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文化人物録62(アファナシエフ)

ヴァレリー・アファナシエフ(ピアニスト)

→ロシア出身の世界最高峰ピアニスト。ピアニストというより孤高の哲学者のような風貌だが、これはある意味的を射ている。なにしろ、アファナシエフのピアノ自体に人間としての思想や哲学がたくさん詰め込まれているからだ。
僕はアファナシエフと直接話すことが決まってから、何か批判めいたものをいわれるのではないかと覚悟していたが、これは完全なる杞憂に終わった。アファナシエフはこちらの質問にも丁寧に答えてくれた。特にアファナシエフのあふれる日本愛には感銘を受けた。

*最新アルバムについてインタビュー(2015年)

・日本は大好きですね。東京は長い間来ているし、奈良もよく知っています。今ベルギーに住んでいるのですが、城や寺などいろんな場所を巡りました。

・ベートーヴェンの悲壮と月光を収録するのは初めてです。有名曲だけに、逆に大きなチャレンジです。なぜ今まで弾いてこなかったかといえば、それはレコーディングをするなら珍しい曲でという感じがあった。両方とも過去に弾いたことはありましたが、納得できない演奏だった。年月を経て、今ならきちんと弾けるかもしれないと思ったのです。

・音楽は音符が少ないほど難しいものが多い。特に緩徐楽章でしょうか。月光の第1楽章も解釈に時間がかかります。私自身も動きすぎてはいけない。まるでヨガのように集中してゆっくり動く必要があります。私は音楽を体の一部にしないと演奏しないタイプで、音楽と一体化しないと拒否反応が起こる。熱情もはじめそうでした。名曲というのはいくら知っている曲だからといって指使いや体の使い方など、決して軽視してはいけません。

・私は「ピラミッド」というタイトルの書籍をだしました。エッセーと小説の中間のような内容です。私の中ではごく自然に音楽も小説も存在しています。核という生活習慣がいつの間にか身についていました。特に1960年代にカフカの作品と出会ってからは書きたい衝動が抑えられなくなりました。そこからはシェイクスピアやボルヘス、ダンテなどにも到達しました。文学が音楽に反映され、音楽が文学に反映されているのです。すべてが経験しないとわからないことです。経験こそすべて。いろいろなものが複合的に絡まっているのです。

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