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『世界観のデザイン』という本を8/23日に出版します

表題の通り、『世界観のデザイン』という本をクロスメディア・パブリッシングさんより8/23日に出版します。「デザイン」と付けていますが、読み進めるのにデザインの事前知識は必要なく、本書では誰もが生まれながらにデザイナーで「ある」という信念のもと、ビジネスパーソンや学生など、幅広い方を対象とした実践書となることを意識して書きました。
紙のほか、電子版も出ると聞いております。

毎日終電まで頑張って、人工知能やら何やら、最新技術も活用して世の中の問題解決をしているはずなのに、気候変動や人口動態変化といった超巨大な社会課題を前に、全く『未来』が明るくなっていく気がしない。
そんなモヤモヤ感を打破するため日本からアメリカに渡り、自分たちの力で未来を少しでも『何とかする』ために試行錯誤してきた実践をまとめた本です。

もう国や国際機関が『上』から明るい未来像を提示してくれなくなってしまったのであれば、私たちが自分でつくる覚悟を決めるしかないのではないでしょうか。

現実的・論理的に考えるほど明るい未来が想像できなくなるのであれば、敢えて建設的に非現実的になってみてはどうでしょうか。

今目の前にある問題をどうスマートに解くか、に追われるのではなく、そもそもどんな社会を生きたいか、数十年先の世界はどうなる(べき)かについて想像し、そこから現実を根本的に変えるヒントを得ることはできないでしょうか。

創造の前に、想像あり。

それが、この本の根幹となる主張です。そのために、この本では非現実的に思えるものごとや全く新しい世界を想像することに長けている人たち ― 作家、映画製作者、アーティストといった類の人たちのアプローチを参考にします。
今目の前にある現実の快適化ではなく、未来の世界を思索するために、「何だこれは?」と思ってしまうような、今とは全く異なる未来洞察や社会夢想を行う国内外のたくさんの実践者の方々が力を貸してくれ、本書に画像を掲載することを快諾してくれました。

Plants In The Late Holocene by Chia-Yu Ho ©︎ National Taiwan University of Science
Speculative Design Award Student Notable, Core77 Design Awards 2023
私はイルカを産みたい…(長谷川愛, 2011-2013)
Eyes as Big as Plates # Pupi
Riita lkonen and Karoline Hjorth, Eyes as Big as Platesより
Magazine from the Future Workshop
© KYOTO Design Lab, Kyoto Institute of Technology (KIT)

敢えて非現実的なものごとを持ち込み、小学生の頃は得意だったのに、大人になるとなぜか忘れてしまう夢や妄想の力をビジネスの現場に積極的に駆使しようとするこの本はおそらく、これまでの『優秀さ』の評価制度や教育に『叛逆する』、あるいは新たな軸を提案することになるでしょう。

..といったことを書いていたら、『デザイン』と付けながらも、最後はデザインではない『何か』になってしまったので、『未来を何とかしたい』と思いながらも、自分に何ができるのかと逡巡している方に幅広く届くことを願っています。

本の目次は以下のような構成です。
おそらくまだ、現在出ているビジネス書やデザイン思考の本ではあまり議論されていないような話題や、見たことのない図・フレームワークを多く収録しています。ある意味ではこれがどのように受け取られるのか、ハートの小さい筆者としてはビビりながらも楽しみにしています。

はじめに:私たちの「未来」は明るいですか?
序章 私が「世界観」に辿り着くまで
第1章 なぜ「世界観」なのか
第2章 「世界観」とはなにか
第3章  世界観のデザインに至る「系譜」
第4章 想像力の「筋トレ」
第5章 「世界観のデザイン」の実践
第6章 明日から実践するためにできること
終章 誰もがデザイナーで「ある」時代に
おわりに:デザイン、もしくはデザインでない「何か」

コラム1: アメリカのデザイン・フューチャリストとしての筆者の実践
コラム2: クリティカルなデザイン教育の必要性
コラム3: その他の「想像力の筋トレ」ツール
コラム4: ソーシャル・ドリーミング・マトリクスによる想像力の筋トレ
コラム5: 「逆張り」による想像力の筋トレ
コラム6: 世界観のデザイン・コミュニティをつくりたい

付録 世界観のデザイン 実践ワークシート
1. マインドフルネス・マップ(現在)
2. クエスチョン・ステートメント
3. STEEPマップ
4. ソーシャル・ドリーミングマトリクス
5. ワールド・ビルディングキャンバス
6. 未来からのプロトタイプ
7. マインドフルネス・マップ(未来)
8. トランジション・フローマップ
9. インパクト・ブレークダウン・ストラクチャー
10. インパクト内省ボード

以下に「はじめに」の内容を公開します。来週、8/23日に発売となりますので、書店で見かけた際は手に取って頂けたら大変幸いです。

はじめに

私たちの未来は明るいですか?

