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「人材ファースト企業戦略」の3ステップ

「ヒト・モノ・カネ・情報」とひとくくりにされる経営資源のうち、「モノ・カネ・情報」の多くはすでにコモディティと化した。市場が短期間に大きく変化し、先行きが見通せなくなるなかで、戦略の有効期限は短くなった。(中略)そうした環境下で、すぐれた才能をもつ「人材(Talent)」を新たな価値の創造と差別化の源泉とすべきなのは自明である。それにもかかわらず、多くの経営者が実際には人材を最優先にできていないでいるのはなぜなのか。

という序文からはじまる 「TALENT WINS」。コーン・フェリー、マッキンゼーのエグゼクティブたちによって書かれた本で、「人材ファースト」をいかに実現していくか試行錯誤中の企業には参考になりそうな良書だった。

個人的にも取り組んでいる方向性と近い内容だったので引用ベースでまとめてみた。


人材ファーストの企業戦略へ変革するためのステップ

本書に書かれているステップは大きく3つだ。

1. CEO、CFO、CHROからなる“G3(Group of 3)”を形成し、財務と人材両方の視点から意思決定を行う

2. 「クリティカル2%人材」を特定して最重要なポジションへ配置する

3. 最新のHRテクノロジーを用いてデータに基づいた人事施策を実行する


1. CEO、CFO、CHROからなるG3(Group of 3)を形成し、財務と人材両方の視点から意思決定を行う

人的資本を金融資本と同様に賢くマネジメントする。

まず“G3”を築きあげなければならない。“G3”とはCEO、CFO、そして献身的に仕事に取り組み、有能で、CFOと同等の権限を与えられるCHROの三人で構成されるグループである。G3とは核となるエグゼクティブグループであり、変革をリードし、人材が最適に配置され、かつ資金配分との同期を確実にする強力なツールである。
最高のCEOたちはつねに金融資本の配分を評価し、その配分を見直しているーーある部門から資金を引きあげ、別の部門により多くの資金を配分しているのだ。証券アナリストはこの動きを注視しており、グーグルの持ち株会社アルファベットのように資金を積極的に移動させている企業を高く評価している。しかしグーグルはもう一つの重要な資源の配分に関してもやはり大胆な手法をとっている。その資源とは、人材である。
大半の企業がやっているように各事業部の業績と戦略的な打ち手を見直したあとにようやく個人や組織の問題に取り組むようではいけない。人材はあらゆるビジネスの課題と密接に結びついており、人材の問題を戦略的議題と切り離して考えてはならない。
G3は最重要な意思決定、業務のオペレーション、将来の計画において人事と財務を適切に連動されなければならない。トップ3で過去の事例を吟味し、事業の成功や失敗の根本的な原因把握しなければならない。


2. 「クリティカル2%人材」を特定して最重要なポジションへ配置する

重点顧客に対するようにオーダーメイドで最高の成長環境を用意する。

G3が会社のブレーンとして活躍するとしても、「クリティカル2%」ーー平均的な人の何倍もの価値を生みだす社員ーーの力がなければ、結果をだすことはできない。あなたの会社の将来はこのグループによって決まるのだ(この「2%」という数字は単なるガイドラインに過ぎない。たとえば大企業の場合、そうした人材は200人にも満たないかもしれない)。だとすればG3の第一の任務は、正しい役割に配置されれば会社の成長を加速させるそれらの人材を特定することである。
2012年、アイオワ大学のアーネスト・オボイルとインディアナ大学のハーマン・アグイニスは、学者からプロスポーツ選手まで、さまざまな分野における人間のパフォーマンスを分析した。彼らが発見したのは「生産量の10%は上位1%の社員によって生みだされる。そして、26%が上位5%によるものである」ことがわかった。これはつまり「上位1%の社員の生産性は平均の10倍、上位5%の社員は平均の4倍以上である」ことを意味する。
もっとも有能な社員のニーズに合わせて研修、報酬、キャリアパスをカスタマイズする。人材主導型企業では万人向けのやり方は使えない。CEOは、もっとも大切な顧客の個々の要望に合わせて細かいサービスを提供するように、個々の人材の要望に応じた人材開発を行わなければならない。
柳井会長兼社長は小山紀昭・上席執行役員人事担当とファーストリテイリングの「クリティカル2%人材」を苦労して選び抜き、不確かな未来への大転換に挑ませているのである。柳井会長兼社長が選んだその集団は、世界各国のあらゆる階層から選ばれた38人の若手社員だ。(中略)柳井会長兼社長は就業時間の30%ーーときには50%ーーを、そうしたグループとの議論や交流に費やしている。「それが私の仕事です。すべてをゼロから作りあげるつもりです」と彼は言う。


3. 最新のHRテクノロジーを用いてデータに基づいた人事施策を実行する

人材に関する意思決定のほぼすべてをデータアナリティクスをもとに行える体制を築く。

人材が戦略をリードすると考えるG3は、これまでになく社員を理解することが可能になる最先端の、人材志向の、データに基づくHRテクノロジーを備えるべきである。
すでに多くのCHROがこの時代のトレンドを捉え、次世代のアナリティクスの専門家を採用している。実際、こうしたアナリティクスのポテンシャルはきわめて大きく、データ・サイエンス・センター、いわば社内のデジタルのセンター・オブ・エクセレンス(中核的分析拠点)を設け、CFOとCHROが共同で管掌するにようになる可能性がある。その投資の効果は人材の発掘、評価、モニタリング、育成など、さまざまなかたちになるだろう。すでにそうしたデジタルのセンター・オブ・エクセレンスを設けた企業もあり、そこにはデータサイエンス、統計学、AI/機械学習などのスキルに秀でた社員が、事業部のマネジャーが直面している人材に関する問題を解決すべく、データの収集・分析にあたっている。
WorkdayやPeopleFluentといった人事アプリケーションを導入し、人事と財務チームが同じデータを使うようにした。「財務の給与グループと人事の給与グループは、それぞれ独自の計算処理を行っていました。いま、この二つのグループは協働して同じデータを使用し、それを両方のチームで精査しています」と、カラハンは言う。一貫性と可視化によって、二人にはさまざまな人事に関する疑問への答えが見えてきた。
人事部門が会社でさらに成果をあげ、尊敬される価値の創造者になるには、人材の採用、維持、配置、育成に関してなにがうまくいき、なにがそうでないかについての情報をタイムリーに、かつ的確に提供しなければならない。また、誰がなにをしており、社外の候補者がどれほど優秀か、どの社員が成果をあげているのかについての詳細を示さなければならない。それよりさらに重要なのは、人事リーダーがデータを深く理解し、本質を見抜いた分析に基づいて人材に関する意思決定を行うことである。
人事部を二つの独立した機能だと考えるとよい。一つの機能は戦略にフォーカスし、社内の部門を横断してさまざまな部門と緊密に協働し、人材を活用して会社にとっての価値を生みだす。もう一つの機能は、管理や手続き業務に注力する。(中略)戦略的人事の機能が注力するのは、人材戦略、組織診断、人材育成と能力開発、採用、業績評価、報酬戦略、コーチングとリーダーの育成である。


最後に

「人材ファースト」、「人材に投資する」と話す企業はたくさんあるが、本当の意味で人材を競争優位の源泉としていくためにはここに書かれている3ステップを欠けることなく実行する必要があると感じた。

自社での取り組みも3ステップをフォローしていて、まわりの人に「ぜひ読んでみて!」とたくさん薦めたけど、Amazonでは在庫がすくなくなってるみたい…本屋さんも置いてないとこが多い…

日本経済新聞出版社さん、ぜひ増刷を!


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!