間違いなくもっと取れていたはずです。

スターティングメンバーが前半に相手を疲れさせてくれるからこそ、自分が点を取れる。だからスタートの選手に感謝していますし、彼らのためにも狙わなくてはいけないと思っています。もちろんスタートで出ることが理想ですが、こだわりすぎるとメンタルを崩す。どの時間から出てもゴールできる選手になりたいです」

「成長したい」という思いの強さはチーム内で有数。誰よりも貪欲な姿勢でゴールを量産する吉澤選手のこれまでを辿っていきましょう。

■無人のゴールを前に、フカす。

埼玉県出身の浦和レッズファン。小学4年の時、お兄さんの影響でサッカーを始め、中学時代までFWやトップ下、ボランチでプレー。卒業後は名門・武南高校に進学します。

「当時は将来プロサッカー選手になろうとはぜんぜん考えていませんでした。高校も、友達の誘いでセレクションに行ってみたら合格した、という感じ。武南に決めたのは、選手権に憧れていたから。あの舞台に立ちたいと強く思いました」

武南では大山照人監督のもと、サッカー漬けの毎日。埼玉県の鶴ヶ島市から川口市まで、毎日1時間半近くかけて通学していました。

武南高校時代の吉澤選手

毎日15時半から練習が始まり、終わるのは19時ごろ。そこから自主練をして、家に帰ってくるのはいつも10時を回る。そんな毎日でしたが、100人近くの部員がいる名門校で出場チャンスをつかむのは容易ではありません。

「入学以来、長いことBチームにいました。3年になってやっとAチームに入りましたが、それでもなかなか出場できなかった。当時はトップ下でしたが、なかなか得点に絡めず、チャンスを得られませんでした。

あのころはまだ小さくてひょろひょろ。身長は高3でやっと今の高さまで達しましたが、体重は65kgぐらい。チームのFWの中でも細い方でした。ただ唯一、ケツだけは大きかったです(笑)」

ゴールに向かうパワーを生むエンジン=お尻の筋肉こそ発達していたものの、なかなか結果を出せずにいた吉澤選手。高校生活の終盤になり、ついにチャンスが巡ってきます。

埼玉県のS1リーグの試合に途中出場してゴールを挙げたことをきっかけに、スタメンに定着。全国高校サッカー選手権大会の埼玉県予選に出場します。10年ぶりの選手権出場を目指す武南は1回戦から圧勝を続け、準々決勝に進出。相手は昌平高校。しかしこの試合で、吉澤選手は大きなミスを犯してしまいます。

「めちゃめちゃ緊張していました。味方選手がドリブルで相手DFを左サイドに引きつけ、そこから自分にクロスがあがって来ました。ゴールは無人。それなのにシュートをフカしてしまったんです。ああ、やっちゃったなと…」

試合は0対1で敗戦。高校サッカーは、決定的なシュートを外した後悔とともに終了しました。「もう二度と同じ過ちを繰り返さない」。吉澤選手はそう自分に言い聞かせ、大学でもサッカーを続けることを決めました。

■チャンスは必ず来るし、決して逃してはいけない。

卒業後は作新学院大に進学。北関東リーグから関東リーグ入りを目指すチームで1年生からチャンスをつかみ、今につながる勝負強さを発揮し始めます。

「印象的だったのが、1年生の時の関東大学サッカー大会。この時に熱い試合ができたことがその後につながりました。明治学院大に負けていたのですが、残り10分で出場。同点ゴールを決めることができた。この試合で自信を得ることができました。

どんな相手との試合でもチャンスは絶対に来るし、絶対に逃してはいけない。常にそう思ってピッチに入るようになったのは、高校時代の苦い経験があるからです」

そんな当時、痛感していたのがパワー不足。そこで身体作りに重点的に取り組み、ある時は一人で、ある時はチームメイトとトレーニングルームにこもり、コツコツとウエイトトレーニングに打ち込んで筋力をつけていきました。

「2年ぐらい続けて10kgほど体重が増え、筋肉量もアップ。大学3年の時には今と同じ75㎏になり、身体が強くなったことを実感でき、プレーも変わっていきました。高校時代から前へのパワー、ゴール前の迫力が持ち味でしたが、大学に入ってしっかり身体を鍛えたことで、すごく自信がつきました」


大学3年からスターティングメンバーに定着。吉澤選手の心にはいつしか「スタートから出ることには責任が伴う。出られない選手の分もしっかり戦い、結果で応えなくてはいけない」という自覚が芽生えていました。

