
フリクリ プログレ 第4話-3
イラスト/吉成鋼
【MM観念内(映画館)】
ヒドミが目を覚ます。
ヒドミ:え?え?
ハル子:食べる~?
ハル子がポップコーンを差し出す。
ヒドミ:…ここ、どこですか…?
ハル子:だよね~。わたしもよくわかんな~い。っていうか、狭くない?どうなってんのこれ?
超狭い映画館の座席にぎゅうぎゅうに詰めて座った、ハル子、ジンユ、ヒドミ。
天井も低く、ジンユとハル子はかなり縮まないと座ってもいられないほど。
落ち着き払っているジンユ。
目の前に緞帳とスクリーンがある。
ヒドミ:…映画館?
ハル子:みたいだけど、狭い!天井低い!スクリーン、ちかー!!
ジンユ:井出君は来れなかったのね…
音楽が鳴り、緞帳が開く。
ハル子:よっ!始まりました!わたし「少林サッカー」見たい!
スクリーンに映し出された、東宝のふる~いタイトルロゴ。
ハル子:ぶえ~~…なんか古くさいねええ…何がはじまんの?(ジンユに)ちょっと、ジンユ、教えてよ~「少林サッカー」見れる?
ジンユ:ちょっとは静かにできないの?
ハル子:(ポップコーンをむさぼる。)できまへんねええ!!
ヒドミ:…夢…
ハル子:…は?
ヒドミ:…これ、夢で見た…
と、スクリーンに映画館「武蔵野館」の古くさい宣伝映像が流れる。
ナレ:新宿駅から徒歩5分。新宿武蔵野館には夢がいっぱい。お年寄りから子供まで、みんなの笑顔が詰まった世界。新宿武蔵野館。世界中のエンターテイメントが、ここ、東京新宿のど真ん中に大集合。新宿武蔵野館。
× × ×
うずくまっている井出。後頭部をさすりながら起き上がる。足下に転がった植木鉢。
井出:ううう、、、うう?
顔を上げて、キョトン。
井出:あれ?ここ、、ええ?
見回すと、巨大な空洞?内。(実際のアイロンよりもかなり広い空間。)
井出:これ、、あのアイロンの中…?な、、なんにもないんですけど、、、。おーい、ヒドミー!みんなー!どこなのー!
× × ×
映画館内。
スクリーンに映像が映し出されていた「ストップ!映画泥棒」
ハル子:これ、毎回イラっとするよね~
「ストップ!映画泥棒」に続いて流れ始めた、「鑑賞マナーを守ろう!」映像。ナレーションが流れる。
ハル子:まだ始まんないの~!?も~!!
ナレ:みなさま、本日はご来場いただきまして、ありがとうございます。これから本編をごらん頂きますが、その前におねがいがございます。上映中の、撮影、録音などは、著作権上の都合により、固くお断りさせていただきます。
「カメラ」「マイク」のイラストと「ブッブー!」の音声。
ナレ:前の客席の背もたれを激しく蹴りながらの鑑賞も、ご遠慮ください。(イラスト解説あり)
ハル子:いいから早く始まれよお~
ナレ:続いて、正しいポップコーンの噛み方です。
「ポップコーン」のイラストが出る。が、そこから先の映像は、ナレーションと全く関係なく、MMアイロンが惑星を平均化する様子、どこかに保管されているN.O能力者達がMMによってエネルギーを吸い取られている様子、などが映し出される。
ジンユ、ヒドミは大人しく見ているが、ハル子は興味なさそうにポップコーンをほおばりながら見ている。
ナレ:鑑賞中にポップコーンを食べる際は、決して最初に前歯で噛むことがないように、よろしくお願い申し上げます。前歯でポップコーンを噛むと、必然的に口が開いた状態でポップコーンと歯が接触しますので、ポップコーンの噛み砕かれる音が、しっかりと劇場中に響いてしまいます。ポップコーンを食べる際は、一粒ずつ、しっかりと口の中に入れ、奥歯で挟んだ後、しっかりと口を閉じ、噛み砕く音が鳴らない様、ゆっくりと噛み締めてください。
映像は終盤に、ハル子らしき人物のいる星が平均化される。平均化に巻き込まれるハル子らしき人物。二つに割れる星。あえて分かりにくく。
その映像を見つめていたハル子。
ハル子:ジンユ…
ジンユ:…なに…
ハル子:これ見てたら段々腹立って来たんだけど…
ジンユ:思い出したってこと…?
