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今ここで、自分の価値を表現する。 MF嵯峨理久【Voice】

青森山田高~仙台大でサイドアタッカーとして活躍し、今年入団するやSBに抜擢。開幕から全試合にスタート出場を続け、すでに5得点を挙げているMF嵯峨理久選手にお話をうかがいます。

▼プロフィール
さが・りく

1998年生まれ。青森山田高→仙台大
2021年いわきFC入団

■攻守の多彩なタスクをこなす、新たなSB像。

2021年4月11日に行われたJFL第5節・ラインメール青森戦。いわきFCは前半に先制を許し、試合は終盤へ。「このまま青森に逃げ切られるか」。そう思われた後半アディショナルタイム1分。FW平岡将豪選手が左サイドを突破。折り返したボールに反応し、ペナルティエリアへ猛然と走り込んでシュートを決めたのは、今シーズン加入した右SB嵯峨理久選手でした。

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「開幕3連勝後の試合。負けていましたが、みんな諦めずにプレーしていました。後半途中に打ったシュートの感触が左足に残っていて、次にボールが来たらしっかり枠に入れよう、と思っていたところのゴールでした。攻撃的なプレーは常に意識しています。SBなのでもちろん守備は大事ですが、攻撃にもどんどん関わっていきます。今後も積極的にゴールにつながるプレーをしていきたい」

田村雄三監督は試合後、土壇場の同点ゴールについて「あの時間帯に、右SBの嵯峨があの位置にいたこと。それがすべて」と語りました。ポジションがどこであろうと、常に攻撃的にプレーする。まさに「魂の息吹くフットボール」を体現するような、アグレッシブな攻め上がりとシュートでした。そしてこの得点は嵯峨選手にとって、めでたいプロ初ゴールでもありました。

「後半は圧倒的に攻めていたものの、なかなか点が入らなかった。サイドでプレーしていると、観客席からサポーターの皆さんの声がわりとはっきり聞こえてくるんですよ。シュートが外れた時の『あぁ~』という声を聞くたびに『どうにかして取りたい!』と思っていました。

また、青森のGK廣末陸選手は高校の同級生。だからこそ決めたい、という思いもありました。やっとゴールできた時は、サポーターの皆さんに向かってガッツポーズ。喜んでもらえてすごくうれしかったし、これからも頑張っていこうと思いました」

青森山田高~仙台大でサイドアタッカーとして活躍し、今年いわきFCに入団。チーム加入後、SBに抜擢されました。今季のいわきFCが4バックを採用した決め手は、嵯峨選手の加入です。

左足から鋭いクロスをピンポイントで送り込む日高大選手と、右サイドを起点に縦横無尽にピッチを駆け、ハードワークをいとわない嵯峨選手。サイドライン際を上下するだけでなく、豊富な運動量で攻守にわたる多彩なタスクをこなす両SBがいるからこそ、今年の4バックは成り立っています。

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「外に開いて展開するだけでなく、中でボールを受けて攻撃に力を出していくことも求められます。加えてこのチームは運動量が必要。上下左右に動き回る必要がありますが、やみくもに動くだけではダメ。相手選手と味方選手の位置取りをよく見て、考えてポジション取りをしなくてはいけない。全体をしっかり俯瞰してバランスを取ることを常に心がけています」

左右のサイドを高いレベルでこなすポリバレントなプレーヤーとして、1年目ながら欠かせない存在となった嵯峨選手。チームは5月から3バックも併用していますが、3バックでは右のウイングバックで出場します。また第15節・ソニー仙台FC戦では4バックの左サイドハーフで先発。これまで0勝3敗と相性が悪く、今年の天皇杯1回戦でも敗れていた相手の守備陣を切り裂き、見事な2ゴールを挙げました。

「ソニー仙台さんには今年の天皇杯だけでなく、大学時代に何度もやられているんですよ。天皇杯で勝ったのは、FW岩渕弘人選手が4年生で僕が3年生の時だけ。幾度となくトレーニングマッチもしていたし、意地でも勝ちたかったんです

後半開始早々の1点目は、弘人君の仕掛けに絡んでゴール前に走りました。FW平岡将豪選手も上手くスペースを空けてくれたので、絶好のポジションを取ることができましたね。弘人君からの横パスをファーストタッチでいい所に置き、あとは決めるだけ。仙台大の1年先輩で大学時代から動きがわかっているので、上手く絡むことができました。

2ゴール目は鈴木翔大選手さまさまですね(笑)。鈴木選手が競り勝って流れてきたボールを決めるだけでした。2点取れたのは本当によかったです。欲を言えばハットトリックしたかったけれど、チームの勝利に貢献できたのが何よりうれしいです」

さらに8月22日のヴィアティン三重戦では、0対1のビハインドで迎えた79分に貴重な同点ゴールを挙げました。JFLではここまで5ゴール4アシスト。すべてが大事な局面でのものです。優れた得点感覚と卓越した勝負強さ。その源泉は学生時代にありました。

