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富野の世界の片隅に --- 映画 「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」レビュー ネタバレ多少あり 2022/7/3追記

近所のイオンシネマでは上映していないので、久々にT-JOY横浜のドルビーシネマで鑑賞。2400円は高いけど、安彦良和氏へのお布施として自分を納得させはしたものの、行ってみればこの劇場のM列は最高で存分に堪能できました。

私はリアルタイムでガンダム世代、しかも当時あのバカ高い記録全集を全巻買い揃えたほどのガンダムファンではありますが、最初のガンダム以降は全く興味が無くZも逆シャアも見ていません。興味を失った大きな原因は作画監督が安彦良和ではなかったことでした。ライディーン、コンバトラー∨、ザンボット3で育ってきた僕は、あの当時湖川友謙氏の良さがまだわかりませんでした。

なので、ガンダム本編以外でまともに見ているのはORIGINシリーズしかありません。そんなガチ1st派の感想だと思って下さい。

まず、本作品の出来ですが、安彦ガンダムの中では「青い瞳のキャスバル」に次いで良い出来だと思います。正直想像していたよりよほど良かったです。

まあ、赤い彗星の誕生譚という性質上、これからというところで終わらざるを得なかったガンダムオリジンですが、待望されたホワイトベース側の物語を極めて独立性の高い「ドアン」でやるという企画そのものが素晴らしいアイデアで、製作が発表された時は「この手があったか!」と思わず膝を叩きました。

さてこの作品、賛否別れてますねえ。多分ガンダムの新作と期待していた方々は物足りなさを感じるのかもしれません。その気持ちはわからなくもありません。島の生活の描写を筆頭に、安彦氏の思想が垣間見えるような脚本もちょっと気持ち悪さを感じたりもしますが、それでも僕は良い出来だと思いました。個人的にはブライト・ノアの描き方がとても暖かみがあって良かったと思います。

さて、舞台にはカーテンコールというものがあります。例えば森繁久彌の「屋根の上のバイオリン弾き」を見に行くと、物語が終わったあと、万雷の拍手の中全キャストが舞台に上がり、森繁が観客に挨拶をして、全員で劇中歌の「日は沈みまた昇る」を歌ったりします。そして観客はあらためて拍手を送りキャストはそれを受け止め感謝の気持ちを客席に返します。

私の感覚ではこの映画は安彦良和氏による1stガンダムのカーテンコールなのです。オリジンでは描けなかったガンダムのキャラクターたちを舞台に上げ、最後の顔見せをさせる。オリジンにも本作にも出て来ないララァの存在もお嬢さんがセイラ役で登場することで、カーテンコールの代役をきちんと果たしています。そしてカーテンコールだからこそ、劇伴は渡辺岳夫のメロディでなければならないということも、安彦監督はよくわかっています(ちなみに私は山場のBGMが渡辺岳夫じゃない時点で哀・戦士以降の映画3部作もあまり好きではありません)。

カーテンコールだから主要キャラクターは誰も死なない。全員が活き活きと楽しそうに動き回って爽やかに終わる。私たちはそれをしっかりと目に焼き付ける。それでいいんです。

お世辞にも大傑作とは言えない。万人にお勧めすることもできない作品ですが、1stガンダム派の私はエンドロールで胸がいっぱいになりました。

安彦先生、お疲れ様でした。そしてありがとうございました。

2022/7/3追記
どうしても書いておかなければと思ったので追記します。
この映画の良いところは

ニュータイプの「ニュ」の字も出てこないところ

です。はい、ただこれが書きたかっただけでした。


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