大学4年になると、コロナ禍の影響でサッカー部の活動が停止に。焦る気持ちを抑え、自主的にボールを蹴ったり筋トレをしたりと練習を欠かさず、来るべき舞台に向けてコンディションを整え続けました。結果、チームは北関東リーグで優勝し、関東大学サッカー大会の2部昇格決定戦に出場。現在ともにプレーするDF米澤哲哉選手を擁する東海大に惜敗して昇格はならなかったものの、吉澤選手は大学4年間で、大きな成長を示すことができました。

卒業後の進路を考えた時、2~3年生の時からたびたび練習試合で訪れていたいわきFCは意中のクラブでした。鈴木秀紀パフォーマンスコーチにストレングストレーニングを教わる機会もあり、当時から親しみを感じていたのです。

「フィジカルの強さを前面に押し出すいわきFCのプレースタイルは自分に合っていると思いましたし、一番入りたいクラブでした」

優れた得点感覚をアピールして入団を勝ち取った吉澤選手は、いわきの地でプロサッカー選手としてのキャリアをスタートさせることになりました。

■チーム有数の「得点のにおいのする選手」。

チームに合流すると、トレーニングの厳しさは想像をはるかに超えるものでした。「今後やっていけるのか」という不安を感じる余裕すらなく、とにかく必死で食らいついていきました。

3月にJFLが開幕。個性あふれるFW陣の中で、吉澤選手は持ち前のゴール前の迫力と得点への嗅覚で頭角を表し、開幕からコンスタントに交代出場を続けます。第8節の高知ユナイテッドSC戦に77分から出場。日高大選手の左サイドからのクロスに飛び込み、ダイビングヘッドでプロ初ゴールを挙げました。

「やっと取れたという感じでした。クロスへの入りは得意とするところ。自分の特徴を出せたゴールだったと思います。ただし、その後のプレーがぜんぜんダメでしたね」

翌週のFCマルヤス岡崎戦でもゴールを挙げ、その後も途中交代で得点を重ねていきます。第12節の松江シティFC戦では63分に入り「入った直後は特に狙う」という宣言通り、3分後の66分にゴール。その5分後の71分にもゴールを決め、初の1試合2ゴールを記録しました。

交代出場でチームに勢いをもたらす欠かせない存在へと上り詰めた吉澤選手について、田村雄三監督はこう語ります。

彼の魅力はボックス内でのパワーや動き出しの速さ。チーム有数の得点のにおいのする選手であるのは、誰もが認めるところ。試合の途中から入り、流れを作るパワーを持っています。もちろんスタートで出るポテンシャルは十分ですが、今シーズンは後半から流れを変える役割を担ってもらいました。まだ23歳ですので、スーパーサブになるのはまだ早い。来年やるべきは、新監督のファーストチョイスとして、スタートから戦える選手に成長すること。そのために不得意なことに繰り返し練習で取り組んでいるのはいいことですが、前へのパワーなどのストロングをなくしてほしくないと思います。来年さらに経験を積んでいけば、もっと計算できるFWになれるはずです。

11月27日のJFL第33節・鈴鹿ポイントゲッターズ戦でも、後半アディショナルタイムにダメ押しの4点目を挙げ、チームの優勝を決定づける働きをした吉澤選手。今シーズン残り1試合となり、JFL 10位(12月4日現在)となる8ゴールからの上乗せが期待されます。

「年初から計画的にフィジカルトレーニングに取り組んできたので、シーズン終盤になっても身体がしぼむことはありません。今年の夏に筋肉量が増え、最近はそこから絞りつつも筋肉量をキープできていて、とてもいい感じで調子が上がってきています。最後にぜひゴールを決め、いい形で今年を締めくくり、来年につなげていきたいです」

▼吉澤柊選手をもっとよく知る4つのQ&A
Q1:好きなサッカー選手は誰ですか?

A1:浦和レッズの興梠慎三選手です。動き出しや裏を取る動きなどを、大学時代から参考にしていました。埼玉出身なのでレッズの大ファン。毎試合見ています。いつかレッズでプレーすることが夢です。

Q2:仲のいい選手は誰ですか?
A2:同期入団の選手はみんな仲よくしていますよ。大学時代に激しく戦ったDF米澤も。今は大切な仲間です。一番仲がいい選手をしいて挙げるなら、嵯峨理久選手ですかね。

Q3:オフはどんなことをして過ごしていますか?
A3:コロナもあって、特に何もしていないですね。試合の出場時間が短かった時は、グラウンドに来て軽く走ったりします。あとはネットフリックスでアニメを見たり。お勧めは『キングダム』です。

Q4:彼女はいますか?
A4:います。大学時代にバイト先で一緒だった子です。大学では朝に練習して、昼に授業。夜はバイト。「やよい軒」でホールの仕事をしていて、そこで知り合いました。

次回もいわきFCの選手達の熱いVoiceをお届けします。お楽しみに!

(終わり)


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