■サボらず、チームのために戦う選手になる。

青森県出身。中学時代から名を轟かせ、U-15日本代表候補合宿メンバーに選出。同年代のトップクラスの選手達とプレーした経験は、大きな自信となりました。プロサッカー選手という夢に向け、ブレずに努力を続けた嵯峨選手。高校は名門・青森山田高へ進学。しかし、全国最高レベルのサッカー部では激烈なポジション争いが待っていました。

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「高校では2学年上にMF山下優人選手、2学年下にバスケス・バイロン選手がいました。自分のころは部員150名ぐらいでA、B、C1、C2、C3と5つのカテゴリーがあり、周りの選手達がみんな驚くほど上手くて強い。レベルの高い選手がひしめき合っているので、練習でも決して気を抜けません。高校に入った途端、伸びていた鼻を完全に折られました」

たった一つのミスで脱落してしまう厳しい環境。嵯峨選手は懸命に食らいつき、2年生でAチーム入り。SHのスターティングメンバーの座を勝ち取ります。その当時、黒田剛監督に呼ばれ、こう言われたことが忘れられません。

「お前を使っている理由わかるか? サボらない、計算できる選手だからだ」

それ以前は、ドリブルやパス、シュートなどの攻撃力が自分の特徴だと考えていました。しかし、この言葉で考えを変えました。この言葉が、今の運動量の多いプレースタイルのきっかけとなりました。

「守備も攻撃もサボらず、チームのために戦う選手になると決め、立ち位置を考え直していきました。もちろん状況を見て動くことは大事ですが、まずはチームのために戦うと誓いました」

のちにJリーグへ進む優れた選手達がひしめき合う中、黒子に徹して躍進に貢献。3年生となった2016年、青森山田高は見事、高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグファイナルと全国高校選手権の2冠を達成しました。

■それでも自分は次のステージに行く。

卒業後は仙台大に進学。1年時からレギュラーの座をつかみました。

「関東の強豪大学で挑戦しようという気持ちもありましたが、僕の夢は日本を代表するサッカー選手になること。だから、どこの大学に進もうと、結局は自分次第。仙台大という毎年全国大会に出場する強豪でなるべく早くから試合に出て、プロのスカウトに見てもらいたいと考えました」

3年生でキャプテンに選出されたのは、4年生が就活などで抜けることが多く、3年生が各カテゴリーのキャプテンを務める仕組みになっているから。この年、天皇杯宮城県予選でソニー仙台FCを破って本戦出場を果たし、1回戦でいわきFCと激突。見事な勝利を収めました。

「あの試合ではPKを蹴り、GK坂田大樹選手から点を取りました(笑)。忘れられない試合ですね。いわきFCの選手はみんなとにかくパワフル。金大生選手とか日高大選手とか平岡将豪選手とか、みんなぶつかるとめちゃくちゃ痛い。他の大学にそんな選手はいないし、Jリーグにもいない。日本にこんなチームはないと思いました」

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天皇杯2回戦では、当時J2の横浜FCに1対2で惜敗。この年は関東の強豪大学に勝つことこそできませんでしたが、プロサッカー選手という夢は、すでに手の届くリアルなものとなっていました。

しかし迎えた大学最後の年、コロナ禍がやってきます。目標としていた大会は続々と中止。仙台大サッカー部も部活動を休止せざるを得なくなりました。Jリーグクラブのスカウトにアピールする機会を失い、練習参加も満足にできない状況。進路が決まらぬまま、時間が過ぎていきます。

「コロナ禍を言い訳にするつもりはありません。圧倒的な実力があれば道が拓けたはずですし、プロとはそういう世界。そんな状況であっても、自分は次のステージに行く。だから、決して準備を怠ってはいけない。

振り返ると、大学3年までは高校時代のような黒子的なプレーをしていました。でも自分が輝くことを考えたら、それだけでは難しい。そして自分達の代には得点力のある選手がいなかったので、今年は自分がゴールを奪う。そう考えてポジション取りや動き出しのタイミングを変え、シュート練習をたくさんこなし、得点に絡むプレーを意識していきました。今、点を取れているのは、大学4年のこの時期にプレースタイルの幅を広げたことが大きいです」

嵯峨選手は東北大学サッカーリーグ6試合で11得点3アシストを挙げて得点王に輝き、全勝優勝の原動力となりました。この大活躍でJ1やJ2のクラブからも注目されたものの、入団はかなわず。J3のクラブに進む道もありましたが、選んだのはいわきFCでした。

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「自分の可能性はまだたくさんあると信じているし、獲らなかったチームを見返したい。だからこそ、最も成長できる環境を選ばなくてはいけない。大倉社長とお話して、いわきFCが自分を必要としてくれていることをひしひしと感じ、ここで成長したいと思うようになりました。

