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招待制合宿企画『揺蕩う群島 豊島篇』

『揺蕩う群島』という招待制の合宿企画を立ち上げ、9月30日に第一回を開催しました。瀬戸内の豊島に新設された豊島エスポワールパークにて。
友人の丸岡直樹くんと共同で企画し、日常の延長線上ではなかなかに巡り合うことのないであろう十八名のゲストをお呼びしての実現が叶いました。

生きていると、人間ひとり一人に個々の「わたしの世界」が自然と生まれてきて、その世界のなかに住まうようになっていくと感じます。関わるひとも、得られる情報も、身辺の使う道具も、生活の範囲も、仕事の幅も、次第に「わたしの世界」を形づくるようになっていく。
生きていれば、その世界は広がったり狭まったりしてつねに微妙に形を変えて表れるのですが、思わぬ揺さぶりがその世界に加わったり、異なる圏域での出会いが生じることは稀なことです。社会でさまざまな活動をしていれば絶えず出会いは訪れてきますが、飛躍的な出会いは少ない。

おたがいに生きている波長の似ていながら、これまで偶然の出会わせる機会のなかったひとびとが集い、それぞれに持ち寄った「わたしの世界」を形づくるものたちを突き合わせたとき、そこにはいまだ知りえなかった「わたしの世界」のさらに磨きあげられるための創造的な場が現出するのではないか。
それも、どちらかといえば内向していく性質を豊かにもっており、「わたしの世界」をじぶん自身の内奥で秘かに深めてきているひとびとにこそ、この「場」の現出をともに手伝ってほしい。

そんな思いをもって声をかけた面々から拡がった世界は、一夜で終わることのない未来に向けた創発の可能性を秘めた場となって現れたように思います。

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ゲストたちみずからに企画してもらった9つのプログラム、各所で偶発的に発生する対話のそれぞれが『揺蕩う群島』という企画の場を作りあげてくれました。

写真を中心に、メンバーたちの紹介を兼ねて時系列で紹介します。

ドリンク作家のemmyさんによる豊島の産地としての文脈を取り入れつつ、ここから場を発酵させていく思いを味噌や麹の素材に込めた、この企画だけのオリジナルドリンクをサーブしてもらい、企画はオープニングを迎えます。

振付家・ダンサー 湯浅永麻さんのムーブメントワークショップ「reconnect」
他者の存在や外への感覚にむけたわたしの気づきが、言葉を介することなくどのようにわたしの身体から表れてくるか。日が沈みゆく瀬戸内の海を背景にして、参加者たちのムーブメントの美しさに、そのひとそのものがそれぞれに現れ出てきているようでした。
締めくくりには永麻さんによるショーイングを観て、ひとの身体の動きによって自らの心の治癒されていくのを感じる稀有なときを過ごしました。

ディナーは、代々木上原に店を構えるアトリエフジタの藤田善平さんと、備前焼の陶芸家の木村肇さんによるコラボメニュー。「活け藻ふぐとごぼう、赤玉ネギのセビーチェ」「三鷹の在来種の四角豆とじゃがいも、ハモのフリット」「真鯛のヴァプール バターナッツカボチャのスープ」など6品目。
瀬戸内出身のお二人による料理は独創的かつすばらしく美味。野菜は三鷹と埼玉小川町の在来種が使われ、口の中で素材の味が爆発していました。当日朝まで生きてたふぐもはじめてたべた。

夜には座談会のプログラムが複数同時に走ります。

中江彩さんによる「放課後たらればトーク」は、かつて学校に通っていた時代の、特別な瞬間に思いを馳せる時間。さまざまな学校の過ごしかたの記憶が官僚への直接のフィードバックに繋がります。
学芸出版社を独立し、企画編集印刷出版を一手に行おうと準備している中井希衣子さんは「ビジネスと身体性」をテーマに、国土を歩き回って日本地図の制作を成し遂げた伊能忠敬を引きつつ、東千茅『人類堆肥化計画』、安田登『野の古典』などの本を輪読。
秋山きららさんは「マルコビッチのはじめまして」と題して、わたしが初対面の人と出会うときにどのような挨拶やコミュニケーションをとるか、を参加者に言語化してもらい、他者のケースを試しに演じてみるという企画。

夜もっとも遅い時間まで起きていたのがおそらく僕で、深夜3時までキュレーターの山峰潤也さんにお付き合いいただいて、屋上のテラスで星を眺めながら「星を受け取る」ことの話を聴かせてもらい、やがて眠りにつきました。


