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わけのわからなさこそ2ちゃん都市伝説! --- 映画「きさらぎ駅」レビュー ネタバレなし

おかえりモネで私のお気に入りリストの上位に飛び込んできた恒松祐里さんの初主演作ということで、きさらぎ駅を見てまいりました。

以下、ざっとしたあらすじです。

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神隠しをテーマに卒論を書いている女子大生の堤春菜は、ある日実際に神隠しにあい生還した女、葉山純子を取材する。
純子は電車を寝過すことをきっかけに迷い込んだ異世界「きさらぎ駅」での悪夢のような体験を語り始めるが、取材をするうちに春菜は「きさらぎ駅」にたどり着く手段を思いついた。春菜はその手段の真偽を確かめるため、自らその手順を実行して「きさらぎ駅」へと踏み込んでいくのだが…。
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冒頭、この話の元ネタが2ちゃんねるの投稿であることがクレジットされるのでいわゆる都市伝説的なストーリーだということは容易に想像できました。

ご存知の方には釈迦に説法かもしれませんが、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)には昨今のいわゆる「SNS」とはまったく違う世界があります。SNSとの最も大きな違いは発言の「匿名性」でしょう。つまり2ちゃんねるの中は「誰が発信したのかわからない言葉」で溢れているのです。

もちろん他のSNSでも本名を出さずに使用していれば匿名と言えるのかもしれませんが、実名を出していないとしても、そのアカウントから過去にどのような発言をしているか容易にたどることができ、アカウント主の人と成りがなんとなく見えてしまいます。そのためSNSからはあまり面白い都市伝説は生まれてこない気がします。

一方、2ちゃんねるの場合は発言者を特定する「アカウント」という概念がそもそも存在しないため、発言そのものが非常に不確かなものになっています。どこまでが嘘でどこからが本当なのかがわからない、絶対作り話なんだけど少しは事実が紛れているような気もする…そんな「不確かさ」が2ちゃんねるに都市伝説が生まれやすい理由であり、2ちゃんねるの大きな魅力でもあります。

その2ちゃんねるの都市伝説の総本山がオカルト板とVIP板で、私も一時期ハマり、同じ異世界物の「時空のおっさん」のスレッドや妙にリアリティーのある予言のスレッド「予言書いていくよ」「ばあちゃんの予言」などは大いに楽しませてもらいました。懐かしい。

2ちゃんねるから発信される都市伝説には特徴があって、それは書き込まれた出来事や予言などにはなんの脈絡もなく、なんの理屈もない、そしてなんの裏付けもないということです。しかしその理屈のない「だってそういうものだから」的な開き直りこそが、2ちゃん都市伝説の妙なリアリティーの源になってます。

この映画でも意味不明な出来事がたくさん起こります。そのひとつひとつを「あれはなんだったの?どうしてそうなったの?」と考え込んでしまう人は「つまりなにが言いたいわけ?」という感想しか浮かばないかもしれません。しかし、そのわけのわからなさこそが2ちゃん都市伝説の醍醐味なのです。この映画は、その2ちゃん都市伝説の魅力がなかなか良く表現できていると思いました。

特に脚本はとても良く練られていて、シンプルでわかりやすくまとめられたストーリーに加えて、最後にはあっと驚くような展開もあって楽しい作品に仕上がっていました。ネタバレはしませんが、恒松祐里さんもとてもいい表情を見せてくれて、彼女の個性がぴったり役にハマっているなと思いました。特に眼力が素晴らしいです。話題作の多い今期の映画館にあってあまり目立たない作品ではありますが、見れば十分にハラハラドキドキを楽しむことができる良作です。

最期に、この作品はイオンエンターテインメントの配給なんですが、先日のRibbonといい、なかなかいい作品を配給してると思います。ただなぜかその自前の作品をイオンシネマが積極的にプッシュしないのが謎で、なにやってんのイオンシネマ!という気になっています。

しっかりしてください、イオンシネマ。


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