マガジンのカバー画像

文章

61
感じたこと、考えたことなど。
運営しているクリエイター

記事一覧

おとなになれば

 紫陽花が咲いていた。そうか、もう5月が終わる。  4月から大学も始まり、去年とはまた違う忙しさの中で、バイトと大学、あとは自動車学校に通っている。自分ができることを増やすための準備期間は、時にしんどくなる。  神保町の乗り換えをしていたとき。疲れ切ったスーツ姿の大人の中で、ふと思う。「もしかして私は、今が一番楽しい時期なのかもしれない」なんて。    ・ ・ ・  上京して、今年で4年目だ。大学へ行く通学路にも慣れてしまった。最初は難しかった都会の乗り換えも、コツを

【3.11】見知らぬ「誰か」に

 これは、つい最近した私と祖母の会話である。祖母の家にはお庭があり、花を咲かせた山茶花と咲きかけた椿があった。  小学生のころの私より、今の私のほうがたくさんの花の名前を知っている。あのときだって、きっといろんな花を見ていた。それでも名前やその違いを知ってはいなかっただろう。    ・ ・ ・  中学3年の夏、カナダにホームステイをした。出かけた先の公園で、聞き馴染みのある曲が聞こえて足を止めた。東日本大震災の際つくられた、復興支援の曲「花は咲く」。海外で聞くことになる

だらけた日にしかわからないこと

 夢を見た。  14時まで眠りこけていた私の夢は、今では全く関わりもしない人たちで溢れていた。高校1年生のころに話したことのあるクラスメイト。小学校のころよく席が隣になった男の子。見知らぬコンサート会場、はたまたゴミ捨て場のような駐輪場。  人も場所も脈絡もない夢が終わり目が覚めたとき、どうしようもなく自堕落な部屋が目の前に横たわっていた。    ・ ・ ・  思えば、いつからか夢を見ることが減った。12月の今ごろは全く見ていなかったと思う。見てもすぐに忘れてしまう。忙

何者でもない人のバースデー

 今日は22歳の誕生日だった。誕生日だからといって、特別な日になるわけではない。眠たい中起きて、いつもより少し混雑した満員電車に乗り、仕事をして、少し贅沢に一風堂のラーメンを食べ、授業を受けて帰る。そんな1日だ。  私にとっての誕生日は365日の中で1日だけだけど、他の人にとってはなんてこともないただの火曜日の今日。こうしていつもどおりの日を送ると、私ってほんと、何者でもないなって思う。  なんでもない、平凡で、教科書に名前がのるわけでもないただのひとりの人。それを20代

フィルムカメラをはじめた

 17時を回る秋葉原は、金曜夜ということもあり人が多かった。大勢のうちの一人として、横断歩道を渡る。  どうしてそんな秋葉原に来たかというと、現像した写真を取りに来たからだ。初めてのフィルム現像。どんな写真ができているか、ワクワクしながら店に向かった。    · · ·  きっかけは、夏の帰省。少し様子が変わった家の中、私の部屋は荒らす人がおらずきちんと片付いていた。本棚の上に、ちょこんと置かれた黒いものがある。気になって手に取ると、それはカメラだった。  こんなカメ

ただの人と、作品との間に

 いつの日か、電車の改札へ降りる階段を下るとき見つけた広告。ぼんやりとしたイメージの絵画と、明朝体チックな文字。新国立美術館「テート美術館展 光」。  絶対行こう、そう夏休み前に決意したはずなのに、引き延ばして引き延ばして、最近開催時期を調べたら「もう終わるじゃん!」とギリギリな私の性格が出てしまった。  いつ行けるかなぁと考え、バイトがかなり早く終わる日が最終日だった。仕事と授業の合間にでも、と捻出した時間で乃木坂駅に向かったのだった。  チケットを買うにも混雑していた

完璧にはなれないまま進んでいく

 大学を出てイヤホンをつけていると、向こう側でドンという音が聞こえた。もしかして、と思いイヤホンを外すと、またドドンと音が響いた。花火だった。その日は隅田川の花火大会だったらしい。確かに、電車に乗るときに浴衣姿をよく見かけた。  バイト6連勤最終日で大学の授業が最終日だった。終わったー!と思いながら大学を出たから、なんだかその音がお祝いの音に聞こえた。  この春から大学に復学し、昼に働き夜に授業という生活を送っていた。仕事も大学も週5であったので、かなり体力的には大変だっ