翌朝は朝6時半から、江戸時代後期より続く神道黒住教を継ぐ8代目黒住宗芳さんによる講話、次いで祝詞の大祓詞を奏上しました。
黒住教では毎朝日の出を拝む「日拝」を修行としていますが、黒住さんの解釈では太陽はいつでもそこにあり、日の出の時刻にかぎらずとも「心」がともなえばそれでよいのではないか、と。これからの宗教観や人の繋がりをアップデートしていく方と思っています。

Retocos代表の三田かおりさんは、唐津の8つの離島に自生する無農薬・無化学肥料の原料からコスメをつくっています(2022年度グッドデザイン賞を受賞との嬉しいニュース、おめでとうございます!)
今回はいくつかの素材を持参いただいて参加者がじぶんだけのフレグランスを調合するワークショップをしてくれました。

Benesseに在籍し、福武財団に長く出向しておられた塩田基さんからは瀬戸内におけるアートの活動についてのレクチャートーク。豊島エスポワールパークでの封切りとして企画をしないかと持ちかけてくれた方でもあります。

そしてプログラムラストは、北海道東川町に人生の学校Compathを起業した安井早紀さんと、中村優佑さんによるワークショップ「umibeの美術館」
デンマークのフォルケホイスコーレにインスピレーションを受け、大人になってからも余白を生み、学びを得ることのできる場を日本にもつくりたいとの思いで立ち上げた学校。その導入のプログラムのなかから、いつもは森の中でする内容を今回は海が間近なので、海辺を散策しながら。拾いあげたものたちで、参加者それぞれがちいさな作品づくりを行い、内面をみつめあいました。

クロージングにはふたたびはじまりへと回帰すべく、emmyさんが用意してくれたドリンク。オープニング時のドリンクの素地をそのままに、味と香りの配合を変化させ、希望のさすあかるさをまとったものへ。

これらのプログラムは、どれに参加するもしないもメンバーの自由。たいがい集団行動を好まずマイペースをなにより大事にするひとたちを集っているので、一昼夜の時間の過ごし方を自分で決められるようにしました。
また、プログラムに参加するなかで感じた価値を、個々のプログラム企画者に対してドネーションで受け渡しする仕組みを取り入れました。現金ではなく「ビー玉」を媒介とした贈与的な発想で、実験的に行なってみました。

ほかにも企画へのゲストとして、渡辺瑞帆さん(セノグラファー・建築家)、本村拓人さん(tact主宰)、富澤由佳さん(株式会社READYFOR採用責任者、経済産業省へ出向予定)、成瀬勇輝さん(株式会社ON THE TRIP代表取締役)、團上祐志さん(アーティスト、株式会社STILLLIFE代表)が集ってくれ、場の深まりをもたせてくれました。

合宿前後の時間帯にはオプションツアーとして、廃棄物対策豊島住民会議の石井さんより、豊島の産業廃棄物不法投棄の今に続く生きた歴史をめぐる学びを、産廃跡地の現地を案内していただきながら行いました。
事件への提訴に直接初期から携わっていた一住民の生の声を聴き、豊島の地を踏みしめることには、「わたしがいま立脚しているこの土地がどのようにしていまこのようにあるのか」を考えるにあたって、欠かすことのできない問いを投げかけてくれる経験となりました。

施設オープンの初日からかなりの融通を利かせて、気を配りイレギュラーな対応を引き受けてくれ、自由に過ごさせてくれた豊島エスポワールパーク館長の三好さん、堤さんはじめ、メンバーみなさまに感謝しています。

なによりも企画のパートナーで、こうした場を立ち上げる機会を手渡してくれ、現場のプロフェッショナルとしても最大のサポートと心遣いをもって、無言のうちにすべてを理解しあい、ともに隣りにあって支えてくれた丸岡直樹くんに!

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『揺蕩う群島』のステートメントには、下記のような文章をしたためました。

大海に浮かぶ独自の生態系をもつ幾つもの島々がたゆたう、その揺れ動きが波濤となって島の圏域を超えて行き交い、遍歴する一昼夜。しかし群島ひとつひとつは孤島である。独立してそこにある、孤島である。

わたしは独立してある、ということになによりの価値をみいだし、他者に力を誇示する必要もなければ、他者の作為につき従う必要もない、と思っています。

孤島として生きるすべてのひとに。また次なる機会、お声がけさせてください。


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