悪魔が夜にやってきた

(夜のはじまり。 だれかが扉をたたく)

とんとんとんとん

とんとんとんとん

「どなたですか」

「こんばんは」 

「悪魔ですね」

「お、良く分かったね」

「格好でわかりました」

「ハナシがはやいぞ。あがるぞ」

「ぼくに何の用ですか」

「分かりきったことさ」

「……」

「話したまえよ。君がいつも思っていることをさ」

「……」

「殺してしまいたい奴がいるだろ? 君には」

「います」

(悪魔は台所の椅子に座った。小一時間ほど、ふたりで話した)

「というわけなんです」

「ふうん、なかなか大変だね」

「紅茶、おかわり要りますか」

「ありがとう、なかなかうまいね」

「知り合いが趣味でオーストリアの紅茶の輸入販売をやってるんです」

「ふうん。おもしろそうなことをしているんだね」

「いまお湯わかしますよ」

「ところで」

「はい」

「そろそろ笛を吹いていいかな?」

「なんでですか?」

「いや、なんでとかはないよ」

「はあ」

「吹いていいかな?」

「いいですよ」

(悪魔は笛を取り出し、「そよ風のカノン」を吹いた。上手でもないし、下手でもなかった。笛をひとしきり吹いたあと、彼は言った)

「君はゲームは好きか?」

「はい」

「ゲームは、本当の現実を忘れるためのものなのか、あるいは本当の現実を見つけるためのものなのか、どっちだと思う?」

「わかりませんね」

「俺にもわからない」

「はあ」

「しかし分かっても分からなくても、どっちでもいいんだ」

「どっちでもいいんですか」

「君の番だ」

(ぼくと悪魔は、夜遅くまで「蛇と梯子」というボードゲームをした)

「あ、」

「どうしました」

「もうこんな時間か」

「帰りますか」

「少し長居しすぎたみたいだね」

「じゃあ、また」

「ははは」

「なんですか?」

「いや、悪魔にたいして『じゃあ、また。』ってのもないだろうと思うけどね」

「ではなんというのですか?」

「いや、いいよ」

「じゃあ、『じゃあ、また』」

「ああ、じゃあ、また」

(悪魔は帰っていった。その日以来、なんだか以前より楽しいことが増えた気がする。これは悪魔が来たせいだろうか。いや、悪魔が来ても来なくても、はじめから、そうだったんじゃないかな)

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