見出し画像

直接対決

本人たちを呼び出して話をしてみた。


「大変お待たせいたしました」
18時ごろ、両親と該当生徒が私の待つ部屋に入ってきた。
「いいえ。突然お呼びだてして申し訳御座いません。お掛けください」
職業病なんだと思うが、笑顔で出迎えてしまった。
私の笑顔に相手方は顔を引き攣らせていた。(そりゃそうだ)
おそらく、担任から概要は聞いてきたのだろう。
三人とも何かに怯えながら、席に座った。
まあ、担任に教頭、校長に学年主任もいれば
何が起こるのか分からないから恐ろしいよね。

「まず、これをお聞きいただきたいんですけど」
そういって再度、娘の携帯録音を流した。
全部流し終わると三人の顔が青くなってきているのが分かった。

「これは、息子さんの声で間違い無いですか?間違いがあってはいけないと思って確認しておきたいんですけど」
「ほ、ほんと、本当に申し訳ございませ」
「私の話を聞いていましたか?間違い無いかと聞いているんです」
静かに話す私に怯えながら、母親がうなづく。
「お父様はどうですか?間違いないですか?」
「間違いございません」
父親の方は、さすが会社で取引先とのクレーム対応に慣れているんだろう。
私に上げ足を取らせないように答えた。
「最後に〇〇くん。これは貴方が言っている事で間違いないですか?」
該当生徒はまさか自分が聞かれると思っていなかったのだろう。
呆気に取られた顔をして「・・・はい」と答えた。
「はい。皆さんに確認が取れましたので、本題に入らせていただきます」
ニッコリと笑いながら用意した資料を3人にも配った。

資料はウチの娘がかかっている病院の診断書と医療記録の写しと
学校が再開した時にクラスメイトに配った資料だ。

「まず、始めに申し上げておきますが。ウチの子はコロナには罹患していません。
手元の資料にもあるとおり気管支喘息での診療を受けています。この記録は本日お話をさせて頂くために用意させていただきました」
私の話を遮るように「文書代を支払います!」と母親が言ってきたのを
冷たい視線で一瞥し「今は話を聞いていただけます?」と突き放した。

「あと、学校が再開した時にウチの娘の持病について知らせるお手紙です。ご覧になるのは初めてですか?」
両親は「初めてです」と小声で答え、該当生徒は黙って資料を見ていた。
「〇〇くん。貴方もこの手紙は初めてかな?」
蚊の鳴くような声で「いえ・・・見た事があります」と答えた。

「その手紙にもあるとおり、ウチの娘はコロナと間違われやすい症状の病気です。
なので、一緒の教室で過ごす生徒さん皆さんに説明をさせて頂きました。
しかし、その私の気持ちは理解していただけなかったようで、コロナだと言われる様になりました。咳をしているからコロナだと。ですが、休んだ時にコロナに罹患しているという記録はどこにも無いですよね。」
私の話を俯いて聞いている3人。
「ねえ、〇〇くん。どうしてうちの子がコロナだって思ったの?」
私は該当生徒の前にしゃがみ込み聞いた。該当生徒は俯いて何も答えない。
「あ、あの。この件は本当に申し訳ないって思っているんです。多分、勘違いで娘さんを傷つけてしまって」
母親がまたシャシャリ出てきた。ため息をついて立ち上がり母親に向き直った。
「あのさぁ、今〇〇くんに聞いているんだよね。貴方には質問してないの。黙って待ってることもできないの?順番に話聞いてやるから待ってろよ」
何回も話の腰を折られることに苛立ってきていたのが表に出てしまった。
ドスの効いた声で母親を一蹴してしまった。

「もう一回聞くね。どうしてウチの娘をコロナだと言ったの?」
震えながら該当生徒は話し始めた。
「・・・いつも咳していたし、休みもコロナにかかった期間と同じくらい休んでいたから・・・コロナなんじゃ無いのって・・・軽い気持ちで・・・」
「ふうん。軽い気持ちでそう言ったんだ。じゃあおばちゃんの話は聞いてなかったんだ」
「あ、いや・・・・そうじゃなくて・・・」
「そうじゃなくて?じゃあ、なんでだったのか教えてくれる?」
「な、なんで・・・?え、えっと・・・」
「分からないって事はよく考えずに脊髄反射で言ってたって事かな?」
「あ、はい、そうだと思います」
「じゃあ、君の首から上は飾りなんだ。だから考える事も出来ないし、平気で人を傷つける様な事が言えるんだね。要するに馬鹿だったんだ・・・じゃあ、しょうがないか」
私の言葉に呆然とする生徒。その姿に私は首を傾げて言った。
「ん?あれ?私が言っている事の理解ができてるんだね?馬鹿では無いんだぁ。」
「お、俺は学年で上位の成績に入ってるんです。馬鹿呼ばわりは取り消してください・・・」
「そう、じゃあ。その学年上位とやらの頭脳で教えてくれよ。なんで娘をコロナ呼ばわりしたのか、軽い気持ちじゃなかったなら何だって言うのか。わかるように説明してくれよ。そうしたら馬鹿呼ばわりしたことを謝ってあげる」
「え、え?」
私は自分の携帯電話を取り出して、該当生徒が言ったことを再生した。
私がやっている行為に、その場にいた全員が驚きの顔を見せた。
まさか、この場も録音されているとは思っていなかったのだろう。
「すみませんね。仕事柄、会議の録音が癖で。・・・さぁ、脊髄反射ではなく考えがあって、ウチの娘をコロナ呼ばわりした事が再確認できたね。聞かせてくれよ。キミの答えを」
それでも答えようとしない該当生徒。最終手段に出るしかないなと口を開いた。
「がっかりだね。学年上位がこんなモノだとは。こんな簡単な事も答えられないってことは・・・カンニングしてテストの点数稼いでるのかな?」