 そう聞かれて、私はネガティブシンカーなこともあり、『はい!』と即答できる自信がありません。気候変動や資源枯渇、人口動態変化など、私たちが直面している社会や経済、環境などの巨大な課題を挙げればキリがなく、わくわくする未来の夢なんて、全くとといっていいほど思い浮かびません。
 ですが、その未来を生きることになるのも自分なので、『何かできることはしたい』とは思っています。そう思ってはいるのですが、自分の目の前の仕事がそうした大きな社会課題の解決に結びついている気もしません。人工知能やらメタバースやら、最新技術を活用して便利なサービスやビジネスを作ったりしているはずなのに、それで一向に社会や未来が明るくなる気がしない、そんなモヤモヤ感を長らく感じていました。

 そこで私は新しい視座や刺激を得るため一念発起し、日本で社会人経験を経た後、30代でデザインを学び直すためアメリカに渡りました。そこで会得したのが、ますます暗く不確実な未来を照らす『世界観』の必要性です。
 より速く、より高品質に、より安く……今『良し』とされる世界観の延長的な思考では、巨大な社会課題が根本的に解消した明るい未来を描くことが難しくなってきています。それならば、これまでとはまるっきり異なる生き方や働き方、人間観や世界観を再発明しなければならないでしょう。
 そのためには、今どう儲けるか、どんな機能を作るかではなく、どう世界は変わりうるか、どんな社会を生きたいかを、全ての議論の開始地点にするべきです。遠回りに見えますが、最初に長期的な未来を『想像』し、そこから振り返ることで、今真に自分たちが社会のために『創造』すべきものが見えてくる、という考え方です。

 その最中、偶然か運命か、ちょうどニューヨークのデザインスクール在学中にCOVID-19パンデミックが勃発し、強制的にこれまでの当たり前が切り替わっていく中で、先進的ないくつかのアメリカの企業はパンデミック後の希望ある『世界観』を探索できる人材を求め始めました。その中で、アメリカ最大のメガバンクであるJPモルガン・チェース銀行からオファーを受け、デザインスクール修了後、引き続きニューヨークで同行初のデザイン・フューチャリストとして『世界観のデザイン』をビジネスの現場で実践しています。

 本書は私が習得し、日米双方のビジネスの現場で実践(試行錯誤)する中で整理した、長期的な未来の『世界観』と、それに向かうための現実のアクションをデザインする技法について書いたものです。デザイン主導の未来洞察や未来思考、そういったカテゴリに属する書籍と言えるでしょう。
 『デザイン』と付けていますが、本書は誰もが生まれながらにデザイナーで『ある』という信念のもと、私自身も元々非デザイナーであったことから、一般のビジネスパーソンが現場で実践可能な内容となることを意識しています。本書を読み進めるためにデザインの事前知識や経験は必要ないため、安心してください。
 本書におけるデザインとは、特定のスキルやソフトを使って美しい意匠や外観を設計するということではなく、想像力や観察力を駆使し、抽象的な概念や自分の頭の中の世界観を、他者にも共有できるかたちで可視化するためにデザインの力を使います。

 主な読み手としては、事業や組織のビジョンや戦略策定の実践者、組織変革やクリエイティブ文化醸成の担当者、新規事業やスタートアップのアントレプレナーといった、未来をつくることに携わっているビジネスパーソンを想定していますが、もちろんそれに限るものでもありません。
 本書はこれまでの教育やビジネスで重要視されてきた、『一つの解』を論理的に導く能力ではなく、『複数の可能性』を想像力を駆使して探索する能力にスポットライトを当てています。そのため、夢見ることや情熱を忘れかけている若手、SF好きな学生や教職員、新しい領域にはみ出したいデザイナーなど、右脳と左脳両方を駆使する・したい方に幅広く届くことを願っています。また、そうした方たちがそれぞれの所属する組織や立場で活用できるよう、現実を学際的・多面的に捉える洞察力、敢えて常識を逸脱し、飛躍した未来を思い描く夢想力、想像や妄想をかたちを通じて伝える実装力、夢を夢で終わらせず、現実と繋げる着地力。そうした態度を伝える、21世紀に入ってから生まれた種々のデザイン理論のほか、現場の組織や事業の中で活用するためのプロセスと実践ツールを紹介します。
 何より『デザイン』の本ですので、目を引いたページから読むもよし、紹介している具体事例のURLから画像や動画を辿るもよし、柔軟に、クリエイティブに、楽しみながら読んで頂ければと思います。

 私がそうだったように、『未来を何とかしたい』と思いながらも、何ができるのかと途方に暮れている方に、自分にも何かができるかもしれない、という火を灯すことができれば、筆者としてはこの上ない喜びです。

JPモルガン・チェース銀行 デザイン・フューチャリスト
東北大学 特任准教授
岩渕正樹

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