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【 般若心経の解釈多すぎ問題について ② 】 自我も創造神も否定する「空」と「因縁」

①では般若心経の成立の歴史をざっくりとまとめてみた。②では歴史的に見て、般若心経つまり「空」思想の何がセンセーショナルな内容だったのかについて考察してみる。

◽️②自我も創造神も否定する「空」と「因縁」

般若心経は釈迦の十大弟子の一人、智恵第一とされるシャーリプトラ(舎利子)が観自在菩薩から説法を受けるという形式になっている。
シャーリプトラは釈尊の十大弟子のひとりで、8歳の時に国中の哲学者を皆言い負かしてしまったという程の賢者で、立場としては形而上学的問題について確定的な解答を避ける懐疑論者・不可知論者であった。

このような説話形式は仏典によくある対告衆と言われるもので、御仏という普遍的人格が釈尊に代わって代表者の一人に話しかけるという流れで教えを展開していく。
代表者は即ち御仏(法)でもあり、これを理解しようとする我々衆生でもあり、この三者は相即的一体であるとするところに仏教の深妙さがあると思う。

このシャーリプトラが初めて釈尊の教えを聞いた日の逸話が残っている。
ある日、シャーリプトラは釈尊の直弟子のアッサジ(阿説旨)に道端で出会う。ひと目見た時、その静かに法悦を湛えた姿に感激し、すぐに教えを乞うた。アッサジは「法は縁に従って生じ、また縁に従って滅す、一切諸法は空にして主有ること無し」という釈尊の教えを伝えた。

智慧第一と呼ばれる賢者シャーリプトラは驚き感激した。今までこのような教えは聞いたことがなかった。この世は神が創造し、神が支配し、死ねば神の裁きを受けるとあらゆる宗教は教えている。なのに釈尊はその全てを完全に否定する。
創造神も、運命も、偶然も存在せず、あるのははっきりとした因縁因果の法則だけである。
しかもこの世界は一切因縁によって動くのであるから、そこに自我というものも存在しない。因縁によって仮に我という姿が現れているだけである。

自我があるから執着が生まれる。自分をよくしたい、人に負けまいとする競争心、妬みの心が生まれる。罪を作ればその罪に執着し、裁かれる自己に執着し、神の前に出ても裁かれる自我を持っている。そこに人間の救われない悩みがある。しかし、自分というものはないと徹底するならば、アッサジのような穏やかな、平和な、和やかな気持ちになれる。
こう悟ってシャーリプトラはただちに250人の自分の弟子と友人のモッガラーナ(目連)とその弟子250人も連れて釈尊の弟子となったという。

この世界を構成するものは原子だ。
我々の身体も原子で構成され日々交換が行われている。今この自分だと思う瞬間にも原子配置は交換され続けている。そしてその原子の中にも我々の認識とは異なる物理法則によって働く量子の世界があるという。量子は波長性、粒子性、相補性、不確定性をもち、観測状態によって確率論的に偏在するらしい。量子力学の詳しいことは分からないが、これだけ聞いても今の自分が確実に絶対的に存在しているという意識、執着がいかに脆い足場の上に成り立っているのかということが科学的な視点からも分かる。
大ヒットSF小説の「三体」じゃないが、我々の住む宇宙の総エネルギーは開闢以来常に一定で、量子ひとつ分のエネルギーが増えても減ってもいけない。

まさに

是諸法空相 不生不滅 不垢不浄 不増不減

そのものだと思う。

◽️余談: 仏像は偶像なのか表象なのか。

先に述べたように教典の多くは対告衆と呼ばれる説話形式を取ることが多く、法を説く御仏、それを聴く代表者、それを読み理解しようとする我々は相即的一体であるという。

ここで仏像を考えてみる。
密教的には全ての御仏は大日如来が変化して顕現した姿であり、大日如来はこの宇宙の法そのものであり、普遍的な智慧である法界体性智を象徴するものであるとされる。
このあまりに完全で、とりつく島のない大日如来をわかりやすく属性別に分けたものが諸々の御仏なんじゃないかと思う。

御仏を拝む時に感じること。
目の前にある御仏は私と隔たりのある一人格ではないという感覚。
それは意識を集中した特定の事象に対して、一瞬一瞬変化し続ける時間的、空間的広がりを持った表象であり、遷移し続けるエネルギー、つまり観想し流れ続けている私、というものの象徴のようなものなんじゃないかと。
例えば不動明王様ならポイント・ゼロのイメージ。
XY軸の原点。
誘惑と煩悩にまつわれて毎度毎度ふらふらウロウロ、しょーもないことばかりしている自分を燃え盛る火炎と腕力で無理やり原点に引き戻すイメージ。

汎神論における神々や、実在の人物を神格化したイエスキリストや聖母マリアのような、独立した存在神として仏像を見てしまうのは何か違うような気がしている。

●写真: 秋季金剛界結縁灌頂の時の高野山壇上伽藍にてゴザを片付ける若いお坊さん

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