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文化人物録31(イェルク・デームス)

イェルク・デームス(ピアニスト、2016年)
→1928年オーストリア生まれの世界的ピアニスト。パウル・パドゥラ=スコダやフリードリヒ・グルダとともに「ウィーン3羽ガラス」と言われていた。大の親日家であり、亡くなるまでほぼ毎年来日して日本のオーケストラや音楽家と共演していた。
特にソプラノ歌手の阿久津麻美さんとは親交が深く、頻繁にリサイタルを開いていた。一見強面なので、お会いした時はかなり身構えながら話をお聞きしたが、実際は大変真摯に対応していただいた。2019年死去。

・私も高齢になったが元気ではある。自分が生きている間はずっと日本に来たいと思っているそしてすべてのコンサートに心を込めて臨むよう心掛けている。一つ一つの音は大きすぎても小さすぎてもいけない。1つ1つを丁寧に演奏しないといけないのです。車の運転と同じで、1つの間違いですべてが終わってしまうのです。阿久津さんの声はとても驚くべき声です。声で最も重要なのは、その声で何をするか、声でどうするかということ。とても美しい声を持っているのですが、時々怠けてしまうこともあるようです。音や呼吸など、すべてが一致する必要があるのです。

・声をホールで表現するのは難しいこと。美しい状態にするのが難しいのです。特に歌では音楽と同様、言葉が重要な意味を持つ。特に日本人が違う言葉で歌うことには大きな壁があるので、怠惰であるか勤勉であるかで大きな差が出る。日本語や中国語は視覚からできている言語です。それに対して欧州の言語は聴覚からできています。特に母音ですね。日本人はウの音を飲み込んでしまうけれど、欧州でははっきりと歌う。例えばゲーテの詩で音楽的な響きを考える場合、響き。言語認識から理解する必要があります。

・ドイツリートは私にとって日々学ばばいけないものです。私もときどき詩を書くのですが、どのように発音してして声に出すかが大変重要なのです。詩を書くことは音楽にも影響があります。私はディートリヒ・フィッシャー=ディースカウなどの伴奏を長くやりましたが、詩をやっているとそのようなときにいい影響が感じられます。エリザベス・シュヴァルツコップ、ペーター・シュライアーなどと共演するときもそうです。私にとってはソロピアノと伴奏、両方が大事なのです。有名になって伴奏をやめてしまうことは間違っています。クララシューマンは自分の日記の中で、大切な日のことについて書いてます。すなわち、ロベルトシューマンがこう言ったのです。「(クララの)演奏がとてもよくなった。私(ロベルト)の作曲した歌曲を演奏してもらいたい」と。自分が何をすべきか、応えないといけないのです。

・日本人は礼儀正しすぎる部分があり、またものをはっきり言わない傾向にあります。礼儀正しすぎると芸術を殺してしまう部分があるので、日本の音楽家は鍵を持ちつつも、時々鍵を外すことも必要です。水にはたくさんの種類の水があり
ます。それと同じで音楽家も一人一人が違う。先生は個人個人に合わせて指導することが重要です

・音楽を通じて笑顔が生まれるのが最高ですね。友好的で楽しくないといけない。自分のベストを尽くせば人は感動してくれます。人のことは関係なく、自分にできることをやっていくべきです。

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