左巻きの貝とやどかり

町をあとにしたミミオとビビコは、砂浜をどんどん進みました。

なんていい天気!

海は、空から落ちてくる日差しをいっぱいに吸いこみ、白銀にかがやいています。波が、歩くミミオの足についた砂をあらい流し、かわりに小さな左巻きの貝を残していきました。

「海からのプレゼントだ」

貝を片手でつまみあげながらミミオは言いました。
それを見たビビコは、ミミオのことがうらやましくなりました。
残念なことに、その後、波が何かをはこんでくることはありませんでしたので、正午には、ビビコはすこし機嫌が悪くなってしまいました。

ずいぶんと歩き、おなかはぺこぺこに減っていました。
ふたりはアカマツの木陰で、サンドイッチを食べることにしました。
ビビコが朝からずっとかぶっていたベージュの帽子をはずすと、中からごそごそと、裸のヤドカリが這い出でてきました。

「わたしの帽子を新しい住処にしようとしてたんだ!
でもちょっと大きすぎるんじゃないかな」

ヤドカリは依然として、ビビコのキャスケットを物欲しげにながめています。

「だいぶ気に入っているみたい。その帽子、あげたら?」

ミミオの言葉に、ビビコは憤慨しました。

「わたしは何ももらってないのに、どうしてこの帽子をあげなきゃいけないの」

ヤドカリはすっかりしょげかえって、

「今のぼくには、ひとに与えられるものなんて、なにもないんです」

と、ぽつりぽつり歯切れが悪いのでした。
見かねたミミオがヤドカリに言います。

「だったら、探してくるといいよ。ぼくらはここで昼ごはんを食べてるから、少しのあいだ待っていてあげる。そのあいだに帽子と交換するものをもって来るんだ」

怒っていたビビコも、ミミオの提案にうなずきながら、

「この帽子はけっこう気に入っているけど、モノによっては考えてもいいよ」

と、言いました。

「わかりました、少し待っていてください。心当たりがあるんです。あれなら、きっと気に入っていただけます」

立ち去ろうとするヤドカリに、ミミオはさきほど拾った左巻きの貝を、かしてやりました。
春先に裸はまだけっこう寒そうだったからです。
ヤドカリは丁寧に礼をのべ、左巻きの貝に体を滑らせたのち、海に入っていきました。 


何をもってくるのか、サンドイッチを食べながら、ふたりはわくわくして待ちました。
でも、サンドイッチが一枚減って、二枚減って、バスケットが空っぽになっても、ヤドカリは帰ってきませんでした。
しかたがないので、ふたりは出発することにしました。

ヤドカリはどうしたのでしょう。
予想外に手間どって、間に合わなかったのかも知れません。
もしかしたら、途中であきらめてしまったのかも知れません。

ビビコはときどきこのときのことを思い出します。

ヤドカリの言っていた「あれ」ってなんだったんだろう……

わたしがきっと気に入るはずのものって、なんだったんだろう……

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