小馬鹿にしたら本性をあっさり現してくれた。

該当生徒がようやく私の方を見て大声で叫んだ。
「ま、毎回毎回休んでいるのが腹立って。学校来たと思ったら、保健室に行って授業受けないし。そのくせ、みんなに授業のことを聞き回ってて・・・。迷惑だったから!居なくなればいいと思ったんだ!あんなヤツ!」
冷ややかに該当生徒を見ている私。そんな私に今までの堰を切ったかのように
暴言が溢れ出してきた。
「大体、娘が喘息だからって学校に説明に来るか?馬鹿なのはお前たちの方だろ!
お前が丈夫に子供を産まなかったのがいけないんだろうがよ!何で俺達が理解しなくちゃいけないんだよ!弱い人間は淘汰されて当たり前なんだよ!」
該当生徒は、髪を掻き上げてイライラしながら立ち上がった。
「お前の娘が休むせいで授業が進まなくて退屈だったんだよ!だから退屈しのぎにコロナだって揶揄ってやったんだよ!学校休んで迷惑かけてんだから、それくらい役に立てよ!上位種族の俺様にイジられることを光栄に思え!このクソム・・」
そこまで言ったところで父親の平手が飛んできて、勢いで華麗に吹き飛んでいった。母親はただ震えているだけだった。
私はその標的を母親に向けた。
「貴方もですよね。お母様」
私の言葉にビクッと肩を振るわせた。
「PTA役員として学校に貢献されている身分を良いことに、ウチの娘や私の事を根も歯もない噂話を流してくださいましたよね。娘はコロナにかかっていて、その親はそれを隠して会社に出勤していると。・・・気づかれないと思いました?」
私の言葉に父親が母親に向かって「お前!何でそんな事!俺の顔に泥を塗りやがって!」と怒鳴り飛ばした。
「ごめんなさい、だってそうしないとPTAで私が標的になってしまうんだもの。仕方がないでしょ!〇〇がいい成績取るためには学校と密にならないと・・・。親が足を引っ張るわけにはいかないのよ!」
さっきまでビクビク怯えていたのは演技だったのかしら?そう思ってしまうほど
母親は開き直って、自分の夫に罵詈雑言を浴びせている。
「大体、ひとり親なんてね。片親の時点で劣っているんだから。そう言うところで役に立ってこそなのよ。自分の娘がイジメにあったからって大騒ぎしないでよ。」
そう言い放ったところで、父親が「いい加減にしろ!」と怒鳴り飛ばした。

大きくため息をついた父親は私に向き直って頭を下げた。
「大変申し訳ございませんでした。今回息子だけでなく妻までも多大なご迷惑をお掛けしました。全ての責任は妻に任せっきりにしていた私にあります。」
「謝っていただいても許せないですし、娘の回復には繋がりません。今回の件は娘に対しての名誉毀損ということで弁護士を通してしっかり賠償責任をとって頂きます。よろしいですか?」
父親は私の言葉にしっかりと頭を下げた。母親と該当生徒は私の事をただ睨みつけているだけだった。
「では、今回はこの辺りで失礼します」
そういって、私が部屋を出ようとした時
「ひとり親のくせに・・・。負け組は負け組らしくしていたら良いのよ」
と小声で言ったのを、私は聞き逃さなかった。
そんな言葉にムキになって、相手していたら負けだと思い部屋を出た。
今回、直接話をしたのには別の目的があったから。

最終的な目的は、相手に何が問題なのか分からせること

その後、クラスで録音した音声を全員で聞き、学級会議を行ったそうだ。
該当生徒は、その時点でクラスメイトから仲間外れにされたそうだが
話はそこで終わらなかった。

該当生徒と同じ部活だった子が、違うクラスの子に今回の騒動を話し
その話が保護者に伝わり、クラスだけで収まらず
学校全体の騒ぎになっていた。
こうなる事は予想していて、あの日。直接話をしたのだ。
学校側は、同じ事を繰り返してはいけないと、絶対クラス全体で話し合うし
それはクラスを超えて、学校全体に話が飛ぶ事も理解していた。

保護者会が開かれたので一応私も参加したが、一部の保護者が
「今回のことは、差別に当たります!」
「同じクラスに通っていたら、うちの子供も標的になるんですよね?」
「学校を再開したのは、そもそも間違いだったのではないですか?」
「該当の男子生徒は、謝罪したんですか?」
「貴方の子供が同じ事をされたらどう思うんですか?」
私は、2階部分から保護者会の様子を眺めていた。
大勢の人に攻め立てられて、今にも泣き出しそうな母親と
傍で両手を強く握って、俯いたまま座っている父親。
しばらく、学校全体で叩かれることになるだろう。
それに耐えられるのかは、今後の働き次第だろう。
そう思い、保護者会会場を後にした。

その後は卒業まで、あの学校に行かなかったので知らなかったのだけど
あの後、親子は転校し引っ越しをしていったそうだ。
子供は子供で、学校生活がしにくくなり
母親はPTA役員を解任。父親は自営業だったらしいのだが
今回の事で売り上げが下がってしまい、店を畳むことになってしまったそうだ。

この騒動のおかげで、娘はすっかり不登校児になってしまったわけなのだけど
学習はしないといけない。義務教育は学校に通っていなくても卒業はできるが
高校に進学するとなると、話は別だ。

学校に籍を置きつつ、どこか別の場所で学習をしないといけない。
そこで、ウチが取った方法は。

次回お話しします。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?