ハル子:うん、思い出しちゃったかも…やっつけまひょーか…
ジンユ:…本気で言ってるの?
ハル子:…あんたと合わさればいいんだよね?
【マスラオの研究室】
「植木鉢モニター」を見ているマスラオ。
「active」のランプが消えている。
マスラオ:消えた…
アイパッチ:どういうこった?
マスラオ:N.Oが、、持ってるってことか…?
アイパッチ:はあ?「植木鉢」を?
マスラオ:ああ…(真剣に考えている)
アイパッチ:でもあんた、失くしたんだろ?
マスラオ:…(真剣に考えてる)
アイパッチ:ねえ。失くしたんだろう?
マスラオ:(半泣き)それはもういいじゃん!
段ボールの巻かれたカンチ。
アイパッチ:なにキレてんだよ!
マスラオ:だって、何回も何回も言うじゃんか!俺だって辛いんだってば!
【MM空洞内】
MM空洞部屋に立っている井手。植木鉢を忘れず持っている。
井出:どこに行ったんだよ~みんな~
井出、キョロキョロし、振り向く。
井出:え!?
ヒドミが倒れている。近くにベビーカーも。
井出:ヒドミ!?
ヒドミ:うう…
井出、ヒドミを抱き上げる。
井出:大丈夫…?ど、どこに行ってたんだよ…
ヒドミ:え、映画館に…
井出:映画館…?なに言ってんだよ…
井出、抱き上げるついでに、ヒドミのおっぱいが見えそうになる。
井出:ぐぬう…
井出、ヒドミを立たせる。
ヒドミ:あ、ありがとう…
井出:平気?どっか、痛くない…?
ヒドミ:大丈夫、痛くない…どこも…痛い!
井出:どっち!?
ヒドミの頭に突起ができる。
井出:はうう!?これは!なんだ!?
ヒドミ:いいいてててててて!!
ヒドミの頭の突起、枝となり伸び始める。
井出:枝!これ、枝!枝出て来てるヒドミ!
ヒドミ:うう!枝?うう!
枝が伸びて、一枚の葉っぱが産まれる。
井出:葉っぱー!ヒドミー!葉っぱー!!
ヒドミ:(痛みに苦しみながら)いちいち言わなくてもいいや…
井出:り、了解!ごめん!
葉っぱがみるみる大きくなる。
井出:うわーー!
ヒドミ:どうなってるの…?
井出:言わない!言わない方がいい!
ヒドミ:ううう!
一枚の葉っぱが大きくなり、そこから羽化したばかりの昆虫のようなハル子とジンユがボトリと産まれる。
井出:ごめんヒドミ!!やっぱり言う!ヒト!ヒト!ハル子!ジンユ!出て来る!うわはあ!
ハル子とジンユが出て来ると、ヒドミの頭には小さな枝だけがのこっている。ちょっとした盆栽のような。
ヒドミ:えでででで…
井出:うわわわわ、
気を失ったまま産み落とされたハル子とジンユ。
井出:ど、どうなってんだ…?(ハル子、ジンユに声をかける)おーい、起きて、お二方。顔色が悪うございますよ~…
ハル子とジンユ、むくむくと巨大化しはじめる。
ヒドミ:…嘘でしょ…?
頭から枝が出たままのヒドミ、怖がって井出の背後に回る。
井出:ちょっとちょっとちょっと、、、
ハル子:(巨大化しながら目を覚まし)あれ?どしたどした?
ジンユ:(同じく)うう…
巨大化しながら服装ごと若返って行くジンユ。
ハル子:(ジンユを見て)あはは!どうしたのジンユ!あれ?
ハル子も巨大化しつつ若返って行く。ハル子もジンユも、全く同じ服装。(ハル子の若返りに合わせた服装。)
10代のハル子とジンユになる。巨大化は止まらないまま。
ハル子:(井出とヒドミに)あんたたち、ちっさ!
井出:あんたがでかいんだよ!
ジンユ:ラハル…いいわね?
ハル子:オッケー。で、あそこに入るってこと?