ただし、実際に入団が決まるまで迷ったのも事実。だいぶお待たせしてしまったからこそ、結果で恩返ししたい。自分の成長にフォーカスすれば、自ずと結果はついてくる。そう信じています」

■与えられたポジションでタスクをこなし、その上で能力を発揮したい。

入団するやSBに抜擢された嵯峨選手。1年目ながら、嵯峨選手は今や欠かせないチームの核として、リーグ全試合に出場を続けています。

「チームに合流したばかりのころは、練習もストレングストレーニングも本当にハードで、肉体的にも精神的にも疲れていました。シーズンインから1~2カ月間、3月~4月ぐらいまでは慣れずにきつかったですね。

SBが初めてなので、最初のころはわからないことも多かったです。チームの試合を見て振り返ったり、上のカテゴリーの選手の動きを見たりしながら研究。日高大選手にSBの動き方を教わったりもしました。そんな中にハードなストレングストレーニングが入ってきたりと、身体とメンタルのコントロールが難しかった。でも今は慣れたこともあり、疲れは特に感じません」

嵯峨選手のポリバレント性があるからこそ、交代による戦術のバリエーションが多彩になります。相手の出方によって試合中にフォーメーションを変えることはあっても、田村監督が嵯峨選手を外すことはありません。

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「ポジションを決めるのはあくまで監督ですし、ずっと起用していただいて本当にありがたいです。どこをやりたいというより、与えられたポジションでタスクをこなし、その上で自分の能力を発揮することが大事だと思っています。

4バックであろうと3バックであろうと、サイドならば左右どのポジションでも質の高いプレーができる自信があります。もちろん左右で感覚がまったく違いますし、ボールの持ち方も動き方も変わります。でも、どこのポジションがプレーしやすい、というのはないですね。サイドハーフに入ったらゴールに近いポジションでプレーできて楽しいし、SBでは相手を剥がして前にボールを運んでいくのが楽しい。違った面白さがあります。

僕は将来、日本を代表する選手になる。そのためには、できるプレーの幅をもっと増やすことが大事だし、今の自分に満足できる部分は一つもありません。だから今SBにチャレンジしていることは、今後のサッカー人生を考えるとプラスしかない。確かに、SBの守備は難しいけれど、一緒に4バックを組むCBの黒澤(丈)選手や米澤(哲哉)選手と同じことをしろと言われても無理(笑)。攻撃力という自分の特徴を、毎試合しっかり出していけたらと思っています。

他の選手にはできないプレーをしてファンの皆さんの期待に応えたいし、JFLの戦いでもっと存在感を示したい。そしてチームをJ3に昇格させ、優勝して、自分の価値を表現する。そのために、今も試行錯誤を続けています」

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▼嵯峨理久選手をもっと知る5つのQ&A
Q1:オフはどんなことして過ごしていますか?

A1:特に何もせず、本当に家で休んでいます(笑)。練習がなくても、結局は午前中にクラブハウスに来て身体を動かしてしまいますね。家に帰ったらYouTubeやDAZNでサッカーの試合を見たり。自分達の試合を見て振り返ることもあります。「あの時どういうプレイしたっけ?」と確認する感じです

Q2:仲がいい選手は誰ですか?
A2:同期入団の選手はみんな仲いいですね。吉澤柊選手、米澤哲哉選手らと一緒にいることが多いです。同期のメンバーでご飯に行くのは、たまにタイミング合えば、という感じです。夜はわりと自炊しているので。

Q3:食事はどんなものを作るのですか?
A3:鶏胸肉でサラダチキンを作ったり、最近は冷しゃぶとか。簡単なものが多いです。あと暑い時はお米を麺類に変えたりしますね。

Q4:お手本にしている選手はいますか?
A4:実は具体的にはいないんですよ。大学4年で点を取りたいと思った時は、岡崎慎司選手やジェイミー・バーディー選手、あとサイドでは朴智星選手などの映像を見ましたね。あとはいろいろなチームのSBの選手がどう動いているのかを見たりもします。

Q5:新体制発表会では田村雄三監督、YouTube「サトシの部屋」では渡邉匠コーチのモノマネを披露いただきました。他のレパートリーは?
A5:いやいやないです(笑)! 最近は何もやってないんですよ。チームに溶け込みたかったのでやらせてもらったのですが、あれはけしかけた弘人君が悪い(笑)。高校時代はめちゃくちゃおふざけキャラだったのですが、大学で落ち着いたんですよ。大学に入ってから高校の同級生と会うと「お前、落ち着いてホントつまんなくなったな」と言われるぐらい。モノマネは今もすごく恥ずかしいです。

次回は中盤の欠かせない核として活躍するMF山下優人選手の登場です。お楽しみに!

(終わり)

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