小説/シャッターの向こう側で 【U'z】(初回)#1 新たな物語

─ねえねえ、みんな。
  「宝探し」って、知ってる?
  俺は知ってる。


上水流命人(かみずる みこと) 
  3月21日 火曜日 午前10時
     愛知県 冬雫(とうだ)町 日花(ひはな)港

「まもなく船が発進します。行ってらっしゃいませ、良い海の旅を!」
 船内にアナウンスが、俺の声が響く。この船の乗客は11人。さっき、澪(みお)が教えてくれた。
「お疲れ様っ!」
「お疲れ!」
 兄妹でハイタッチを交わし、にこりと微笑む。
 操舵室に行くと、お父さんが舵を取っていた。
「お疲れさん、命人、澪。休憩していいよ」
「ありがとう、お父さん頑張ってね!」
 俺は甲板に向かった。

 手すりに手をかける。
 涼しい潮風が顔に当たる。この潮の匂いと風の温度はいつになっても変わらない。俺の好きな海だ。

 日花港は45分の船の旅で、海とアートの島、日花島に着くための船を停める港なのだ。
 お父さんとお父さんの友達2人、そしてたまに俺と澪が手伝う。
 日花島と冬雫町を往復するだけだが、飽きない。毎回違う船客との交流を楽しめるし、時々日花島を探検できるし、毎回違う海鳥が見れる。

 そんな楽しい日々も、少しずつ削られていくんだろうなって思った。
 中学校が始まって、勉強が難しくなったら多分忙しくて海を航れないからだ。
 昨日小学校を卒業し、4月7日から学校が始まる。
 何か新しいことを始めるのは好きだ。不安と期待が混ざるあの瞬間が楽しい。わくわくする。
 けど、自分の好きな時間が無くなるのはな、と残念なのだ。

 2週間後の、入学式。
 新しいことを始めたい。
 幼い頃からの好きなことと両立しながら、いろんなことに挑戦したい。
 口から息を吸って、吐く。
 それから目を開けてまっすぐに島を見た。

東雲冷央(しののめ れお)
     3月21日 火曜日 午前11時
                愛知県 冬雫町

「嶺央兄(ねお)!夕飯は何作るの?」
「そうだなあ、、、。お父さんの好きな餃子でも作ろうかなあ」
「いいね!」
 俺は、お兄ちゃんの嶺央と、お父さんと俺の3人暮らし。本当はお母さんともう一人お兄ちゃんがいるのだが、だいぶ前に別れた。

 優しくて、頼りがいのある俺のお父さんは、手作り餃子が大好きで、俺らが作ると美味しそうにたくさん食べてくれるのだ。

 ふと、壁にかかったカレンダーに目をやると、昨日の日付に花丸が描かれていた。
 昨日は、卒業式。
 もう少しで、中学生になる。

 怖い。心臓のあたりを誰かに握られたかのように、苦しくて仕方がない。
 だけど。

 楽しそうに餃子の具材を考える嶺央兄を見つめる。
 もし、家族みんなで暮らせる日が来るのなら。
 俺が偶然、あの二人に会えたのなら。

 きっと、怖いのも、苦しいのも忘れられる。
 屋根の下で、みんな笑顔でいられる。
 だから、中学生になっても全力で頑張るんだ。

歩堂蘭(ぶどう らん) 3月21日 火曜日 午後1時
            愛知県 冬雫町 歩堂家

 陽が強いなぁ、と身体を起こした。
 短針が1を指していた。ということは、1時。
「、、、1時?」
 はっ、とした。
 やばい、もうすぐ柔道が始まる時間だ。朝ご飯を食べていない気がするが、不思議と空腹ではない。

 急いで一階に降りた。
「ちょっとお母さん!起こしてよぉ」
 お母さんはこっちを向いて言った。
「12時から10分おきに起こしたけどね。起きなかったわ」
「じゃあずっと起こしてくれれば良かったのにー」
「いつも怒るのに?」
 正論で追い詰められ、咄嗟にさっき思っていたことを言った。
「朝ごはんって、、、」

 すると、お母さんはきょとんとした。
「朝ごはんは7時に食べてたわよ」
「ええ、嘘!」
 おかしいなぁ、と記憶を遡っていると、お母さんに背中を手で押された。

「昼ご飯でしょ?寝ぼけてるの?早く座ってて」
 しぶしぶ了承して、椅子に座る。
 机にはポットや、果物、コーヒー豆の袋などの食べ物や調理器具が散らばっていて、カモフラージュしているかのように時計も転がっていた。
 この時計は、お父さんの時計だ。