ハル子、見上げる。
天井に、N.Oエネルギーが渦巻く透明のタンクらしきもの
ジンユ:そう…あそこで一度、わたしたちは…
と言いながら、さらに巨大化し、幼児になるジンユ。
ジンユ:フィフティブバブー
ハル子:なになに?もー!話をちゃんと最後まで…
ハル子も巨大化と同時に幼児に。
ハル子:(赤ちゃん)ハナシオンバブー
ハル子とジンユ、巨大な赤ちゃんが二人。
ハル子:キャハハハ!
ハル子赤ちゃん、ゴロンゴロン転がって井出とヒドミの方へ。
逃げる井出とヒドミ。
ヒドミ:わわわわわ
井出:悪夢!
ハル子赤ちゃん、興味深そうに井出とヒドミを捕まえようとし、ズーン!と手のひらを叩き付ける。地面をヘコませるほどのパワー。
井出:殺されます!このままだと殺されます!
井出とヒドミ、走り始めるが、ヒドミ、すっ転ぶ。
ヒドミ:あだー!
井出:こういう時に転ぶタイプ!いいね!
ヒドミに「いいね!」がつく。
井出、ヒドミを抱きかかえようとすると、大きな影。
井出が見上げると、おむつ姿の生まれたてハル子赤ちゃんが笑顔で両拳を振り下ろそうとしている。
井出・ヒドミ:ぎゃー!
と、ハル子赤ちゃんは何かに引っ張られる様に後ろに転げていく。
転げながら、胎児となる。
天井から降りて来た管が、ハル子赤ちゃんとジンユ赤ちゃんのへそにつながる。
巨大なジンユ赤ちゃんの元へ転がって行く。
巨大な赤ちゃんが二つ。
心音が聞こえて来る。
ハル子:ばっぶ…ぶぅう
ジンユ:ぶぶうぅ…
へそから天井に向かってつながった管の中を、光る液体が登って行く。
井出:なんだ…?なんか、、吸い込んでる…大丈夫なの?ハル子!ジンユ!
眠っている様な巨大な赤ちゃんが二人。
ヒドミ:…たぶん、、何かを元に戻そうとしてるんだと思う…元々、一つの…
井出:一つの、、?ど、、どういうこと?…わわわわ…
赤ちゃんハル子が、動き出す。
ハル子:ぶふふ…ばふふん…べっへっへ…
井出:ハル子…?
ハル子赤ちゃんはモゴモゴとおぼつかない動きで、時分のヘソにつながった管を引っこ抜き、思いっきり吸い込み始める。天井に向かって上がって行った光る液体が逆流し始め、ハル子に向かって流れて行く。心音と、「ごくり…ごくり…」と飲み込む音。
ハル子:んぐっ…んぐぐぐっ…
井出:な、、、なにしてんだ…?
それに気付いたのか、ジンユ赤ちゃん。
ジンユ:ばぶこ…!ばぶぼぶぼびばうばば!(約束と違うわ!)
ハル子:ぶべへっ…びばんばば!(知らんがな!)
ジンユ:ぶべびば、ばぶぶばっぶう!ばびばばびばばばっばばば…
と、切に訴えるジンユだが、退行が進んで行く。
ジンユ:ぶ…ふ…ぅぅ…
赤ちゃんジンユがしぼんでいき、胎児となり、胚となっていくと同時に、
光る液体を飲み込んだハル子はどんどん成長し始める。赤ちゃんの姿から幼児になり、小学生ほどになり、10代半ばくらいまで大きくなりながら、管から光る液体をずんずん吸い込んでいる。
井出:ヒ、、ヒドミ…これって…
ヒドミ:(目を潤ませ)はあはあ、、、
井出(オフ):このしと、興奮してる!?
ハル子:ばぶばぶ…むにゃむにゃ…きゃきゃきゃきゃ!…むひゃひゃひゃひゃ!
ハル子、完全体となり、立ち上がる。
ハル子:こーのーとーきーをー!まーってーいたああああ!!ジンユー!ごちそーーーさーーーん!!
ハル子、ぎらぎらぎらー!輝く。
井出:く…食った…
ヒドミ、目を潤ませて興奮。
ヒドミ:たまらん!
サイレンが鳴り響く。