受け継がれるもの

 夏の大根はあんまり美味しく調理できなかった。やっぱり旬がいいのか、と思いスーパーを回っていると、枝豆を見かけた。おお、枝豆か。居酒屋のおつまみでしか最近は食べていない。夏バテ気味で食欲が落ち、料理欲もあまりないが、枝豆をゆでるくらいなら休日の私でもやるだろうと思い、手に取ったのだった。  自分でゆでるのは、記憶の中ではじめてだった。袋を開けると、青臭さがあった。いつもの枝豆の匂いではなかった。先端を少し切るというちょっとしたひと手間を加え、塩を揉み混み、沸騰したお湯に入れ

終戦記念日によせて

 ゴオォ、と音がした。出勤前、歩いていると上空に飛行機が飛んでいた。思ったよりも近い場所を飛ぶ飛行機を見て、こうして空を自由に飛べるのは平和なんだろうと思った。お盆の真っ只中、電車はいつもより空いている気がする。いつもと変わらない日常。  今日は終戦記念日。なんだか文章が書きたくて、noteを開いた。    ・ ・ ・  帰省したとき、両親の結婚式や兄の生まれた頃のアルバムを見せてもらった。フィルム写真は保存の仕方がいいのか、ほとんど色褪せずに残っている。  ふと、一

本の世界の旅人、友だちと再会。

 久しぶりに時間ができたので、ふらりと本屋さんに寄った。地元にいるときは、1時間に2本しかないバスの待ち時間に本屋へよく寄った。買うためじゃなく、ただ置いてある本を眺め、たまに手に取るだけ。それだけで、なんか日頃のストレスがふっと軽くなる。  本が好きだ。目を引く装丁、文庫の裏のあらすじ、ペラペラとめくる感覚、文字の詰まり具合、新書の紙の匂い。  その本がたくさんある本屋さん、図書館も好きだ。分類分けされた棚。背表紙の文字だけをたどるのも、なんだか気になった本を手に取って

「それは、あなたが素敵な人だからだよ。」

 この前、久しぶりに家で泣き崩れた。悲しいからじゃない。嬉しさが堪えられなかったから。  二年弱ほど勤めたアルバイトを退職した。職場からも、後輩からも、先輩からもプレゼントをもらった。いろんな言葉を掛けてもらった。  そのあと、そのバイトで知り合った子とご飯に行った。おいしいご飯をおいしいねといいながら食べてくれるその友だちと出会えたのも、アルバイトがあったからだ。こんなに素敵な人と巡り合わせてくれて、アルバイトに感謝しないといけない。    ・ ・ ・  なんで

【2023WBC】球界の春一番

(サムネイルはベルーナドームです。いつか東京ドームにも行ってみたいなぁ!)  3月16日、20時頃。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)準々決勝、日本vsイタリア。急に思い出して、テレビをつけた。流し見程度に観戦していた。  岡本の単独スチールにびっくりして、源田がさらっとアウトを取る姿に安定感を感じて。大谷くんが華麗にバントを決めるのは惚れそうになった。スチールを巻き返すように岡本がホームランを打ったとき、思わず飛び上がった。あの外の球をスタンドに飛ばしてくれる

【3.11】 私のせいで動くことのない世の中を

 通勤電車から、海が見える。穏やかな水面に、日の光がチラチラと輝く。まだ日が昇らない時間帯は黒い地面のような海がそこにある。  慣れない仕事をこなす中で、その海は支えだった。「仕事先の大きさはこの海のほんの端っこくらいで、その中で喜んだり落ち込んだりしてるんだな。この海にいきなり飛び込むよりはどうってことないな」なんて、飛躍しすぎだけどそうやって頑張れていた。  ただ、海を見てほっとするとき、少しだけ緊張している自分もいる。それはきっと、あの日を思い出すからだろう。  

夢の、その先。

 最近、小さい頃の夢が立て続けに叶っている。いつかしてみたかったことが、今頑張っていることに変わって、「確かに、自分の中には絶対があるな」と思うようになった。私にとって"絶対"は、考え続けることだった。    ・ ・ ・  上の文章をnoteに書いて、顔を上げる。通勤電車の車窓の外に見えた朝日を眺めながら、ある人のことを思い出した。昔、好きだった人のことだ。  その人と一緒に帰ったことが一度だけある。その人は自分の夢を教えてくれた。私には考えきれないような、大きな夢だっ