 、、、ん?お父さんの、、、?
「お母さん!お父さんまた時計忘れてる!」
「ええ!?お父さんったら本当に、、、」
 会社で働くお父さんに時計は必須アイテムなのだ。それを忘れるだなんて、慌てん坊だなあ、と思う。
 半ば呆れながらお好み焼きを焼くお母さん。それでも、ほんの少しうれしそうに見えたのはボクの気のせいだろうか。

 と、その時、「ああ!!」とお母さんが声をあげた。
「なに?どうしたの?」
「キャベツいれるの忘れてた!!」
 綺麗に焼かれたお好み焼きの入ったフライパンの横には、ボウルに入った千切りキャベツが入っている。、、、お母さんも、慌てん坊みたいだ。
「何してるのー」
「ごめん!これで食べて!」
「いいよお」
 割り箸を割って、できたばかりのお好み焼きを口にいれる。キャベツは入ってなくて、なんだかパンケーキみたいだった。

 食べ終わって、支度をして、家を出ていく時、時計を見ると、1時55分だった。
 あと5分。
「行ってきまーす!!」
 走っている途中で気づいたのだが、ボクもまた慌てん坊だったのだ。

鴨ノ端羅希(かものはし らき) 
   3月21日 火曜日 午後2時
     愛知県 冬雫町 ダンス教室「リード」

「なぁ、羅希!」
「ん?どうした、柚俐?」
 隣で基礎練習を終えた釜石柚俐(かまいし ゆり)が話しかけてきた。
「もうそろそろだなぁ!」
「うん!楽しみだな!」
「「サマーダンスフェスティバル!!」」
 僕たちの声がハモった。
 サマーダンスフェスティバル、略してサマダン。
 僕たちはサマダンに毎年出場している。今年から
中学生になるため、出場順は後の方になりそうだ。

 この教室では優勝したことはないらしい。かろうじて僕が入る前に一度だけ2位のときがあったみたいだが。

「おーい、お二人さーん」
「あ、はい!」
 先輩の紅蛇聖(こうじゃ ひじり)さんが呼びにきた。
「なんだか楽しそうだね」
 そう言われて、僕と柚俐は食らいついた。
「だってもうすぐサマダンですよっ!?」
「ドラムロールの後のスポットライトに照らされたいじゃないですか!」
 ははっと、まるで弟たちを見ているような穏やかな目で、聖さんは笑った。

「だからって練習を適当にすんなよ?」
 かっこよくて優しいまっすぐな先輩、来井芽草流さんがペットボトルの天然水を飲みながらやってきた。
「もちろん、気は抜かないです!」
「大丈夫さ。夢を見るのはいいことだからね」
「まぁそうか」
 その後、くるりと後ろを向いて、端にいた男子たちに「おーい」と声をかけた。
「はい!」
「君たちもこっちで話そうよ!」
「行こうぜ、景(けい)!」
 礼儀が良いしっかりものの今藤景(こんどう けい)くんと、元気でお転婆な黛咲々(まゆずみ ささ)くんがこちらに向かってきた。
「よし、みんなサマダン頑張るぞ!」
「おおー!!!」
 みんなで拳を突き上げた。

残夜凪(ざんや なぎ) 3月21日 火曜日 午後3時 
            愛知県 冬雫町 残夜家

「凪ー!」
 自室のドアが開いた。呼んでいたのは、お姉ちゃんの颯(はやて)だった。

「ど、どしたの?」
 わくわくと嬉しみが混ざった幸せそうな表情で、ピアノを弾いている途中だった私の腕を掴んだ。
「なんとー!あたし、ギターの全国大会にいけることになりましたー!!」
 私は鍵盤からてを話して、思わずお姉ちゃんの腕を掴み返した。
「すごい、すごいよお姉ちゃんっ!!おめでとーう!」

 感動で、私の目は潤んでいた。
「ち、ちょっと凪っ、何で泣くのっ」
「だって嬉しいんだもん」
 お姉ちゃんは笑って私にくっついた。
「ありがと!もっと練習して頑張るね!」
「うん、頑張って!」
 手を振って、お姉ちゃんは部屋を出ていった。外から姉さーんと声が聞こえる。ちなみに姉さんは、霞(かすみ)ていう名前。

「んー、、、」
 静かになった部屋で、ピアノを見つめた。
 そういえば、私はピアノで結果を残したことは無い。姉さんも、バイオリンの全国大会で準優勝を果たしている。
 
 私は、地区予選で落ちる。県大会すらいけない。今年こそは頑張らなきゃ。
 震える手でピアノを弾いていく。
 
 ─私みたいに、落ちないで。全国大会で、優勝してね。
 なんて願いながら。


最後まで読んでいただいてありがとうございました!
次回もお楽しみに(*´ー`*)

今度はこちらの新しい小説も始まります!
どんな物語になるのか ぜひご期待ください!

↓黄昏時の金平糖。はこちらから全話見られます!

それじゃあ
またね!



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